老齢ペット、余生どう守る 高齢飼い主に「老老介護」の壁

排尿が自力でできない犬には、尿道にカテーテルを入れて注射器で吸い出す=神奈川県小田原市のアサワペット牧場
排尿が自力でできない犬には、尿道にカテーテルを入れて注射器で吸い出す=神奈川県小田原市のアサワペット牧場

 生活に潤いを与えてくれるペットは、飼い主にとって「家族」の一員。国内で飼われている犬や猫は2千万頭にのぼり、人間の子どもの人口を大きく上回るほどだ。大切に扱われるがゆえに長寿を全うできるようになったが、高齢者が高齢のペットを介護する、というもう一つの「老老介護」問題も表面化しつつある。

 暖房が行き届いた犬舎では、おむつ姿の犬たちがそれぞれのケージに敷かれた布団の上でくつろいでいた。小田原市の「アサワペット牧場」。18歳を筆頭に、預かる犬は四十数頭。静かに余生を過ごす「老犬ホーム」で、半数は「介護」が必要だ。

「さぁ、おしっこしようね」。人間で言うと70代半ば、16歳になる雄の「ケイゾウ」はほぼ寝たきり。自力での排尿が困難なため、1日3回、スタッフが尿道にカテーテルを入れて注射器で吸い出す。自力では立てず、ハーネスを胴部2カ所にかけて持ち上げるように散歩させる。人間同様、介護の現場は体力勝負だ。

わずかに動く前脚が地面に接するようにしてゆっくり散歩する。両手でハーネスを持って体重を支える力仕事だ=神奈川県小田原市のアサワペット牧場
わずかに動く前脚が地面に接するようにしてゆっくり散歩する。両手でハーネスを持って体重を支える力仕事だ=神奈川県小田原市のアサワペット牧場

 鎌倉市の山科喜代子さん(70)は16年連れ添ったシバイヌの雌「チコ」を半年前に預けた。昨春ごろから後ろ脚で立てなくなり、寝たきり状態に。夜鳴きもひどく、3時間ほどしか眠れなくなった。「寂しいけれど1人では面倒を見切れず、共倒れになりかねない」と決断した。

 定期的に体調を報告してくれるが、月に何度かチコのもとを訪ねる。抱き上げると目を開けて、ホームでの生活を報告するかのように鳴くという。「犬の仲間やスタッフの人に囲まれて暮らしている姿は、幸せそうで何よりです」

 10年以上の歴史を持つ老舗で、小型の室内犬の場合、費用は入舎金11万円、月3万5千円。「月謝制とすることで飼い主も我々もいい意味で緊張感をもってペットに接することができる」と牧場代表の秋沢良彦さん(47)。寝たきりの場合はおむつ代などで月9千円加算されるが、高価なペット用おむつではなく、人間の赤ちゃん用にしっぽを通す穴を開けて利用するなどの工夫で費用を抑えている。

「海外転勤で飼えない」などの理由で入舎するケースもあるが、飼い主の入院や高齢者施設への入所がきっかけだったり、高齢者が高齢犬を世話する「老老介護」に疲れたりするケースが増えているという。

 ペットフード協会が昨年に実施した飼育実態調査によると、犬の平均寿命は14・17歳。食事や健康に気を使い、ワクチンや予防薬が普及するなど生活環境は改善され、長寿化が進む。人間でいうとわずか数十年で寿命が40代から70代まで延びた計算になるという。

 一昨年に施行された改正動物愛護管理法では、動物が命を終えるまで所有者が面倒を見る「終生飼養」の責任が明記された。寝たきりになればおむつを取り換え、床ずれを防ぐために寝返りを打たせたりと、人間並みの介護が必要。認知症が進むと夜鳴きなどで近所とトラブルになることもある。「家族の一員に1日も長く生きて欲しいという願う半面、介護の負担を背負うことになる飼い主に、安心してもらえる場を提供したい」と秋沢さんは言う。

法律を活用、財産を世話代に

 内閣府の2010年の調査によると、60代の3人に1人、70歳以上でも4人に1人がペットを飼っている。ペットフード協会の一昨年の調査では、犬や猫を飼う前より「情緒が安定した」「寂しがることが少なくなった」と回答した高齢者が約4割に達した。

 だが、飼い主が突然亡くなれば、最悪の場合、殺処分されてしまうこともあり得る。自分に万が一のことがあったら、残されたペットをどう守るか――。ペットと暮らす高齢者にとって切実な問題になっている。

 横浜市内で猫3匹と暮らす80代の女性は、1通の遺言書を作成した。信頼できる知人に猫の世話を託す代わりに、財産の一部を残すという内容。ペットに遺産を相続させることはできないが、条件付きで家族や第三者に遺産を残せる「負担付き遺贈」の仕組みを利用した。最近では、財産の一部を信託化してペットの世話に充ててもらう信託契約も注目されているという。

 ペット問題に関心のある県内の行政書士らが「動物法務支援ネットワーク」を立ち上げたのは3年ほど前。無料相談会を開くなど、法律を活用してペットとの共生をサポートしている。メンバーの1人で、愛玩動物飼養管理士の資格も持つ横浜市の行政書士、田代さとみさんもいくつかの契約を手掛けてきた。「これで安心しました、という飼い主さんの一言にほっとします」(倉持裕和)

(ルポかながわ)老齢ペット、余生どう守る 高齢飼い主に「老老介護」の壁 /神奈川県
(ルポかながわ)老齢ペット、余生どう守る 高齢飼い主に「老老介護」の壁 /神奈川県


(朝日新聞2015年1月19日掲載)

朝日新聞
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