坂本美雨&サバ美 保護猫が開いてくれた日本での「人生の扉」
両親について、9歳で渡米。思春期をニューヨークで過ごし、21歳で帰国。いつも猫が身近にいたという彼女の、人生の転機を支えてくれたのは、保護猫の「サバ美」だった。
文/浅野裕見子 撮影/松永卓也

父は坂本龍一さん、母は矢野顕子さん。世界的人気アーティストを両親にもつ美雨さんは、音楽と猫に囲まれて育った。
「小さいころは東京の高円寺に住んでいたんです。自宅の庭にはしょっちゅう野良猫が出入りして、家族で勝手に名前をつけて可愛がったり。ご飯をあげるだけじゃなくて、病院に連れて行くなど健康管理もしていました」。そんな美雨さんが「ちゃんと家で飼った」最初の猫は「タビちゃん」。7歳だった美雨さんが、近くの公園で拾ってきたのだという。
「最初から完全室内飼育にしてました。9歳でニューヨークに渡ったときも連れて行って、それから20年生きたんです。長寿でしたね」。
ショックを受けた日本のペット事情
日本の小学校から転校した美雨さん。日本との一番の違いは、幼いころからの社会教育だったという。
「まず、アメリカではペットショップがほとんどないんです。あってもフードやグッズを売るお店がほとんどで、犬や猫はシェルターで出会うのが当たり前でした。シェルターは日本でいう保健所に近い位置づけなんですが、意味合いはだいぶ違う。もっとオープンな場所で、市民がボランティアに行きやすいんです。子供でも、学校の授業の一環でボランティアに参加したりしてました」
小学生のうちから動物愛護に限らず、環境、人種など、さまざまな問題について学び、考え、意見を発することが求められた。
「子供だからまだわからないだろう、とは思ってもらえない。幼いなりに、社会や世界で起こっていることを勉強する。そして、自分はどんな立場をとるのか。なぜ、そう思うのか。その立場で何をしたいのかを発表しなさいと。その子の状況に応じた考えでいいんです。正解も不正解もない。とにかく考えることが大事」
中学、高校と進むにつれ、クラブ活動のように「社会活動」の時間を持つようになった。
「世界環境について活動する人もいれば、自分の住む地域のことを考える人もいる。社会貢献は規模の大小で評価されるようなものじゃないですから」
そんな学生時代を送る一方で、坂本家ではタビちゃんの後輩猫が3匹、増えていた。
「日本へ帰国するご家族が、連れて帰れないとか。みんな、何らかの事情と縁があってうちに来た子たちでした」
やがて高校を卒業。音楽の道へ進もうと日米を往復する日々が始まった。「だんだん、日本での滞在が長くなって。でも、心の中では4匹と一緒に暮らしている、そんな感覚でした」。日本へ帰ってきてびっくりしたのは、ペットショップがすごく多いこと。繁華街の真ん中で深夜まで営業していて、しかも子犬・子猫が販売されていた。
「コンビニで買い物するみたいに、簡単に命が買えてしまう。その値段が高いのにも驚きましたが、動物たちの環境が決して良くないのも気になりました」
テレビのCMからチワワの人気が上昇していたころだった。大型犬が流行(はや)ったものの、飼いきれないからと、捨てる人が増えているとも聞いた。
「どうしてなの? おかしいよねって、ずっと思っていました。でも、自分に何ができるのかわからなくて。行動に出ることができないままでした」

タビちゃんに似てる!サバ美との出会い
アメリカの永住権を手放して、日本に腰を落ち着けたのが21歳のとき。
「それでも猫は飼わずにいました。居は構えたけれど、飼う自信がなかった。一生面倒見てあげる自信もありませんでしたし」
そんな美雨さんがサバ美と出会ったのは、それから9年後のこと。
「飼えないと思いつつも、やっぱり猫好きですから。ネットなどであれこれ眺めてたんです。そしたら里親募集のサイトでサバ美をみつけて。タビちゃんに目元がそっくりで、一目ぼれでした」
そのタビちゃんは、母、矢野顕子さんに看取られて、ニューヨークで亡くなっていたのだ。
「最期まで一緒にいてあげられなかった。それが申し訳なくて」

