災害救助犬はとても足りないのが現状 育成やボランティア、未来に向けてできること
ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬の「ココ」(ボーダーコリー/メス11歳)との生活に込められた、喜びや挑戦を伝えていきます。
ボランティア活動の限界
1月4日14時前、日本救助犬協会の能登出動チームの後続隊、チームさくらの2人と救助犬1頭が輪島消防署門前分署に到着した。
2人には、昨夕と今朝の2回出動した状況と、本日午後の捜索はもうないことを伝える。
能登出動チームのうち、TEAM7の4人と救助犬3頭は後続隊が来たので、撤収することに決めた。
理由は、本日夕方に発災後、生存率が落ちるといわれる72時間を超えること、このまま門前分署に待機しても明日、再び捜索があるかどうかわからないこと、周辺の地域でも災害救助犬の待機状態が続いていること、正月休み明けで各自仕事の調整があることなどを総合的に判断した。
15時間かけて首都圏から駆けつけたもののわずか2度の出動で引き揚げるのは少し残念だが、行方不明者が次々に見つかっていると信じたい。
消防や警察、自衛隊のように身分が補償されているわけでもないボランティア活動では、これが限界なのかもしれない。
出動となればその交通費(高速代、ガソリン代)の全額と食費の補助が協会から支給される。また、出動したメンバーに対し協会はボランティア保険をかける。私は個人として生命保険とボランティア保険に加入している。
協会は出動にかかる費用を私たち会員が納める会費と、防災イベントなどでの募金や寄付によってまかなっている。
2020年度はコロナ禍で多くのイベントが中止になり、協会は初めて赤字となった。以後、回復傾向にはあるものの23年度まで4年連続して赤字が続いている。かつてない厳しい状況で、過去の繰越金でなんとかしのいでいる。決して資金が潤沢なわけではなく、70人あまりの会員では、正直、ギリギリの運営だ。
自宅に帰り着くまでが出動
TEAM7が撤収することを協会本部や後方支援チームに伝えると、「体調は大丈夫ですか」「気をつけて帰ってきてください」などと気遣ってくれた。無事に自宅に帰り着くまでが出動なのだと、あらためて思う。
14時40分、チームさくらにあとを託して、門前分署を出発した。
来るときに通った国道249号で南下する。20分ほど走ったところで、土砂崩れによって道がふさがれていた。おそらく元日の地震ではなく、余震によって土砂崩れが発生し、道をふさいだのだろう。手前に「通行止め」の表示も三角コーンもなかった。
15時22分、被災が激しかった輪島市から離れたこともあり、NTTドコモの携帯電話が通じるようになる。
18時半、富山県に入った最初の小矢部川SAで夕食をとる。ココも車から出しておしっことうんちをさせ、ドッグフードをあげる。
「捜索は一回だったけれど、頑張ったな」と声を掛けたが、ココは食べるのに夢中だった。
売店で買い物をした仲間が少しうれしそうに教えてくれた。会計をしているとレジの女性から災害救助犬の捜索活動に対して労いの言葉をかけられて、お土産を渡されたのだという。仲間は、その気持ちだけをありがたく受け取り、お金を払ってお土産を購入したという。
そのお菓子を1つもらった。甘いものが口の中に広がったせいなのか、それともレジの女性の心遣いに和んだのか、疲れがスーッととれていく。
新たな決意を胸に
結局、仲間を家まで送り、千葉県の自宅に帰ったのは、1月5日の早朝4時18分だった。
真冬の空はまだ暗い。「帰宅しました」とLINEすると、多くのチーム員から「いいね」のリアクションが入る。なんだかホッとする。ココを出しておしっこをさせ、家の中のケージに入れた。
今回の捜索活動は、私が出動した過去3回に比べ、最長の51時間におよんだ――。
この原稿を書きながら、あらためて思う。体力、気力が続く限り、災害救助犬を育成し、万が一の出動にも備えたいと。
能登半島地震が発生するわずか10日前の2023年12月下旬、私はココと同じ犬種のボーダーコリーを家族に迎え入れた。今はまだ1歳にもなっていない「ハリー」と名付けられたその雄犬は、災害救助犬に育てるため、早速、服従訓練を始めている。
今年5月に行われた協会の災害救助犬育成試験でハリーは、最初の服従初級になんとか合格した。あと5つの試験をクリアして、災害現場に出動できる認定犬を目指す。2年かかるか、5年かかるか、それとも最後まで受からないか……。
一朝一夕に育成はできない
能登半島地震が発生した2日後の1月3日、岸田文雄首相は記者会見で「自衛隊、警察において、救助犬を2倍以上に増強するなど、態勢の強化を行い、人命第一で、救命・救助に全力を尽くしております」と述べた。
首相が記者会見で救助犬について言及するのは初めてだろう。しかし、自衛隊、警察の救助犬だけではとても足りないのが現状だ。事実、能登半島地震では日本救助犬協会をはじめ、全国からボランティアの救助犬が何頭も駆けつけている。行方不明者の発見にもつながったと聞いた。
国や自治体で災害救助犬を育成するには限界がある。
ココのように自宅で飼っている犬を災害救助犬として育成できれば、理想的だ。全国のどこにでも犬を飼っている家庭があるからだ。
巨大災害がどこで発生しても近くに災害救助犬がいれば、すぐに駆けつけられる。一人でも多くの生存者を探し出すために、全国の自治体で救助犬が活動できる環境を整備していくことはできないだろうか。
災害救助犬の育成には、服従と捜索の訓練が欠かせない。服従訓練は自宅やその周りで毎日でもできるが、捜索訓練はそうはいかない。災害現場を再現したような倒壊家屋を作ったり、がれきの山を築いたりして、リードをはずして捜索させることが重要になってくるからだ。
国や自治体がある程度の広さのある場所を一定期間、最寄りの救助犬団体に提供することで、災害救助犬の訓練場を作ることができる。それが難しいのなら、せめて災害救助犬を育成する団体に補助金なり、助成金なりの支援金を支給できないだろうか。
8月8日に発生した宮崎県沖を震源とするM7.1の日向灘地震で、気象庁は初めて「南海トラフ地震臨時情報=巨大地震注意」を発表した。
南海トラフ地震では最多で32万人あまり、近い将来予想される首都直下型地震では2万3000人ほどが死亡すると政府は推定する。
「人命第一で、救命・救助に全力を尽くす」のであれば、巨大災害が予想される今こそ、災害救助犬を育成する枠組み作りに政府も自治体も真剣に取り組んでほしい。
災害救助犬は一朝一夕には育成できないからだ。
(完)
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