7月21日、猛暑日の中の訓練で水を浴びるココ。犬も熱中症になるので、日陰に入れたり、扇風機を回したりと、結構、気を使う。8月は夏休みで訓練なし
7月21日、猛暑日の中の訓練で水を浴びるココ。犬も熱中症になるので、日陰に入れたり、扇風機を回したりと、結構、気を使う。8月は夏休みで訓練なし

災害救助犬ココのリアルな一日 冬の輪島市での捜索活動は寒さと緊張の連続

 ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬の「ココ」(ボーダーコリー/メス11歳)との生活に込められた、喜びや挑戦を伝えていきます。

(末尾に写真特集があります)

捜索活動と休息の狭間で

 1月3日、石川県輪島市門前町で倒壊家屋の捜索を終えた日本救助犬協会の能登出動チームは待機場所の輪島消防署門前分署の駐車場で19時半から夕食を食べた。

 卓上ガスコンロにキャンプ用の鍋を乗せ、お湯を沸かしてカップ麺と調理パンをほおばる。北陸の冬の寒さがしんしんと身に染みる中、熱いカップ麺が体を温める。食べ終わるといれたてのコーヒーが仲間から振る舞われた。おなかが落ち着くと、今日の捜索がよみがえってきた。

 災害救助犬ココの倒壊家屋の捜索はあれでよかったのだろうか。

 8分という短い時間の中で、もっとできることはなかったのか。

 狭くて、人が入っていけそうになかった玄関の奥を探せたことは良かった。居間にはあえていれなかったが、代わりに救助犬のエマが入ってくれた。

19時過ぎ、小雨がかすかに降る中、卓上ガスコンロでお湯を沸かして夕食を用意する。どんどん気温が下がっていく

 われわれTEAM7は表通り側の部屋はひと通り捜索し、チームさくらは裏側の部屋を探した。残念だったのは、日が暮れるのが早すぎて、捜索が17時過ぎに打ち切られたことだが、冬の日没が早いのはどうしようもない。

 20時半、車の運転席で寝る。後ろの荷物をどけて、背もたれを少し倒す。

 自宅を出たのがその日の午前1時半過ぎ、休憩しながらも一睡もせずに運転してきたことを考えれば、すぐに眠れるはずなのになかなか寝付けない。まだ気持ちが高ぶっているのかもしれない。

 22時過ぎ、眠りかけたと思ったら寒くて目が覚めた。荷台からダウンジャケットと寝袋を出す。ダウンはコートの下に着て、寝袋はファスナーを開いて足を入れ、胸までたくしあげた。

 さらに車のヒーターを入れ、設定温度を最高にして送風を全開にした。10分もすると車の中は暑くなった。これで当分持つだろうとヒーターを切った。

 この寒さにココは大丈夫だろうかと心配になる。しかし、1年ほど前、大雪の降る青森県弘前市に2泊したとき、ココは屋根もない駐車場の車の中でヒーターもつけずに二晩を過ごした。今もその時と同じふかふかのマットに身を沈めている。ボーダーコリーは暑さには弱いが、寒さには強い犬種のようだ。

 結局、朝まで3回、寒さで起こされ、ヒーターをつけた。途中、車が揺れた。眠気もあってうろ覚えだが、かなり大きな余震だったようだ。

1月4日、7時20分、輪島消防署門前分署から慌ただしく消防車が出入りする。災害救助活動が始まった

救助犬はいかにリラックスさせるかが重要

 6時過ぎ、起床。昨夜の小雨はやみ、寒さと運転席の寝にくさ、災害現場という緊張感であまり寝付けず、頭の中がぼーっとしている。

 ココはケージから出すと前脚をグッと伸ばして背伸びをする。いつもと変わらない感じだ。15分ほど散歩をして戻ってくると早速、出動要請が消防から来ていた。身支度を整えて、いつでも出動できる態勢にする。7時過ぎから消防の車が慌ただしく出入りしている。

 7時40分、待機していた門前分署を出発、消防車の後ろについて5分ほど、捜索現場手前の駐車場へ着く。

「自衛隊が先に捜索しているので、終わり次第、災害救助犬での捜索をお願いします」とのこと。ココを車から出して、排泄(はいせつ)させる。

 ヘルメットやマスク、手袋など、個人用防護具を再確認し、いつでも捜索できる態勢にしたところで知らせが入った。

「自衛隊が行方不明者を発見しました。そのため救助犬の捜索はなくなりました」

 7時50分、災害救助犬の捜索出動が解除された。

 緊張していた気持ちが少し和らいだ。待機していた駐車場の片隅にできた雪の小山でココたちを解放した。

1月4日、朝一番の捜索に出動したが、先に捜索していた自衛隊が行方不明者を見つけたとのことで、災害救助犬の出番はなかった。駐車場の脇に積み上げられた残雪でくつろぐココ

