保護犬も受刑者も癒やされ役立つ 刑務所で介助犬を訓練

 介助犬候補の犬にドアの開閉を教える受刑者 ©大塚敦子
介助犬候補の犬にドアの開閉を教える受刑者 ©大塚敦子

 私はこの20年、刑務所や少年院などで動物を介在したさまざまな矯正プログラムを見てきた。犬や猫、馬などの動物は、罪を犯した人の更生を助ける大きな力を持っていると実感している。

 

(末尾にフォトギャラリーがあります)


 初めて取材に行ったのは、アメリカ・ワシントン州の最重警備女子刑務所の「プリズン・ペット・パートナーシップ」(以下PPP)。アメリカの刑務所では、犯罪をした人たちが介助犬など人を助ける犬を訓練するプログラムがさかんにおこなわれているが、その草分けとなったのがPPPだ。アニマル・シェルターに保護された犬を受刑者が介助犬やセラピー犬に育て上げ、障害のある人に届けるというこの試みは、1982年以来30年以上にわたって一般市民の強い支持を得てきた。


 PPPの特徴は、受刑者、障害者、犬の三者すべてが恩恵を受ける〝ウィンウィン〟プログラムであることだ。この刑務所に収容されているのは、殺人などの重い罪を犯し、長期刑を科されている受刑者が多いが、介助犬の訓練は、そんな彼女たちに社会に貢献する機会を与える。障害のある人は介助犬を得ることによって、より自立した生活をすることができる。そして、引き取り手が見つからなければ安楽死させられたかもしれない犬は、再び生きるチャンスを与えられる。

 

訓練を終え、犬を連れて生活棟に帰る受刑者たち ©大塚敦子
訓練を終え、犬を連れて生活棟に帰る受刑者たち ©大塚敦子

 この画期的なプログラムを自分の目で見たい!と意気込んで取材に出かけたのが1996年。最初は雑誌に記事を書くための一度きりの訪問のつもりが、その後3年近く通い、『犬が生きる力をくれた』(岩波書店、1999年)にまとめることになった。その後も数年おきに訪問し、保護された猫を受刑者が世話して引き取り手を探すなど、新たに始まった活動も見てきた。なぜ、これほど長く関わることになったのだろうか。


 それは、自分とは何の接点もないと思っていた女性受刑者たちの物語を聞くうちに、多くの女性が抱えている普遍的な問題が次々と浮かび上がってきて、とても人ごととは思えなくなったからだ。自己肯定感に乏しく、アルコールやドラッグを乱用して自身を粗末に扱う人たちや、人を信頼できず、傷つくのがこわくて心を閉ざす人たち。性的虐待やDVの被害者も非常に多い。


 そんな女性たちの心を開くうえで、動物たちの力はとても大きいと感じる。人間には心を閉ざしていても、与えられた愛情をけっして裏切らず、ありのままの自分を見てくれる犬や猫に対してなら開けるという人も少なからずいるからだ。自分と同じように虐待やネグレクトを経験した動物たちに再び人を信じることを教えることは、まさに彼女たち自身の癒やしの過程とも重なる。


 このたび『犬、そして猫が生きる力をくれた―介助犬と人びとの新しい物語』として、前著を大幅に加筆し、書き下ろした。犬や猫との絆が人の生き直しを助ける可能性について、ぜひ多くの人に知ってもらいたいと願っている。

 

自分が担当している犬とはいつもいっしょに移動する ©大塚敦子
自分が担当している犬とはいつもいっしょに移動する ©大塚敦子

 次回は、PPPを卒業して出所した人たちのその後について。社会復帰への過程で、犬や猫はどのように彼女たちを支えたのだろうか。

 

◇大塚敦子さんの著書はこちらからも

大塚敦子
フォトジャーナリスト、写真絵本・ノンフィクション作家。 上智大学文学部英文学学科卒業。紛争地取材を経て、死と向きあう人びとの生き方、人がよりよく生きることを助ける動物たちについて執筆。近著に「〈刑務所〉で盲導犬を育てる」「犬が来る病院 命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと」「いつか帰りたい ぼくのふるさと 福島第一原発20キロ圏内から来たねこ」「ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発」など。

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この連載について
人と生きる動物たち
セラピーアニマルや動物介在教育の現場などを取材するフォトジャーナリスト・大塚敦子さんが、人と生きる犬や猫の姿を描きます。
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