絵本「くつやのねこ」、国際絵本原画展で受賞

■絵本作家・いまいあやのさん
繊細なディテールを描くのが好きです。「長靴をはいたねこ」を私なりにリメイクした「くつやのねこ」(BL出版)も、猫の毛を鉛筆や水彩絵の具で描きました。
猫を描きたくて主人公に選び、靴を履かせてみたら、たくさん靴を描きたくなって。それで飼い主を靴屋にしました。動物を作品で取りあげることが多いのですが、毛の1本1本を描きたいと思いながらいつも作品づくりをしています。
次はどんな色にしようかなどと苦しんでいる時間は長い。でも方向性が見えるとわくわくします。写真のようにしたいわけではないですが、細かく描き込んだ絵の世界が、そこにいるような出来になるのは楽しいです。
ディテールは絵に説得力を持たせられると思うんです。ただ、話の説明になっていたらつまらない。絵が物語を語っているかどうかを意識しています。
「くつやのねこ」は、スロバキアのブラチスラバ国際絵本原画展で、子どもの審査員たちが色彩や画面のつくり方を評価してくれて賞に選ばれました。子どもたちに響いたのはうれしいですね。
私の絵は、海外では「日本を感じる」と言われ、国内では「西洋的」「異国風」と言われることもあります。子どものころ、ピーターラビットの繊細さや、安野光雅さんの水彩画の優しい感じが好きでした。リスベート・ツベルガーの水彩画も「絵本でこんな表現ができるんだ。神様みたい」って。それらが私に染み込んでいるのでしょうか。
専門出版社の編集者マイケル・ノイゲバウアーさんからは、なるべく絵が「無国籍」であるほうがより多くの国の人に受け入れてもらえると言われます。特に子どもたちは、登場するのが人間より動物のほうが、気持ちが話に入っていけると。そこは意識して制作しています。
高校生のときに本格的に絵に興味を持ち、美大で専攻したのは日本画。予備校で「君のデッサンは細かいから向いている」と勧められて。
日本画では、壁みたいな大きさの絵を描いていました。絵本作家の道に進んだのは、学生のときに児童文学の挿絵を手がける機会があって、机の上で描ける作品のサイズが新鮮で。本棚の絵本を読み直してそのイラストレーションの世界に気づきました。
就職活動は文具メーカーのデザイナー部門などを受けたのですが、決まりかけていた話を辞退してしまいました。
ある会社の面接で「自分の作り出したものを変更するよう求められたら、変えられますか?」と言われ、言葉に詰まったことが引っかかっていました。
自分らしい絵を追究してきたのに、いざ就職となると、個性を殺せるか、自分以外のものに合わせられるかが求められて、矛盾を感じてしまったんです。愛情をかけてつくった作品は自分の分身。簡単には変えられない。就職は「向いていないかもしれない」と。
そのころ、イタリアのボローニャ国際絵本原画展に応募をしていました。友人に誘われて行った美術館にこの原画展を見に行って応募要項があって。それが2003年度に入選し、絵本作家としてスタートできました。
絵本は私にとって、自分の世界観の絵を描くために選んだ大事な場所なんです。
(聞き手・田中章博)
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