求められる獣医学教育②「高度化に対応、地域の偏りも解消を」

(写真は本文と関係ありません)
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たちかわすすむ 55年生まれ。徳島県家畜防疫衛生センター所長などを歴任。「コウノトリ 牛繁殖クリニック」を開業。
たちかわすすむ 55年生まれ。徳島県家畜防疫衛生センター所長などを歴任。「コウノトリ 牛繁殖クリニック」を開業。

■産業動物医を増やす必要 立川進さん(産業動物獣医師)

 徳島県庁で36年間ずっと畜産畑を歩み、宮崎県で口蹄疫(こうていえき)が発生した2010年は畜産課長をしていました。口蹄疫ウイルスを四国に侵入させないよう4県で力をあわせて、九州からのフェリーが着く港の消毒態勢などを整えました。獣医師資格を持つ職員を交代で10人ほど、宮崎県に派遣。約1年間は緊張しながら過ごしたのを覚えています。


 県内では小動物臨床以外の獣医師は不足しています。県職員の獣医師は定員割れです。待遇改善に努め、奨学金制度を創設、業務の魅力をPRもしていますが、新卒では採用予定人数の半分程度しか応募がないのです。


 産業動物を診る獣医師も少ないです。どこの自治体でも主に農業共済組合の獣医師が家畜を診療しますが、徳島県農業共済組合には現在5人しか獣医師がおらず、畜産農家が安心して経営できる状況にありません。急病の家畜が出た時、獣医師の到着が遅れることもあります。そのため数年前から公務員獣医師も家畜を診療しており、私自身も今年7月に家畜繁殖の専門医院を開業しました。


 産業動物獣医師に求められる仕事内容も、どんどん進歩しています。例えば単純な人工授精であれば自分でやれる農家が増えていますが、受精卵移植になると、獣医師が必要で県内で年200~300件近く手がけています。獣医療の高度化は小動物の世界と同様にみられ、検査技術も発達が著しい。こうした進歩に対応できる獣医学教育を現場としても望んでいます。


 四国での獣医学部の創設を県内の畜産農家は期待していると思います。家畜を診られる獣医師が増えれば安心感は増します。また、畜産農家の子どもたちは獣医師志望者が多い。間口の拡大は、魅力的に映るでしょう。ただ現実には、卒業生の多くは小動物の獣医師になるのではないでしょうか。四国に残ってくれるかどうかもわかりません。


 産業動物などの大動物を診る獣医師は、そもそも小動物の獣医師に比べてなり手が少ない。大学で牛を飼い、エサをあげるところから飼育管理を体験し、診療の実習に携わる。そうして初めて、一部の学生が大動物診療に魅力を感じるようになります。その道を選んだとしても、ペット向けの動物病院を開業して得られる収入には届きません。


 従来と同じような獣医学部ができ、毎年160人多く獣医師が誕生すると、飽和状態の小動物臨床の現場は、過剰な競争を強いられるでしょう。また充実をはかる途上の16大学の教育体制にもマイナスの影響が出ると思います。


 問題は地域偏在と職域偏在。解決策は、公務員獣医師や産業動物獣医師の待遇や給与を改善しつつ、仕事の魅力を地道に伝えていくことです。


(聞き手・太田匡彦)


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