体調を総合的に判断し根本原因に対処 犬・猫の中医学
検査では異状は見つからないのに、身体をかいたり、週に何度も吐いたり……そんなペットの不調にアプローチして、飼い主の心情も癒す犬・猫の中医学。1匹ずつ、オーダーメイドの処方はどうされるのか。
「ケンタの不調が続いているのよね。少しやせて、かゆがりもしている。思い切ってセカンドオピニオンを聞こう! 中医学の先生に診てもらおうかな」
6歳になる犬のケンタは、夏に家族と引っ越しをした。そろそろ部屋にも慣れると思っていたのだが、秋口になっても元気がないまま、食欲も落ちていた。だが検査をすると、数値は正常だった。
そんな中で、飼い主は、雑誌やネットで、ペットにも「中医学」があると知った。病気そのものを診るのではなく“心身のバランスをまるごと診る”、という考えに興味を抱き、近所で中医学を取り入れていれる動物病院を探して、訪れることにした。
「ケンタ君、こんにちは。初めてですね」
診察室に入ると、先生が優しく声をかけてくれた。
「先生、中医学では四診(ししん)という方法で体全体を診るんですね?」
「そうです、四診で患者さんに現われた症状や体質を総合的に分析するのが弁証で、弁証で得た病の根本原因に適した処置や治療を施すことを、論治といいます」
ケンタは目や耳、口の中の様子や、お腹の硬さなどを先生に丁寧に診てもらった。その後、飼い主は、先生に家での鳴き声や、食欲、お水の飲み方や量、うんちの回数などを細かく聞かれて、ちょっと反省した。
(普段から、ケンタの健康メモやペット日記をもっとつけておけばよかったな)
それでも、もともとのケンタの鳴き方や歩き方、行動などに関して、思い出せる限りのことを伝えた。
そうしてじっくりと探った結果、次のようなことがあらためてわかった。
水を飲む量は減り、便は前より軟らかめで、尿は淡い透明。ちゃんと歩くけれど、身体の動きが鈍く、耳垢が茶色い。病変はないのに体をかく。性格は甘えん坊で寂しがり屋。このごろ睡眠不足気味なのか疲れてもいる……
「こちらが、ケンタ君の状態を示すチャートです」
図を見せながら、先生にケンタの状態を説明した。
ケンタは〈全体的に元気がなく、疲れやすい〉〈抵抗力が弱っている〉〈いま、引っ越しによるストレスがきっかけで精神不安になり、身体に熱と、余分な水分が蓄積して皮膚トラブルが起きている〉という。
そして、先生は次のような中医学的な治療方針を示した。
「かゆみの原因である“熱”と“湿気”を取り去る働きのある生薬と、精神を安定させて落ち着かせる働きのある生薬を中心に処方します。かみみが落ち着いたら、元気がなくなって抵抗力が落ちているのを改善するため、“元気を補う”働きのある生薬を処方してみましょう」
飼い主は病院でもらった丸い漢方サプリをさっそくケンタに飲ませてみた。嫌がる子もいると聞いたが、ケンタは、ぱくっとそのまま飲みこんだ。
「よかった! 少しでも元気になるといいね」
ケンタの飼い主から話を聞いて、同じように猫の原因不明の不調に悩んでいたミーコの飼い主も、中医学を取り入れた動物病院を訪れることにした。
ミーコの年齢は14歳。シニア期に入り、たまに吐くようになったのだが、大きな病気ではないので「様子見しましょう」と主治医にいわれ、やはり飼い主はもんもんとしていたのだ。
ミーコは、あまり食べずに体をかゆがるケンタと違い、過食気味で体重は増えていた。大きな環境変化として、家族が夏に子猫を迎えたのだが、(四診により)ミーコもチャートが作られ、中医学の治療原則に従って、心身に合った処方がされた。
ミーコとケンタに処方された最初の処方は同じだった。
このケンタとミーコの処方に関し、中医師の楊暁波(ようきょうは)先生はいう。
「ケンタの場合は皮膚トラブルが主訴、ミーコの場合は、たくさん食べて吐くというのが主訴で、症状の出方が違いました。でも今回、いずれも主な原因はストレスで、治し方(アプローチ)は一緒でした。中医学ではこんなふうに、症状が違っても探ると原因が同じで、治療の方向性も同じということがあり、それを異病同治(いびょうどうち)といいます」
2匹とも状態は落ち着いてきたが、健康維持のためにしばらく通院をすることになった。
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