「似合ってる?」。弟のスタイをつけた「あげぱん」
「似合ってる?」。弟のスタイをつけた「あげぱん」

雑種犬の雑誌創刊のきっかけになった「あげぱん」 古民家で悠々自適生活

目次
  1. 【基礎データ】いかにも!な茶色の和犬系中型雑種犬
  2. 里山で保護
  3. 息子さんとは付かず離れず
  4. 雑種犬はかっこいい!

 個性豊かな雑種犬の魅力を紹介する連載企画。第20回は、山口・周南市の里山で生まれた和犬系雑種の「あげぱん」。あげぱんとの出会いから、雑種のかっこよさを広めたいと雑種犬の雑誌を創刊したデザイナーの飼い主とともに、福岡・糸島市の古民家でのんびり暮らしています。

(末尾に写真特集があります)

DATA
《名前》あげぱん
《年齢/性別》4歳/メス
《役割》飼い主のインスピレーションの源、ときどきモデル犬も!
《サイズ》体高54cm・体⻑60cm・体重16kg
《チャームポイント》情けない困り顔と、長い脚や体
《特性》
人慣れ度★★☆
犬好き度★★☆
食いしん坊度★★★
運動量★★★
トレーニングしやすさ★★☆
ケアのしやすさ★★☆

 近年、野犬の繁殖が問題になっている山口県周南市の里山で生まれた「あげぱん」。子犬のころにきょうだいとともに保護され、動物保護団体が飼い主募集掲示板などに投稿して、譲渡先を探していました。

矢野さんが一目ぼれした写真。あげぱんに出会う前から、「あげぱん」と「こげぱん」が名前の候補だったそう(矢野江里子さん提供)

 そんなあげぱんが、飼い主の矢野さん夫妻の家に来たのは、4年半前の大晦日のこと。

 夫妻は約7年前、東京都内から実家に近い福岡県糸島市のマンションへと移り住み、3年を目処に家探しをしていました。無事気に入った古民家が見つかり、リノベーションをしてそろそろ引っ越せそうになってきたタイミングで、子どものころ犬と暮らしていた夫妻の間で「犬を迎えたいね」という話に。

「まずどんな子がいるのかとか、譲渡条件を見てみようと思って、飼い主募集サイトにアクセスしたら、掲載されていた子犬のあげぱんの写真がめちゃくちゃかわいくて、一目ぼれしてしまったんです。その後もチェックしていたら、きょうだいの白い子と黒い子は譲渡が決まっていったんだけど、いちばんビビりだったからか、茶色のあげぱんがまだ残っていて。ちょうと夫が仕事を辞めたタイミングだったのもあって、保護団体に連絡してみました」と矢野さんは当時のことをうれしそうに話します。

家に迎えた日、すでにひざに抱っこされても平気(矢野江里子さん提供)

 年越しも数日後に迫った年末、保護団体に連絡したところ、「いいですよ。譲渡決定でいいですか?」とあっさり言われて、拍子抜けしたそう。大晦日に子犬を届けてもらえることになり、とりあえずハウスやオモチャ、ペットシーツ、フードなどすぐ使うものを準備しました。

「保護団体のスタッフさんが家に送り届けてくれたんですが、あげぱんはケージから出されるとすぐに、ソファの下に逃げ込んでしまって。最初は大丈夫かなとちょっと心配しました。でも、迎えた時点でまだ生後推定1カ月半とのことで、怖さより好奇心が勝っていたみたいで。うちに来た当日から、抱っこしても嫌がらないし、ソファに座っていると後ろに挟まりにくるし、オモチャのロープで遊ぶこともできて、思ったほど苦労することはなかったです」

最初のころは、寒いのか怖いのか、よくこたつに潜って寝ていた(矢野江里子さん提供)

 あげぱんを迎えていちばん困ったことはというと、あちこちにオシッコをすることと、床や家具を掘ること。オシッコのにおいがついてトイレと認識されるようになってしまった大きめのラグ2枚と、掘り返された布のソファは、けっきょく捨てることに……。リノベーションが完了した一軒家でも、客間にしようとしていた畳の部屋でオシッコをするためフローリングに替えたり、張り替えた床を掘り進めてしまったり、柱をかじったりと、子犬時代は破壊行動に悩まされたと、矢野さんは笑って話します。

DIYした「あげぱん通路」からひょっこり(矢野江里子さん提供)

 とはいえ、田舎の一軒家暮らしで、周囲への迷惑をあまり気にする必要がなかったこともあってか、そこまで大変な思いをすることもなくのびのびと育ててきたそう。最初の2年ほどは、散歩中にビビって大通りでパニックを起こしたり、車に乗ると息が荒くなって吐いてしまったりすることもありましたが、それも徐々に治まっていきました。

