映画監督 犬童一心と猫 映画の中の猫

(写真は本文とは関係ありません)
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人の孤独に寄り添う猫 グーグーに影響を与えた

 大島弓子さんの名作エッセー漫画『グーグーだって猫である』を映像化する際に参考にした映画作品について書こうと思う。

 映画の中に猫がいる。でも、その居かたにはいろいろある。

 まずあるのは猫PV。音楽とともに可愛く見せていくことがメイン。日本の代表作は「子猫物語」で1986年の大ヒット作。北海道の大自然をバックに子猫の大冒険が繰り広げられる。協力監督の市川崑が手がけた編集と坂本龍一の音楽のマッチが見事だ。ただ、現在は大冒険過ぎて、猫に無理を強いた撮影がなされたのではと言われ、スタッフには反面教師として示した。

 このジャンルで一番好きで、世にも評判なのが、96年のロシア映画「こねこ」。

 モスクワの街で迷子になったこねこが家に戻るまでの小さな旅。この作品が見事なのは、猫とともにモスクワの街を魅力的にしっかり捉えていること。人と、風景と、猫がクールに同じ距離で描かれる。この等価に配されるバランスは大きな参考になった。

 そして、可愛いと可愛くないのギャップで見せるもの。多くは、強面(こわもて)か人間嫌いの孤独なおじさんが猫には次第に笑顔を見せていく。最近の作品では「猫侍」「ネコナデ」「先生と迷い猫」などがある。どれもとても丁寧で楽しいが、ギャップに頼っていることで猫の可愛さだけに焦点が合って、押し付けがましく感じるのが玉に瑕(きず)。人の「孤独」もギャップのために配された状況に見えてしまう。

 猫は、かわいいだけではない、どこか説明のつかない、どう思ってるのだろう? どう感じているのだろう? と人に想像させるところが魅力だし、大事な役割だと思う。理解できない存在と想像力でコミュニケートする。人種や宗教の問題を抱えた今、人類の命題がそこにある。

 そして、主人公のそばにそっと寄り添う姿を描くもの。名作と言われるのは74年のアメリカ映画「ハリーとトント」や73年のチャンドラーの名作探偵小説を映画化した「ロング・グッドバイ」。個人的には「ハリーとトント」は老人と猫という画が生み出す感慨が定番過ぎて、心の深くまで物語が落ちてこない。それに比べ「ロング・グッドバイ」は、エリオット・グールドという不思議な性格俳優が私立探偵フィリップ・マーロウを演じているその風景があまりに自然な70年代のアメリカ西海岸で、その地にある孤独が滲(にじ)むように映画に立ち現れる。冒頭、家に帰ったら猫のキャットフードがなく、深夜のスーパーに買いに行くくだりから、夢中にさせられる。猫が人の孤独に寄り添う存在としてこんなに自然に、胸迫るように描かれた作品はない気がする。

 実はこの作品が「グーグーだって猫である」に最も大きな影響を残した。人の持つ孤独のリアリティーを掴(つか)んだ時こそ、猫の存在は最も輝く。

犬童一心監督が初めて手がけた小説『我が名は、カモン』(河出書房新社)が12月20日に発売された。主人公はベテラン芸能マネージャー・加門慶多。「夢を諦めた人間が、自分の立つべき居場所を探す物語」(犬童監督)。

(朝日新聞タブロイド「sippo」(2016年12月発行)掲載)


犬童一心(いぬどう・いっしん)

1960年東京生まれ。映画監督。主な監督作品に「金魚の一生」「二人が喋ってる。」「金髪の草原」「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「のぼうの城」など

sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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