野良猫との理想の関係は… 九州の「相島」、妙な距離感

(写真は本文と関係ありません)
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 空前の「猫ブーム」といわれる昨今、メディアでは猫が連日取り上げられ、インターネットも猫の画像があふれかえっている。その一方で、野良猫のふんにょう被害や住民による大量のえさやり、行政の殺処分といった負の側面もある。野良猫と人の理想的な関係は――。九州北部の「猫島」に渡り、その共生のあり方を探った。


 潮の香りが漂う渡船場付近の路上に寝転ぶ3匹の猫。西南学院大学(福岡市)の山根明弘准教授(50)が見かけた途端、「タンゴ、ラオ、ツクシ。観光客からのえさが目当てでしょう。以前の行動範囲は集落内が中心でしたが、こんなところにまで集結するようになりました」と説明した。見回すと、ほかに20匹近くの猫がいた。


 福岡県新宮町の相島(あいのしま)。新宮漁港の北西約7・5キロの玄界灘に浮かぶ。島を周回する県道は5・4キロ。大部分は山林で、南東部の海岸沿いに民家が連なる。4月末の人口は271人。山根さんの調査によると、集落周辺の猫は飼い猫を含め約170匹だという。

 

 

■観光で人気の島、猫にも過疎の影


 山根さんが相島の猫の行動調査を始めたのは1989年。それからほぼ四半世紀、米メディアCNNは世界の「5大猫スポット」の一つに「日本の猫島」を挙げ、相島を紹介。英字新聞「ジャパンタイムズ」も「猫の天国の島」と表現し、海外にも知られるようになった。町営渡船で2014年度に島に渡ったのは約5万1千人。それが16年度は約6万7千人に急増。観光目的の愛猫家らが押し上げた格好だが、えさやりを禁じる英語併記の看板も目につくようになった。不妊・去勢手術を受けていない島の猫が栄養を過剰摂取すれば、余ったエネルギーを繁殖に回して数が飽和状態になり、弱い小猫から死ぬからだと、山根さんは言う。


 えさを買ってまで猫に与えないのが島の伝統だ。木造の漁船の底をかじって穴を開け、漁網を破るネズミは漁師の敵だった。それを退治し、魚のアラもきれいに食べたのが猫。漁師の三船恒義さん(77)は「アラは放っておけば腐るのでありがたい」。1982年に下水処理施設ができ、ネズミは激減した。神宮寺の中沢慶輝住職(77)は「ネズミ退治の役目がなくても、猫は島の空気のような存在」。役場にふんにょう被害を訴える島民はいない。


 ただ、猫も過疎と無縁ではない。山根さんの先輩研究者による約40年前の調査では、現在の3倍にあたる約500匹がいた。島の人口も、お年寄りたちは「戦後の一時期は今より1千人は多かった」と口をそろえる。1960年に264人だった漁協の組合員数は47人に減り、旅館は5軒から1軒となった。旅館や民家から大量の魚のアラが出なくなってきたことで、猫も減ったようだ。山根さんは「海に命を預けて漁をする島民は、弱者が生き残れない『野生のおきて』を無意識のうちに理解しているのでは」とみている。

 

 

■殺処分減の施策、地道な市民活動


 そんな相島の猫と島民の「距離感が絶妙」と感じているのが「長崎の町ねこ調査隊塾」塾長の中島由美子さん(61)。猫と人のより良い関係を模索する基礎資料にするため、メンバーらとともに2011年から長崎市中心部で個体数調査を続ける。活動の参考にしようと、相島には3回渡った。


 環境省によると、全国の猫の殺処分はピークの1991年度の33万3457匹から2015年度は6万7091匹に減った。13年施行の改正動物愛護法で自治体は安易な引き取りの求めを拒否できるようになり、不妊・去勢手術の助成、譲渡率の上昇も殺処分の減少に結びついているという。


 その中で、長崎市は15年度、1260匹で当時の45中核市で最多。温暖な気候、車が進入できない石畳や路地、市場といった野良猫の繁殖に良好な環境があり、市に子猫の引き取りを求める住民らが少なくないからだ。この数の多さが中島さんらが調査を始めるきっかけだった。英国の学者らがまとめた世界の猫密度ランキングでトップのエルサレムに次いで高い区域があることが分かった一方、捕獲し(Trap)、不妊・去勢手術を受けさせ(Neuter)、元の場所に戻す(Return)市助成の「TNR活動」の効果も、調査結果から浮かび上がっている。市の16年度の殺処分数は965匹で、初めて1千匹台を割った。


 山根さんは研究課題の一つに「猫と人の共生」を挙げ、相島がそのモデルになると考えている。「野良猫を温かく見守りながらも生き方までは干渉しない歴史。都会での共生のヒントも与えてくれます」


(辻岡大助)


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