古くて新しい猫マンガ 「彼氏」キャラの猫も登場

こちらが「おいで」と言っても来ないのに、忙しい時に限って「かまって」攻撃。クローゼットに潜り込んでは、お気に入りの服を毛まみれに……。ああ、それでも許してしまう。何をしたってネコは愛(いと)おしい。そんなネコに振り回されつつ、常に創作意欲をかきたてられてきたのがマンガ家たちだ。
最近では「ネコノミクス」という言葉を耳にするほどのネコブーム。ペットフード協会によると、日本のペット飼育数はこれまで圧倒的にイヌが多かったが、ここ数年はネコが追い抜きそうな勢いで増加中だとか。だが“ネコマンガ”の流行はここ最近に限ったことではない。
ネコマンガの歴史は古い。戦前、日本のストーリーマンガ黎明(れいめい)期にもネコは活躍していた。例えば、1939年の島田啓三「ネコ七先生」。黒猫が主人公のアメリカンコミックス「Felix The Cat」の影響を感じさせるが、イヌが主人公の田河水泡「のらくろ」も元々は同作を参考にしたという。
戦後は「猫又(ねこまた)」など恐ろしい妖怪として描かれることが多く、昭和30年代の貸本マンガブームでは多くの怪奇ネコマンガが生まれた。貸本文化の衰退後は少女マンガの世界に受け継がれ、楳図かずおの「ねこ目の少女」などが読者を震え上がらせた。
ネコのキャラクターとしてのかわいさを改めて見いだしたのも少女マンガだ。71年、「週刊マーガレット」のマスコット的な位置づけで連載が始まった、ところはつえ「にゃんころりん」は代表格。グッズは読者プレゼントなどでも大人気だった。その3年後、サンリオの大スター、「キティちゃん」が誕生した。
78年発表の大島弓子「綿の国星」は、「ネコ耳」をつけて描かれた人間を「ネコ」ということにしてしまったエポックメイキング的な作品だ。ネコ耳表現は吾妻ひでお「シャン・キャット」などでも描かれ、いわゆる「萌(も)え」要素として定着した。
そして現在のネコマンガブームの原点は、84年の小林まこと「What’s Michael?」のヒットだろう。ネコに振り回される人間の滑稽な姿が、十分にマンガの「笑い」として成立することを証明。飼い猫との暮らしを描くエッセーマンガが生まれる道筋も作った。笑いだけでなく、須藤真澄「長い長いさんぽ」など、かけがえのない愛猫との別れを描いた作品も読者の共感をよんだ。
2000年代、ネコマンガ専門誌が怒濤(どとう)のように創刊され、ネコマンガはますます増加した。市場拡大の要因としては、インターネットの普及も大きい。ほしよりこ「きょうの猫村さん」は、鉛筆描きのゆるい雰囲気で、一日1コマずつ更新されるWEBマンガ。単行本化でたちまちベストセラーになり、WEBマンガ成功の先駆けとなった。
ブログやTwitterなどSNSの登場も、雑誌など公の場で描きにくい、作家のネコバカぶりや飼い猫自慢を自由に描ける土壌になった。「くるねこ」のくるねこ大和、「鴻池剛と猫のぽんた ニャアアアン!」の鴻池剛など、ブログ発のネコマンガで大成するマンガ家も珍しいケースではなくなっている。

内容自体も多様化。日当貼(ひあてはる)の「オデットODETTE」は、ネコを憧れの彼氏として描く異色作。大詩りえの「猫田のことが気になって仕方ない。」もヒーローがネコの顔である。かっこいい男子をリアルに描くより、癒やし効果のあるネコのほうが今の読者には求められているのか。
挙げればきりがない。描き尽くされることがないのは、ネコが私たちの心を捉えて離さないからか。ネコマンガは古くて新しい、いつの時代のマンガ家と読者にとっても魅力的なジャンルである。
(倉持佳代子・京都国際マンガミュージアム研究員)
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