 あげぱんが2歳半のころ、矢野さん夫妻に念願の子どもが誕生し、新しい家族との生活が始まりました。産後に退院してすぐに、カゴの中で寝ている息子さんをあげぱんに見せると、少し怖がりながらもにおいを嗅いだそう。息子さんがあまり動かないうちは、あげぱんのほうから息子さんの隣に寝たり、なめたりもしていました。

息子さんが食べ物を持っていても奪ったりしない、優しいあげぱん(矢野江里子さん提供)

 息子さんが生後10カ月を迎えたころからは息子さんが自ら触りに来るようになり、引っ張られたりなでられたりしても、耐えていたあげぱん。ただ、1歳半ごろからは、追いかけて強めの力でヨシヨシするようになり、さすがに耐えかねたよう。それ以降は、息子さんが起きている間は離れていて、息子さんが寝付くと矢野さんにくっつきに来るようになりました。

普段は付かず離れずだけれど、たまに仲良し風に(矢野江里子さん提供)

「基本的には、私たちが息子を大事にしているんだなとわかっているようで、息子に対して優しいですね。おやつをとっても怒らないで、ちゃんとくれるのを待ちますし。私が子どものころ、犬と一緒に暮らしてよかった思い出があるので、今後息子ともいい関係を築いてくれたらと思っています」

 小学2年生のころから、地域の譲渡会で譲り受けた雑種犬と暮らしていた矢野さん。小学生のとき、自分の家の犬が無料だったのに対して、友達の家のダックスフンドは30万円であることに驚いた記憶があると話します。当時から殺処分の問題に心を痛めていたこともあり、あげぱんを迎えたことで、保護犬に対して何かできないかという気持ちが一気に膨らみました。

矢野さんのまたの間に入るのが好き(矢野江里子さん提供)

「飼い主にとってはかわいい愛犬なのに、雑種犬には価値がないかのように思われているのが不思議で。こんなに雑種犬はかわいいのに、その魅力が伝わっていないのではないか、と思ったんです。そんなとき、夫との世間話で『雑種の雑誌があったら面白いね』と盛り上がって。楽しそうだし作ってみようかと、まずはインスタグラム(@zasshu_onlywan)を立ち上げました」

餃子が欲しいけれど、見ないフリ……(矢野江里子さん提供)

 インスタグラムでは、あげぱんとの生活から生まれた、「来たときは 丸かったのに いま長い」「なぜかしら 顔からほんのり こんぶ臭」といった「雑種犬あるある川柳」を、イラストとともに投稿。また、取材に協力してくれる雑種犬の飼い主を探したり、「変な寝相」「かわいいお尻」といった写真の投稿を募集したりしました。同時に、原稿執筆やデザイン、イラスト、校正などをすべて一人で担って、『ZASSHU(ザッシュ)』の創刊号を作り上げました。

海には入らないけれど、砂浜を走り回るのは大好き(矢野江里子さん提供)

「雑誌制作を通していろんな雑種犬の飼い主さんと知り合ったことで、他の犬の話を聞いて、あげぱんのことがよりわかるようになりました。例えば、あげぱんはビビりだと思っていたけど、もっと大変な子はたくさんいるんだな、とか。何より、『ZASSHU』を見た知人が保護犬を迎えましたっていう報告もちょくちょくいただいていて、それがいちばんうれしいことですね」

 矢野さんの人生の転機に、自然と家族に加わり、さりげなく寄り添っているあげぱん。おおらかな矢野さん夫妻と、息子さんとともに暮らすその姿は、今後も雑種犬の魅力を伝えるロールモデルになることでしょう。

(次回は8月23日公開予定です)

【前の回】想像以上に大きく成長した雑種犬「くま子」 プチ脱走事件を経て絆が深まった

山賀沙耶
フリーランス編集ライター。北海道大学文学部卒業後、編集プロダクション、出版社勤務を経て、独立。現在は雑誌や書籍、ウェブメディアを中心に、犬やアウトドアなど幅広い分野で活動中。犬メディアとのかかわりは、約20年前の編集プロダクション時代から。プライベートでは、2頭の雑種犬と外遊びを楽しむのが至福の時。

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この連載について
雑種犬図鑑
見た目も性格も個性豊かな雑種犬の魅力を、犬種図鑑のパロディで紹介。毎回1匹の雑種犬にフォーカスし、チャームポイントから生い立ち、暮らしのエピソードまで情報や魅力をふんだんに伝えていきます。
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