互いに心地よい柴犬との距離のはかり方③

「犬は家族の一員」という考えが浸透して、人と犬の距離が縮まった。
しかし、日本犬は心を許した飼い主に対しても一定の距離をとることが多い。
互いに適切な距離をはかるために、犬種の特性や暮らしを見直そう。
Text:Shio Kaneko Photos:Minako Okuyama
監修:山下國廣先生



心地よい距離をはかるために

日本犬と人の距離感を考察する

 距離感にはパーソナル・スペースに加えて、犬種の特性や飼い主の接し方など、さまざまなことが影響している。

近い距離が良い関係を表すとは限らない

日本人と欧米人の違いをイメージしよう

 日本犬との適切な距離をはかるために、犬種の特性、飼い主の接し方、生活環境から考えよう。日本人と欧米人の違いをイメージするとわかりやすいかもしれない。「日本犬のパーソナル・スペースの感覚は、昔の日本人と共通しているようです」と山下先生。例えば、江戸時代の日本人が欧米人にいきなり握手されたりハグされたりしたら? 善意だとわかっていても、距離を置くか身を硬くするに違いない。現代の日本人も無差別に受け入れることはないだろう。しかし、犬に対してはついスキンシップを強要してしまう飼い主もいる。近い距離が良い関係を表すとは限らない。日本人と欧米人の文化の違いをイメージして、日本犬にはお辞儀の距離を心がけよう。

①犬種による違い

 犬種の多くは、特定の作業のために選択交配によって作出されたので、犬種ごとに性格が大きく異なる。人との距離が特に近い犬種の例を挙げると、人の指示で回収作業を行うゴールデン・レトリーバー。人の近くにいること、意識を向けてもらうこと、触ってもらうことをたいへん好む。幼児に対するように密接なスキンシップを求める飼い主に向いている。一方、日本犬を含むプリミティブ(原始的)な犬は、人為的な改良が少ない。「犬のライフステージによる違い(前回)」で解説したように、自分の身を守るために、むやみに近づかれたり接触されたりすることを嫌うようになる。

日本犬

 成長するにしたがって、野生動物のように自立心を備えたオトナになる。

ゴールデン・レトリーバー

 オトナになっても人と密接な距離を好む。幼児的な面を残す。

②飼い主の態度による違い

「犬をかわいがる=頻繁に撫でる、スキンシップを図る」と思っている飼い主の場合、犬との距離は近くなる。しかし、日本犬には「うざい」と思われることも多い。おとなしく撫でられていても喜んでいるとは限らず、「仕方ない」と我慢している場合もあるので注意したい。

愛情表現を見直そう

 犬への愛情表現はスキンシップだけではない。犬の意思を尊重することも大切だ。

③生活環境による違い

 犬の生活環境を比較すると、屋外飼育より室内飼育の方が距離は近くなる。室内飼育の場合も、サークルや特定の部屋など居場所限定の場合より、室内で自由にさせている方が距離は近くなることが多い。ご家庭に合った生活環境を選び、犬に合った適切な距離を考えることが大切だ。

屋外飼育はコミュニケーションを

 屋外飼育は室内飼育に比べてやや距離がある。散歩の時間をたくさんとるなど、コミュニケーションをはかっていればOK。

室内飼育は近づきすぎに注意

 距離が近い室内飼育はコミュニケーションにメリットがある反面、犬との距離を縮めすぎて問題が起きることもある。

距離には絆ではなく警戒心が影響する

 犬種の特性は距離感に大きく影響するが、日本犬の中にもスキンシップを好むタイプもいる。適切な距離は個性によっても変わるのだろうか。

「性格がフレンドリーでもシャイでも、くっつくのが好きではない犬もいれば、どこを触られても気にしない犬もいます。距離は警戒心によって変わると思います。警戒心の強いタイプは、気を許した人とそうでない人に対しては、距離のとり方が全く異なります。もし愛犬が警戒心の強いタイプであれば、親しくない相手に無理に近づけないこと。我慢して受け入れてくれたとしても、好ましくありません。日本犬の中でも柴犬は個体差が大きいので、密なコミュニケーションを好む犬もいるかもしれません。それでもゴールデン・レトリーバーのように『誰でもOK!』とはならないでしょう」

 強い警戒心を備える日本犬にとっては、「素っ気ない」と言われること自体が心外であるかもしれない。しかし、離れている状態が関係に悪影響を及ぼすことはないのだろうか。

「呼んだ時やツイテの時に距離があくのは、パーソナル・スペースが理由です。近くに来てくれた方が見映えは良いのですが、あとは飼い主さんの考え方次第。無理強いは禁物です。また、少しでも距離が空いているのは信頼関係が足りない証拠、という説は迷信です。手を繋いで歩かない夫婦は絆が薄い、とはいえませんよね」

 むしろ強引に距離を縮めさせて、関係を悪化させないように注意したい。


監修:山下國廣先生

日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)卒、獣医師。犬のトレーニング、問題行動治療を行う「軽井沢ドッグビヘイビア」主宰。家庭犬のしつけ指導から作業犬の訓練まで、幅広く活動している。災害救助犬としても活躍した甲斐犬のすぐり(オス)と、15年7ヶ月を共に過ごした。

軽井沢ドッグビヘイビア https://www.karuizawa-dogbehavior.com/

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