犬の記憶力 犬も思い出に浸れるのか?

犬ってどれくらい記憶力があるの?過去を思い出すことはあるの? 音も記憶できるの? など、犬の記憶については謎が多い。動物や犬の記憶に関する画期的な実験を成功させてきた、京都大学心理学研究室の藤田和生教授に、犬の記憶について伺ってみよう。
監修:藤田和生教授


 偶然記憶していた出来事を、意図的に思い出すことができる、ということが立証された。犬も思い出に浸っている?

 

 

偶発的に覚えた記憶だとしても犬は意図的に思い出せる
美しい過去を思い出して幸せな気分に浸っているかも?

 私たちには、いろいろな思い出がある。あの店のスープはおいしかったなとか、あの丘から見た夕日はきれいだったな、とか。そういう日々の何気ない出来事を思い出として脳にストックし、引っ張り出して浸ることができる。美しい過去に没入することができるのは、とても幸せなことだと思う。


 犬も偶然覚えた思い出を意識的に引っ張り出すことができることを示す実験が藤田教授によって行われた。


 大きさも色も形も異なった4つの不透明のふたのない容器にオヤツを入れて床に並べる。飼い主にリードを持ってもらい犬を歩かせ、4つの容器の中を見せる。そのうちの2つを犬に食べさせてあげる。その後、15分ほど散歩に出かけてもらう。その間に、においを手掛かりにできないようにするため、同じ形をした新しい容器にオヤツを入れず同じように並べる。


 そして、戻ってきた犬をまた自由にする。もし先ほどの経験を記憶していて、思い出すことができるのならば、「さっきオヤツを食べたほうじゃない容器に、まだオヤツが残っている」と判断し、そちらに向かうはずだ。


 結果は、ほとんどの犬が、オヤツが残っているはずの容器にむかった。


 これは、偶然経験した記憶を意図的に引き出して思い出しながら行動したということだ。今までわかっていなかったことを解明した、画期的な実験結果となった。もしかしたら、時々過去を思い出して、それに浸っているのかもしれない。

 

もっと知りたい!Q&A

 この実験に関わる謎について、もう少しだけ藤田教授に語っていただこう。

 

Q.犬はどれくらい詳細に記憶している?
A.細かい違いも覚えることができる

 上で紹介した実験には続編がある。犬は過去の経験の詳細な部分も、思い出せると示すものだ。


 同じような容器を4つ用意し、2つにはオヤツを、1つは石ころを入れる。1つは空っぽの状態に。先ほどと同じように飼い主にリードを持ってもらい、4つの容器の中を見せる。今度はオヤツを1つだけ、食べることを許可してもらった。


 そして、また15分ほど散歩に出かけ、戻ってくる。その間に、残っていたオヤツも隠し、容器も同じ形のものに変える。オヤツがあった容器がどれかを判断するには、前回より詳細な記憶が必要になる。もし犬がそれを覚えていたら、食べ物が入っていたのに、食べることが許されなかった容器、つまりオヤツが残っている容器へむかうはず。


「結果は、多くの犬が食べ残したオヤツのある容器へむかいました。つまり、犬は過去の経験の細かい部分も記憶しているということです」

Q.今ホットな実験は何かありますか?
A.エピソード記憶、未来も予測できるかも

 今ホットな研究対象はエピソード記憶。


「記憶を意図的に引っ張り出して思い出せるということは、過去のことを現在に引っ張ってくるということ。過去に、タイムトラベルするような感覚。心の中で時間を超越できるという意味です」


 そうすると、同じシステムを使って未来のことを思い浮かべることができるのではないか? という意味で注目されているのだという。


 今まで犬は、現在にだけ生きているという印象が強く、未来や過去を思い浮かべると考えられていなかった。しかし、実はそうではないのかもしれない。


 飼い主の行動から「動物病院に連れ行かれるかも」といった近い未来を推測することができるのは一目瞭然だが、もっと先の未来さえ思い浮かべている可能性もある。なんだか、ロマンのある話ではないか。もしかしたら、寝る前に明日の予定とかも考えているかも?

Q.記憶しようと思ってすることができるの?
A.鳩もできるので犬にも可能だと思います。

 人間の場合は、受験勉強の時など、ちゃんと記憶をしようと思って覚えることがある。


「実験はありませんが犬にもできると思いますよ。さっき見た図形を後で選ばせる鳩の実験があります。その見本を覚えなくてもよいという意味の刺激を与えてから見せ、後から抜き打ちの実験をした場合、忘れているんです。覚えていて、という刺激を与えてから見せると、その後テストするとちゃんと覚えていますが。これは、犬もできるはず」

エピソード記憶って?

 偶然起きたストーリーのある記憶で、意図的に思い出せるものでもある。

 

監修:藤田和生教授

京都大学文学部心理学研究室教授。多様な動物の認知、知性、感情の働きを分析し、相互に比較することを通して、心の進化を明らかにすることを目指している。主な著書に『誤解だらけのイヌの気持ち』など。

★実験参加犬募集★

 藤田教授はCAMP-WANというプロジェクトを主宰している。人と犬の関係をさらに深いものにするために、犬の行動や知性について調査している。CAMPWANでは調査に協力してくれる日本犬を募集している。

https://sites.google.com/site/kyotocampwan2/home

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