求められる獣医学教育③「多様な動物と暮らし、感じて学ぶ場を」
■動物の実際、もっと学んで 畑正憲さん(作家)
動物は千差万別で、その世界を一度でものぞいたら虜(とりこ)になります。大学の理学部で学んでいたときには内分泌学から生化学までやり、毎晩アメーバだけを見ていた時期もありました。
卒業後は、一歩でも動物に近づきたいと思いました。どうしたらゾウやヒグマに受け入れてもらえるのか考えて、人間であることも捨て、何十日もかけて近づくんです。
獣医師になろうと思ったことは一度もないです。知るおもしろさの虜で、治すというのは僕の守備範囲じゃないと思う。ただ、北海道に移って「ムツゴロウ動物王国」を開いたら、獣医師が次々とやってきた。いま開業している獣医師に会うと「王国での経験は役に立つどころの話じゃないです」と話します。動物と一緒に暮らしながら、生活のなかで診療をする。獣医師として得難いものなんですね。
いい獣医師は、普通なら聞き逃してしまう声や音を聞いて、動物が発するすべての情報をよく見て、そのうえで総合的に分析ができる。飼い主からも、いつ飼い始め、どういう環境で飼ってきたのか、変わったことはなかったのか、しっかりと聞き出せる。教科書やインターネットから知識を得ているだけの人と、実際に動物を総合的に知っている人との差が出るんです。
いま獣医学教育は6年制ですが、ぜんぜん足りません。獣医師は一生の仕事。卒業後の経験の積み方で、獣医師として光るか決まります。それだけ、動物の体というのは非常に複雑で微妙なものなんです。知識という先入観にとらわれず、動物の実際のことを身をもって知らないといけないということです。
僕は加計学園のことは毛ほども知らない。でも新聞を読んだら、ライフサイエンスをしっかりやると主張しているじゃないですか。本来のライフサイエンスは、生命そのものを科学的観点から深く捉えるものです。生き物が動く原理、繁殖する原理、つまりは生き物とは何かということをちゃんと学ぶということなら賛成です。
人間は動物から学べることがたくさんあります。いや、動物から学ばなきゃだめですよ。動物から、心をむなしくして教わった獣医師が増えるのだとしたら、それはいいことです。そのためには実際にいろんな動物たちと暮らし、よく見て、よく感じないといけないわけです。
犬や猫などの小動物、牛、馬、羊などの大動物をそれぞれたくさん校内や付属牧場に置いて、代々の学生で受け継いでいく。もし、そんな大学ができるのだとしたら「教えに行きたい!」って腰が浮きそうになりますよ。僕なんかはもう年で、足腰も弱っちゃったから、教壇にあげてもらえないだろうけど。
(聞き手・太田匡彦)
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