たくさんの善意で育つ盲導犬 「パピーウォーカー」って何?
視覚障害者の歩行を助ける盲導犬は、全国で約1千頭が活躍する。一方で、盲導犬との歩行を希望する視覚障害者は約3千人と言われ、数が圧倒的に足りない。宇都宮市の東日本盲導犬協会は盲導犬を無償貸与するため、繁殖や育成、訓練などに取り組んでいる。
育成にはボランティアの協力が不可欠だ。盲導犬になる犬はブリーディングウォーカーと呼ばれるボランティア宅で生まれ、約60日間を母犬やきょうだい犬と過ごす。その後、生後約1年まで、1頭ずつパピーウォーカー(PW)の家庭で過ごす。
PW宅での約1年間は、人に例えれば幼稚園児が大学生に成長し、人の社会のルールを学ぶ大切な期間だ。協会の担当職員、栗本萌子さん(24)にPWを紹介してもらった。
「ずっしりしていますよ。アンバーです」
今月4日、パピー(子犬)を育てる上田耕一郎さん(65)、恵真さん(58)夫妻=千葉県=にメスのラブラドルレトリバーを預ける「委託式」があった。栗本さんがワクチン接種や研修会の予定を説明。協会へ戻る「入学」まで上田さん夫妻と過ごす。
上田さん夫妻は10年前にPWを始め、アンバーで7頭目。2頭が盲導犬になった。恵真さんは「責任感と盲導犬になってほしいという思いは強い」と話す。
職員は定期的にPW宅を訪問し、成長や行動を確認する。今月、栗本さんと宇都宮市の庄司里絵さん(38)を訪ねた。
庄司さんが迎えたラブラドルレトリバーのメス、マリンは今月26日に入学する。「当初は夜泣きし、カーペットで排泄(はいせつ)をする。何でもかむなど反抗期もあり大変でした」と振り返る。
様々な場所へ行き、楽しい経験を積むことが経験値となる。庄司さんはマリンをキャンプや海、スキー場へ連れていった。犬を飼うのは初めてだったが、夫と小学生の子ども2人と愛情たっぷりに接した。
PWを続けますか――。「入学後どれだけ悲しくなるのか、気持ちを確かめてから考えたい。育成には貢献していきたい」
入学後は約1年間、訓練を積みながらテストを受ける。合格した訓練犬は視覚障害者との共同訓練に入る。盲導犬になれるのは3割ほど。協会では盲導犬になれなくてもキャリアチェンジ犬として、登録する一般家庭に紹介している。
盲導犬を連れた人の事故は後を絶たない。盲導犬に触ったり、エサを与えたりすれば犬の集中力が切れる。協会は、危険だと感じた時には「盲導犬ストップ!」と大声で知らせたり、人の体に触れて止めたりしてほしい、と呼びかけている。
(坂田達郎)
■企業・個人の寄付で運営
盲導犬は1頭育成するのに約500万円かかる。協会は盲導犬、訓練犬、パピー、繁殖犬など100頭余りを所有(昨年3月末現在)。運営費の9割超が企業・個人の寄付金だ。奈良部武司事務局長は「たくさんの人の善意が盲導犬を育てている」と話す。
毎春の「盲導犬ふれあいデー」には約1千人が訪れる。今年は4月23日に協会で開催。盲導犬デモンストレーションや犬舎見学、バザーなどがある。
宇都宮市福岡町にある公益財団法人。全国に11ある盲導犬育成団体の一つで、盲導犬訓練士4人、歩行指導員2人など職員15人がいる。1974年に財団法人栃木盲導犬センターとして設立された。問い合わせは028・652・3883。
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。