天から降ってきた子猫 小さなキジ猫「はっぴー」に出会った
「魚屋の屋根から、猫が4匹降ってきた!」
そんな情報が日本動物愛護協会に入ったのは、今年6月のことだった。都内の古い商店街の天井が崩れ、壁と壁のすき間に野良猫の子が落ちてきたというのだ。愛護協会は子猫の保護のため、ボランティアをすぐに派遣し、魚屋に向かった……。
私がその話を知ったのは、救出劇の翌日だった。別の取材で愛護協会の事務局に行った際、職員から“天井猫”のことを聞いたのだ。「猫たちは無事だったんですか?」と思わず尋ねると、職員が写真を見せてくれた。魚屋の店主が壁をたたいて壊し、ミーミーと鳴く子猫を1匹ずつ慎重に引っ張り出したという。子猫は4匹で、生後1カ月ほど。くもの巣やほこりにまみれていたが、三毛、サビ、白黒、キジの模様がわかった。
「到着した時には、壁に大きな穴が開けられ、トタン板で隠してありました。店主に救い出されたのは、オスが2匹、メスが2匹。これから先、子猫を迎える飼い主が幸せになるように、(協会のほうで)“四葉のクローバー”にあやかって、仮の名前をつけたんですよ」
三毛が“愛情”の「あいちゃん」、サビが“希望”の「のぞみん」、白黒が“誠実”の「まこちゃん」、キジが“幸福”の「はっぴー」。
子猫たちはすぐに動物病院で健康チェックを受けて、駆虫(ノミ、体内寄生虫)をし、飼い主を探しはじめた。4匹は食欲旺盛だった。ただ1匹、キジ猫だけ、ほかに比べて体が一回り小さく、「親猫が違うのかもしれない」という。
商店街の天井は、野良猫の住処となっており、魚屋の店主は今までにも何匹か商店街で猫を保護して家で飼っていたのだという。だが、すでに“定員オーバー”のため、今回の子猫たちは愛護協会に託されることになった。
愛護協会はシェルターを持っていないため、ふだん保護動物の預かりをボランティアや個人宅に委託している。6月中旬、その保護された猫たちの新しい飼い主を探す譲渡会を東京都渋谷区で開いた。
その譲渡会を見学に行くと、ホールの一番端に、天井から降ってきた“四葉のクローバー”たちがいた。
すでにメスの2匹「あいちゃん」と「のぞみん」には声がかかり、白黒のオスの「まこちゃん」を迎えたいという家族も来ていた。会場の職員が首をかしげる。
「みな決まっていくのに、キジ猫の『はっぴー』だけ、なぜかお声がかからないんですよね」
4匹はくんずほぐれつ、ケージの中でじゃれあっている。食事もぱくぱく食べている。その生命力にくぎづけになっていると、後ろを向いていたキジ猫の「はっぴー」が、くるっとこちらを振り返った。
2年前に17歳で旅立ったキジ猫の面影がふいに蘇り、ドキッとした。
だが、我が家には10歳を超えた先住猫がいる。持病もあって食事管理中だ。うちで引き取るのは難しいだろう。ケージを振り返って子猫の幸せを祈りつつ、その場を後にした。
その後、仕事で愛護協会に連絡した折に、気になっていた「はっぴー」のことを聞いてみた。ほかの兄妹は、正式譲渡に向けてトライアル(お試し期間)が始まったのに、「はっぴー」は1匹だけもらい手が決まらず、自分の指をチューチュー吸っているという。
「う、うちじゃ、だめですか?」
やりとりを経て、我が家でトライアルすることになったのは、8月はじめのことだ。
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