猫のニーズとは? 室内飼いの猫に必要な環境 その11

ワクチン接種のため来院した佐藤ティテちゃん
ワクチン接種のため来院した佐藤ティテちゃん

1)ワクチン

 子猫を迎えた飼い主さんに、まずやっていただきたいメディカルケアはワクチン接種です。ワクチンは、目に見えないウイルスなどにより引き起こされる感染症の予防に不可欠です。

 現在はワクチンの普及のおかげで、このような病気が大流行することは減ってきました。しかし、いったん感染して発病してしまうと重症化することも多いので、必ず予防しておいて下さい。たとえ室内飼育であっても、動物病院で診察を受けたりペットホテルに預けたりするときなどに外出する機会はありますし、人間が外から病原体を持ち込んでしまう場合もあります。ワクチンは子猫の時期だけではなく、成猫になっても定期的な追加接種が必要です。

 ワクチン接種を受けるために動物病院に訪れるこの機会に、健康診断や栄養指導を受けるとよいでしょう。健康診断時には身体検査に加えて、検便や尿検査、血液検査、その他の検査を必要に応じて行います。

 特に気になる症状がなくても、定期的に健康診断を受ける機会を作ることで、病気の予防や早期発見・早期治療ができ、健康を保ち長生きさせることができます。ワクチンの種類や時期など、詳しくはかかりつけの動物病院で尋ねてみて下さい。


2)不妊・去勢手術

 行政の施設では多くの犬や猫が保護される一方で、殺処分される犬や猫もまだまだたくさんいます。特に子猫の殺処分数が多く、望まない出産を避けるために不妊・去勢手術の徹底が必要です。

 不妊・去勢手術をすることで、生殖器系の病気の予防もできます。

 また性成熟期に達した雄猫は、尾を立てて尿を後ろ向きにかけるスプレーと呼ばれるマーキング行動をし始めます。性成熟した雄猫の尿の匂いは強烈で、拭き取ってもなかなか消すことができません。マーキングを目的とする不適切な場所での排尿や雌を巡る雄同士のけんか、徘徊(はいかい)、性的な衝動からくるイライラや落ち着きない行動などにも、去勢手術が有効です。

 また雌猫では、発情期には、大声を張りあげて床などに体をこすり付けるような雌猫特有の行動をします。不妊手術を行うことによってこれらの行動もなくすことができます。

 手術の時期は生後半年ごろを目安にしている動物病院が多いと思いますが、病院によって違うこともあるため、かかりつけの動物病院で相談してみて下さい。


3)デンタルケア

 猫も人と同じで、健康で長生きするためには、デンタルケアが必要です。猫には虫歯はあまり見られませんが、歯周病など口の中のトラブルは非常に多いのです。3歳以上の猫の約80%が歯周病にかかっているとも言われています。

 歯周病は、口の中の不快感や口臭の原因になるだけではありません。血流を介して口腔(こうくう)内の細菌が腎臓、肝臓、心臓をはじめとする全身の臓器に運ばれて、さまざまな病気を引き起こすことが知られています。

 これらの病気の予防に最も効果的なのは歯磨きですが、猫の歯磨きをするには根気よくトレーニングを行う必要があります。

 注意してほしいのは、猫を押さえつけて無理やり口に歯ブラシを入れたりしないことです。歯磨きを嫌がるようにしてしまったら、歯磨きをすることがお互いに苦痛になります。猫がのんびり眠っている時に少しずつ行うか、特別に好きな食べ物を使うなどしてやさしく、歯磨きの練習をして下さい。

 また歯磨きができるようになっても、奥歯や歯の裏側など歯磨きしにくい部分があり、人のように完璧な歯磨きはできません。そこで歯垢を防ぐ効果のあるフードやその他のデンタルケア製品を併用されることをおすすめします。

 一方、歯石がついてしまうと、歯ブラシで取り除くことはできませんので、動物病院でスケーリングの処置が必要になります。健康診断やワクチン接種などの際に定期的に歯をチェックしてもらいましょう。


4)マイクロチップと迷子札

 マイクロチップとは、背中側の首の皮下に注射器のようなもので埋め込むことができる安全な個体識別の手段です。直径2ミリ、長さ8~12ミリの大きさのチップで、データベースに登録されている個体情報のわかる15桁の数値を専用のリーダーで読み取ることができます。

 迷子札は外れてしまうことがありますが、マイクロチップは一度埋め込めば生涯外れることのない身元証明となります。マイクロチップを入れていたために身元がわかり、処分を免れるペットもいます。ただし外観からはわからないので、迷子札も併用されることをおすすめします。

 完全室内飼いの猫でも、移動中や来客時などにうっかり開いたドアから外に出てしまい、行方不明になってしまうこともあります。

 また地震などの災害時には、自宅の倒壊や避難場所などで多くの犬や猫が飼い主と離れ離れになってしまいます。日本中どこに住んでいても、いつ災害に見舞われるかわかりません。ぜひかかりつけの動物病院でマイクロチップについて相談してみて下さい。

 さて今回で猫のニーズの話はひととおり終わりました。猫に必要なものがお宅に整っているかチェックしてみましょう! 自信のない項目はもう一度過去の記事を読み直してみてください。ぜひ皆さんの愛猫のために快適な生活環境を整えてあげてくださいね。

☐ 適切な食事と水

☐ 猫用の草

☐ 快適なトイレ

☐ お気に入りの爪とぎ

☐ 安全に外が見られる場所

☐ 上下運動ができるスペース

☐ 安心して眠れる場所、隠れることができるスペース

☐ 捕食本能を満たす刺激(おもちゃなど)

☐ 社会的刺激(同居動物や飼い主との楽しいふれあいなど)

☐ メディカルケア

村田香織
獣医師、もみの木動物病院(神戸市)副院長。イン・クローバー代表取締役。日本動物病院協会(JAHA)の「こいぬこねこの教育アドバイザー養成講座」メイン講師でもある。「パピークラス」や「こねこ塾」などを主催、獣医学と動物行動学に基づいて人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。

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この連載について
ペットのこころクリニック
犬や猫の問題行動に詳しい獣医師の村田香織先生が、ペットと幸せに暮すためのしつけや飼い方のコツをていねいに解説します。
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