鼻ぺちゃ犬は要注意! 呼吸しづらい「短頭種気道症候群」とは

 フレンチブルドッグやパグ、ボストンテリアなどは、その愛嬌のある鼻ぺちゃ顔で根強い人気があります。でも、鼻ぺちゃゆえに気道に大きな問題を抱え、高齢になると深刻な病気になる可能性も……。鼻ぺちゃ犬=短頭種に多く発生する呼吸器の病気を総称して「短頭種気道症候群」と呼びます。獣医師の青木忍先生がくわしく解説します。

 

うまく呼吸できないと高体温になってしまう危険がある(写真提供:青木忍先生)
うまく呼吸できないと高体温になってしまう危険がある(写真提供:青木忍先生)

生まれながらにして呼吸器に問題がある

短頭種気道症候群になりやすい犬種

 イングリッシュ・ブルドッグ、フレンチブルドッグ、パグ、ボストンテリア、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなど。

 鼻ぺちゃ犬=短頭種は、そもそも伸びるはずの頭部の骨が伸びず、頭蓋骨の横幅に対して縦の長さが短いのが特徴。人間が品種改良で作った犬種で、「生まれながらにして呼吸器の問題を抱えている」と青木先生。 

「顔の骨は短いのに、口腔内の粘膜などの軟部組織は鼻が長い犬種と同じように発達してしまう。巨舌症といって舌も大きくなる犬も。つまり、小さな入れ物の中に柔らかい肉が詰まった状態になっているのです」

 構造上の問題はほかにも。その一つが「外鼻孔狭窄」、つまり鼻の穴が狭くなっている状態。「正面から見て、鼻の穴が丸くなく細く狭まっていると、上手に空気が取り込めません。中には鼻の穴が線のようにしか見えない犬もいます」(青木先生) 

「軟口蓋過長症」も多く見られる問題だ。軟口蓋とは、鼻腔および口腔と気管を仕切る役目をする組織で、それが通常よりも長く大きいと、鼻から気管に空気が入る部分に分厚いカーテンがぶら下がったような状態になり、空気の通りを阻害し、呼吸がしづらくなる。

 さらに、短頭種の犬には気管がうまく形成されていない「気管低形成」も多い。20キロぐらいあるイングリッシュ・ブルドッグでも、気管の太さがミニチュア・ダックスフントなどと同じぐらいしかないという犬もいるという。

「呼吸をするとき、空気が狭い鼻の穴をやっと通っても、大きな舌や喉の奥の長く分厚い軟口蓋に阻まれてうまく通らず、さらにその先の気管も細く、なかなか肺まで空気が行かない。呼吸しづらい状態をカバーするために、犬は呼吸筋を思い切り使って空気を吸い込む努力をし続けますが、それが長期間続くと気道に常に負担がかかり、さまざまな二次的変化が起こって、より重篤な状態へと進行していきます」

 

鼻ぺちゃ犬の中には、鼻の穴が狭く、空気を取り込みにくい犬も
鼻ぺちゃ犬の中には、鼻の穴が狭く、空気を取り込みにくい犬も

寝ているときのいびき、激しく苦しそうな呼吸音 

短頭種気道症候群の症状

・いびきをかく
・呼吸をするといびきのような音がする(軽度の運動や興奮でひどくなる)
・口を開けてハァハァと激しく呼吸する
・運動するのを嫌がる
・せきをする(喉に何かひっかかっているような)
・泡状のよだれや嘔吐
・重症化すると、呼吸困難、意識消失、チアノーゼ(特に興奮時や運動後に多い)といった症状も

 細い鼻の穴を空気が通り、呼吸のたびに分厚い軟口蓋が震えることで、寝ているときのイビキや、「ガーガー」「ブーブー」という呼吸音がするようになる。ほかには、水を飲むときにむせたり、興奮すると酸欠を起こして気絶してしまったりすることも。また、犬はハァハァと呼吸するパンティングによって体温を発散するが、うまく呼吸ができないと熱を発散できずに高体温になってしまう危険性もある。

 常に努力して呼吸していると、喉の粘膜が長い期間強く吸引されるため、扁桃腺の腫れ、喉頭室外反といった二次的な症状が出てくる。

 さらに長期にわたって気道に吸引される力が加わると、喉頭部の軟骨の強度が低下して軟骨が虚脱してしまい、喉頭全体が狭くなる「喉頭虚脱」という状態になってしまう。また、気管がつぶれてしまう「気管虚脱」といった状態になることも。放置したまま慢性化して高齢になると、いわば、短頭種気道症候群の最終段階に達してしまうのだ。

「多くはないものの、気管虚脱の手術に対応する病院はあります。しかし、喉頭虚脱に対しては一般的には確立した有効な手術方法がないのが現状です」と青木先生は話している。

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■青木忍(あおき・しのぶ) 獣医師・獣医学博士。日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)獣医学部卒業。同大外科講師・助教授、岩手大学農学部獣医学科外科教授などを経て、現在、動物病院ヘルスペット(神奈川県横須賀市、http://www.healthpet.net/clinic/)で外科手術、耳科、皮膚科を担当。専門学校で教鞭をとる。

中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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