タビちゃんへの思いに突き動かされるように、譲渡会へ。「ほかにもサバ美に手を挙げた方はいたみたいなんです。ご縁があったんでしょうね」
そっと抱き上げたサバ美は、初めて会う美雨さんに警戒して「少し、手足がこわばってた」
けれど、すぐに心を開いてくれた。
「あまりにフレンドリー過ぎて……。サバ美は保護される前から地域猫として可愛がられてたんです。でも、誰にでもなついちゃうから、虐待されたことがあったらしくて」。木にくくりつけられているところを、通報を受けた保護団体の人によって救われたのだという。「そんな目に遭いながら、それでもまだ人に寄り添うサバ美を見て『これは野良にしておくのは危険だ』と保護されたんです」
「野良猫失格の烙印を押されたんだよねー」と美雨さんはサバ美に話しかける。クールビューティのサバ美は不機嫌そうに、両耳を後ろに向けた。いわゆる「イカ耳」だ。
「サバ美を迎えたことで、私も覚悟が決まった気がします。日本で暮らし始めて、最初にできた家族。守らなきゃいけない存在ができた。おかげで精神的にも安定したみたいで、友達からも『(サバ美が来てから)落ち着いたね』って言われました」。
サバ美を迎えて7年。猫好きっぷりを存分にアピールするブログやSNSでサバ美人気に火がついた。ツィッターで何気なくつぶやいた「猫はお吸い物です」という言葉から、とうとう著書『ネコの吸い方』(幻冬舎)を上梓。動物保護団体の手伝いをして保護犬の散歩ボランティアをしたり、イベントでミニライブを行うなど、活動も人間関係も格段に拡がった。「夫との出会いも、猫がテーマのアート展でしたし。本当に、サバ美がいろんなチャンスを与えてくれた」
今は子育てに、音楽活動にと多忙な日々。それでも「そのとき、できることをしたい」と、サバ美の絵柄のついたチャリティー商品を複数のブランドからコラボ商品として発売している。「普段使うものをチャリティー商品で購入するだけで誰でも貢献できる。楽しんでいいんだ、と思ってもらえたら嬉しいですね」
坂本美雨さんも出演!
いぬねこなかまフェス2017
〜動物愛護週間に集まろう〜

動物たちのために何ができるか。歌や演奏、講演などを通じて学び、考え、表現するイベント。収益は、殺処分を少しでも減らすために行政施設から「一般社団法人 ランコントレ ミグノン」にやってくる動物たちの養育費に充てられる。
主催:ミグノンプラン http://mignonplan.com
後援:ほぼ日刊イトイ新聞
制作:ウム
日時:2017年9月18日(月・祝)
開場16:00 開演17:00
会場:昭和女子大学人見記念講堂
チケット:全席指定 ¥4,320(税込)
出演:(5月29日現在の予定・五十音順)
akiko、坂本美雨、清水ミチコ、
スティーヴ エトウ、椿鬼奴、富樫春生、
友森昭一、町田康、水越美奈(動物行動学)、
矢野顕子、渡辺眞子+友森玲子(ランコントレ ミグノン代表)
お問い合わせ:DISK GARAGE:050-5533-0888(平日12:00〜19:00)
ライブ情報
おお雨コンサート
(おおはた雄一+坂本美雨)

2017年8月26日(土)開場17:30 開演18:30
場所:大分県 平和市民公園能楽堂
入場料:一般前売り4,320円 当日4,860円
小中学生前売り2,160円 小中学生当日2,700円
お問い合わせ:平和市民公園能楽堂 097-551-5511

聖歌隊CANTUS(カントゥス)をパートナーに迎えたミニアルバム『Sing with me』第二弾。『ブラームスの子守歌』など名曲の数々を収録。
Sing with me II YCCW-10296 ¥2,778+税
レーベル:ヤマハミュージックコミュニケーションズ
(朝日新聞タブロイド「sippo」(2017年7月発行)掲載)
sippoのおすすめ企画
9/26-28@東京ビッグサイトで開催!ほかでは出会えない1万人のペット関心層が来場