残されたペットの世話に神戸から移住 飯舘村に通う夫婦

阪神大震災を経験した男性が兵庫県神戸市から福島県に移住し、原発事故のために飯舘村にとり残されたペットの世話を続けている。飼い主の心の重荷を和らげる一助になればと、きょうも車を走らせる。
3月30日、日比輝雄さん(69)は雨の中、山あいの16軒を妻優子さん(54)とともに回った。飼い主のいない家で過ごす犬や猫のけがや病気をチェックし、ペットフードを補給する。そのうちの1軒にずぶぬれの大型犬がいた。リードが絡まり、小屋に入れなくなっていた。日比さんはタオルで拭き、全身をなでた。
村内は避難指示区域。一部を除いて立ち入りはできるが、居住はできない。6千人あまりいた村民は避難し、近隣市町にある仮設住宅などで暮らす。村は騒音トラブルを懸念し、村民の仮設住宅へのペット持ち込みを原則禁じた。犬や猫は家にとり残された。
神戸市須磨区に住んでいた日比さんは2005年に定年退職するまで病院や薬局に勤務。1995年1月、阪神大震災の時には長田区の病院の事務長だった。被災者でごったがえす病院に泊まり込み、医薬品や水を手配した。仮設住宅への往診に付き添い、炊き出しにも参加した。
東日本大震災もひとごとと思えず、イベント支援のボランティアで宮城県の仮設住宅へ出かけた。12年2月、福島に残されたペットが餓死していることをツイッターで知った。それまで自分が知らなかったことがショックだった。
現実を確かめようと被災動物の保護シェルターを訪ねた。阪神大震災の時も同じような取り組みがあったことを初めて聞いた。同年5月、残されたペットの世話に神戸から通い始めた。8月には自宅を処分し、福島県郡山市に移住した。週4回、片道1時間半かけて飯舘村に通う。
世話をする犬は約200匹。猫はそれ以上。車内にある住宅地図に「猫3」などと書き込んである。一時帰宅の飼い主に会った際にペットの数、えさやりが必要かを確認する。ガソリンやペットフードにかかる月約10万円は蓄えを取り崩してまかなう。東京などからの同様のボランティアとメールで情報を共有し、えさのやり過ぎや漏れを防ぐ。
活動中、一時帰宅の村民から「原発さえなければ」という言葉をよく聞く。帰りたくても、帰れない村民たち。「私はあと10年、何とか生きられればいい」と日比さん。福島で骨を埋める覚悟だという。(久永隆一)
(朝日新聞2014年4月11日掲載)
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