 災害救助犬たちを災害現場でいかにストレスなく捜索させるか、それは犬たちのリラックスのさせ方にかかっている。わずか5分だが、救助犬を雪山で遊ばせるのもそのためだ。ずっと車の中のケージに押し込めていてはストレスがたまってしまう。拘束と解放、そのバランスが難しい。

待機か撤収か

 8時半、門前分署に引き揚げてきた。ひとまず待機ということで、朝食を食べる。

 昨日の夕食に続き、カップ麺と調理パン、インスタントのカフェオレだ。

 1月の北陸は朝晩の冷え込みが厳しい。昨日の夕食といい、やはり卓上のガスコンロを持ってきて正解だ。温かい食べ物を胃に入れると、冷えた体に活力がみなぎり、次の捜索への意欲が高まる。

 私の場合、テントでの寝泊まりはよく行うが、車中泊は足が伸ばせないためしたことがない。なんとなく体が重いのは、そのせいかもしれない。

 11時47分、後続隊から門前分署まで22キロの地点まで来たと連絡が入る。しかし、道路の一部が片側通行になっているため、渋滞中だそうだ。

 12時前、消防から「門前分署管轄地域での災害救助犬による捜索は本日はもうありません」と告げられた。

 TEAM7では、その知らせを受け、今後の対応を検討する。

 明日までここで待機するか、門前町から移動して救助犬を必要とする地域に行くか、それとも撤収するか――。

 輪島市の中心部、市役所で待機している知り合いの救助犬団体に連絡をとる。

 午前中はずっと待機中で、本日の捜索があるかどうかわからない、とのこと。また珠洲市でも災害救助犬は間に合っているとの情報が入る。

 一方で明日までここ門前町で待機したとしても、再び災害救助犬の捜索があるかどうかはわからない。

 現場で協議した結果、生存率が下がると言われている72時間を夕方に迎えること、後続のチームさくらのメンバーがまもなく到着すること、各自、仕事の調整をつける必要があることなどを総合的に判断して、チームさくらは残り、TEAM7は撤収することになった。

災害救助犬の活動を知ってもらいたい

交代のため現場を引き揚げる緊急消防援助隊の隊員が災害救助犬に“あいさつ”にきた。おとなしくお座りをして迎えるココなど出動した災害救助犬たち

 1月1日に愛知県を出発した緊急消防援助隊の第一次愛知県隊も交代のため、本日引き揚げるという。彼らはオレンジ色などの出動服から白いシャツとグレーのスラックスの制服に着替えている。原隊への帰還の準備だ。そんな中でも時折、「災害救助犬を見るのは初めてです」と言って、われわれの救助犬とふれあって行く隊員たちもいる。

 普段はおとなしい救助犬たちだが、私がうずくまってみせるとココは急に「わんわん」と激しくほえる。その姿を目の当たりにした隊員たちは、「おおぅ」と犬の反応に驚く。

「うずくまったり、倒れたりしている人を見つけると、こうやってほえて知らせるんです」と説明すると隊員たちは感心する。

 消防隊員ですら災害救助犬と接するのは初めてだという人は多い。まして一般の人が災害救助犬を見る機会、知る機会はほとんどないのが現状だ。

 日本救助犬協会では東京消防庁の出初め式など年間20件近く、各自治体や消防などが行う防災訓練に参加して災害救助犬のデモンストレーションを実施する。こうして災害救助犬の啓発活動に努めているが、まだまだその存在は知られていない。

 13時46分、後続隊の2人と救助犬1頭が門前分署に無事、到着した。

(次回、最終回は8月21日に公開予定です)

【前の回】災害救助犬との捜索でも通信は命綱 家族の切なる願いは伝わる、全力を尽くしたい

河畠大四
フリージャーナリスト、編集者、災害救助犬ハンドラー、日本救助犬協会 救助犬部副部長。1984年小学館入社、ビッグコミックで手塚治虫担当ほか。1989年朝日新聞社入社、週刊朝日、経済部などで記者、編集者を務める。2020年に早期退職して、テントと寝袋を積んで日本縦断自転車ひとり旅に出る。自転車旅と救助犬育成を中心にX(@e37TQUBRKJcf49z)「ココ&バイク」で発信中。

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この連載について
災害救助犬、ココと行く
ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬のココとの生活に込められた喜びや挑戦を伝えていきます。
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