タレント・ブラザートムさん 一緒だよ、福島に帰る日まで
東日本大震災の被災地から預かった犬と暮らしています。
2011年3月末、原発事故で保護した犬の預かり手がいないという話を聞きました。300匹が保護され、犬舎の外に大きな犬が1匹いました。顔に傷があり泥だらけ。預かり手がいないだろうと思い、預かることにしました。
我が家に着いても険がある顔で嚙(か)み付きそうでした。その夜、電気を消すと、ウォーッと鳴きだし、つられて近所の犬たちもキャンキャン、ワオーンと、静かな夜が一変。簡単に預かってはいけないと後悔しました。その日は横で添い寝をしました。翌朝、体をすり寄せ、甘えてきました。なでると、かさぶただらけ。いろんな傷を負い、ここにたどり着いたことに気づき、泣きたくなりました。犬もクーンと鳴いたのです。それで僕らは友だちになりました。
捕獲場所の写真を見ると、道路標識に福島県の「葛尾(かつらお)村」とありました。住民の避難先に電話を入れると、電話口の村職員に「犬の写真を送ってください」と言われました。メールで送ると、職員の方が「うちの犬です」と。名前が「ラース」だとも知りました。ライブで、この話をすると「本にして」と言われ、絵本「ラース 福島からきた犬」をかきました。
福島には3回連れていきました。飼い主の方は仮設住宅暮らしです。一時帰宅に伴って葛尾村の自宅に戻ったとき、うれしそうに走り回りました。いまは家族として暮らしていますが、我が家からいなくなることを想像すると、寂しくなります。だから、自らに言い聞かせるように語りかけます。「お前は向こうに家族がいて、預かっているだけだから」とね。
(文・平出義明 写真・小暮誠)
1956年、米ハワイ州出身。アルバム「マダ、アイ・ウォント・トゥ・シング」を発売中。「ラース 福島からきた犬」の電子版は電子絵本ストア「トイブー!」から購入できる。
(朝日新聞2015年8月13日掲載)
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