ふれあった小動物が、弱ればヘビや猛禽類のエサに
子どもに命の大切さを学んでもらう。そのために、犠牲になる動物たちがいる。
ふれあい動物をエサにする、横浜・野毛山動物園の実態とは。
JR桜木町駅(横浜市)から歩いて約15分、坂を上りきった先に横浜市立野毛山動物園はある。規模の小さな動物園だが、2012年度には99万人もの入園者があった。
その園内に、小動物とふれあえる「なかよし広場」がある。主に子どもたちが、動物との接し方や命の大切さを学ぶために、設置されているという。だが、ふれあいに使われた動物たちがどんな運命をたどることになるのか、子どもたちに説明されることはない。
地面に頭をたたきつけ
「園内リサイクル」
職員がそう表現する現実が、動物たちを待っているのだ。リサイクルとは、ほかの肉食動物のエサになることを意味する。横浜市動物園課担当係長の恩田英治氏はこう説明する。 「弱っているもの、病気やケガで治療しにくいものをエサにする形で活用しています」
「活用」されているのはモルモット、ハツカネズミ、ヒヨコ。モルモットは年100匹前後が、ハツカネズミは年数百匹が、それぞれコンドルなどの猛禽類やアオダイショウなどのヘビ類に与えられる。またヒヨコは、生後3週間程度まで育った個体から順にすべて(年約2500羽)が、タヌキやテンなど中型哺乳類のエサとなる。
「ヒヨコはもともとエサとして仕入れている。小さい状態で納入されるので、成長するまでの期間を、ふれあい動物として使用している」(恩田氏)
ヘビには「生き餌」として与えられる。それ以外は、職員が地面に頭部をたたきつけたり、首の骨を脱臼させたりして、殺してエサに。ふれあい目的で飼育している動物をエサにすることに、問題はないのだろうか。
「人道的な方法で一瞬で死ぬから苦痛はない。公表はしていないが、大人の来園者に聞かれたら説明しています。食育につながればいいと思う。今後もこの状態を続けていくつもりです」
同園の松本令以飼育展示係長はそう話すが、動物園として異常な運用であることは明らかだ。都立の四つの動物園と水族園の事業運営を担う東京動物園協会の広報担当者は驚きを隠さない。
「そんな事例は、ちょっと聞いたことがない」
上野動物園教育普及課の金子美香子係長もこう話す。
「ふれあいに使っている動物は、寿命が来て死ぬまで、きちんと飼っています」
そもそも動物園にも適用される動物愛護法では、みだりに動物を殺してはならず、終生飼養に努めるよう定めている。環境省動物愛護管理室に、今回の事例について尋ねてみた。すると、
「ひどい話だ。一般論として、飼育している動物を虐待してはならないし、終生飼養の義務は動物園にももちろんある。エサにする動物というのは、特にそういう目的で購入するもの。ふれあい動物として飼い、それが弱るなどしたからといってわざわざ殺し、エサにするという考え方は、ちょっと問題がある」
動物を使わず愛護教育
実は多くの地方自治体で、子どもに命の大切さを学んでもらう取り組みが、動物福祉の観点から転機を迎えつつある。先進的な取り組みで知られる奈良県の「うだ・アニマルパーク」では、イギリスなどで行われている、動物を使わず、動物へのストレスがゼロの愛護教育を始めている。パークの獣医師、藤井敬子さんは言う。
「動物に無理をさせたり、ストレスをかけたりしながらの教育では、子どもが『動物は人間を満足させるだけの存在』だと学んでしまう。ふれあいに使った動物をエサにするような行為は、もし事実であれば、動物への配慮が足りないと思います」
(編集部 太田匡彦)
※2015年8月時点では、餌として仕入れたヒヨコのふれあい動物としての展示はとりやめている
(AERA 2014年2月24日号掲載)
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