「起こせるアクションを検討するために」 獣医師と連携し動物虐待の被害写真を読む
動物たちを虐待から守るために、2022年に立ち上がったNPO法人どうぶつ弁護団(Animal Defense Team)。当連載では、どうぶつ弁護団に所属する弁護士・獣医師メンバーからの便りを紹介します。第5回は、動物虐待の被害写真からわかることについて紹介していきます。
情報提供者から送られてくる、写真と動画
動物虐待の情報提供者から送られてくる資料の中で、一番多いのが写真と動画です。
写真や動画が届いた際は、どうぶつ弁護団のメンバーである獣医師にも見てもらい、どのような状況下で受傷した可能性があるのか、そこには虐待の可能性が存在するのかどうか、また虐待罪を構成するための要件の補強になりそうかどうか、などを判断する材料にしていきます。実際の診察はしていないため、先生には確定診断ではなく参考意見としてアドバイスをお願いしています。
今回は、実際に過去、どうぶつ弁護団で検討した画像を、メンバーである中島克元獣医師の解説を加えながらご紹介したいと思います。
写真から凶器を推測する
「吹き矢でけがを負わされた猫がいる」という情報提供があり、写真が送られてきました。その写真を見たとき、中島先生は「吹き矢だろうか?」と疑問を持ったと言います。
「我々が一般的に考える吹き矢というと、空洞になった筒の先端に針みたいなものがついていて、人の力で吹いて放つものです。コントロールが難しくスピードも十分ではないと考えられ、こんな風に刺さるのかな?と少し疑問に思いました。猫がじっとしていて、なおかつ至近距離から思い切りすごい力で吹いたのであれば、可能性もないとは言えません。ただ、相手は野良猫ですから、基本的には近づいて何かをすることは難しいだろうとも感じられました」
この時は結果的に、被害にあった野良猫は専門家により捕獲され、獣医師の治療を受けることができました。診察中の写真も提供され、改めてそれらの写真から、凶器は吹き矢ではなく自作銃ということがわかっていきました。
「動物病院で取り除かれた針の長さを見ると、3cmぐらい。そのうち2cm程は中に埋没していました。猫の皮膚はかなり強く、これをするにはものすごい力が必要です。動物病院で注射針を刺すことができるのは、皮膚が切れるようにできているから。写真に写っていた針はドリルのような形状で、吹き矢であれば、なかなかここまで深くは刺さりません。特別に工夫がされたもので、よっぽど近くから相当な力を持って打ち込まない限りは難しいと、改めて感じられました」
使用された凶器が吹き矢であっても、それよりも強力なものであっても、動物に対する傷害であることに変わりはありません。最終的には、警察の捜査を通じて明らかにされることではありますが、その前に、どうぶつ弁護団として、被害動物の受傷内容や凶器の形状など客観的な状況から、科学的に犯行状況の仮説を検討し、警察に示すことは、一定の意義があると考えています。
事故なのか、虐待なのか
河川敷で、猫のボランティアさんが設置した猫ハウス付近で、腹部にワイヤーが巻かれた状態で発見された野良猫の情報提供がありました。河川敷に設置された罠に引っかかっていたとのこと。この時は、野生動物を捕獲するための罠に、猫がたまたまひっかかってしまった可能性も指摘されていました。
「野生動物捕獲用の罠というのは、解禁日も含め、猟期がちゃんと定められているものです。またその期間、猟師さんは獲物がかったかどうか、毎日、ないし2日に1回は仕掛けた罠を見に行くものです。罠が放置された状態にあることや、河川敷の、それもボランティアさんが設置した猫ハウスの真横にわざわざ設置するということに、まず疑問を感じます。何者かが別の目的でやったのではないか、と想像せざるを得ません」
ワイヤーの先端の一方は木にくくられており、おそらく罠にかかって猫が暴れたことで、ワイヤーはおなかに食い込んでいました。その後ボランティアさんによってワイヤーがカットされ、締め付けの進行は止まったものの、腹部に巻かれたワイヤーが残った状態のまま猫は逃走。ワイヤーが絡まりけがを負った状態のまま、保護されるまでに5カ月ほどもかかってしまいました。
「こういう場合は、可能な限り、まず猫が逃げないようにたも網などで捕まえておいて、ワイヤーを切り、そのまま動物病院へ搬送できると良いと思います。そのまま麻酔をかけて処置ができますから。ただ、網が無いからといって素手で猫を触ろうとすると、人間の方が大怪我しますから、そこは注意が必要です」
動物虐待かどうかだけでなく、写真と情報から、今後の、負傷した猫などの緊急レスキュー時の参考となる知識が得られることもあります。どうぶつ弁護団として、こうした知識の共有も、一般の方に向けて行っていきたいと考えています。
動物の行動生態学まで含めて検証
同一の地域猫が何度も顔面に釣り針が刺さった状態で現れたため、不審に思ったボランティアさんが最寄りの交番に届けるも、十分に動いてもらえず、我々に情報提供をしてくれました。これは、どうぶつ弁護団として告発した初めての事案でもありました。
「魚釣りの現場などでは、釣り針付きの魚を猫が食べてしまい、口あるいはノドに釣り針が刺さったという事故がよくあるんです。しかし今回は、周囲に海も池もないような場所、しかも釣り針が目に刺さるという話は、故意でない限り考えにくいと思いました。しかも、同一の猫の顔面に何度も引っかけられた。これはもう、遊び半分で誰かがやったとしか思えないですよね。少し人慣れしている若い猫は、誘われたら遊んでしまうこともありますから。それを逆手にとって、ひどいことをする輩がいたのだと考えられました」
写真や動画の検証は、傷だけでなく、動物の行動生態学に基づく推測も用いられています。この時は幸い大事には至りませんでしたが、例えば眼球などを損傷してしまう恐れもありました。
動物虐待とならないことも
写真の検証を通して、なかには「動物虐待ではないだろう」との結論に至ることもあります。
過去、「何者かによって脚を切られた猫がいる」との提供写真を見て、脚の切断面の態様から、鋭利なもので人為的に危害を加えられたというよりは、他動物とのケンカや車輪の巻き込み事故なども考えられる、との可能性が獣医師から示されたこともありました。
こうした部分は獣医師でないと推測は困難であり、どうぶつ弁護団が活動をしていくうえで、獣医師との連携は欠かせないものとなります。
その上で、飼い主のいない動物の場合はとくに、目撃者もおらず防犯カメラなどの証拠もないような場合、獣医師による写真検証がとても大切になってきます。
動物の負った傷からできるだけ多くのことを読み取り、二度と同じような事件が起こらないように起こせるアクションを検討していく。それが、我々どうぶつ弁護団の使命だと考えています。
(次回は9月25日公開予定です)
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