「探せ!」の指示を待つココ。真っ黒だった目の周りに白髪が目立ち始めている。埼玉の訓練場で
「探せ!」の指示を待つココ。真っ黒だった目の周りに白髪が目立ち始めている。埼玉の訓練場で

災害救助犬ココが石川県輪島市で奮闘 倒壊家屋での捜索に入った5頭の反応は?

 ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬の「ココ」(ボーダーコリー/メス11歳)との生活に込められた、喜びや挑戦を伝えていきます。

(末尾に写真特集があります)

ココ、そしてエマとマロンの捜索

  1月3日17時すぎ、石川県輪島市門前町の倒壊家屋の前。 

 災害救助犬であり愛犬のココが一回目の捜索を終えて戻ってきたので、ケガをしていないか両手で体中をさわる。特に脚回りは強く握りしめて、何か反応がないか探る。 

 万が一ケガでもしていると、握ったときに「キャン」と叫んだりして、なんらかの反応をするはずだが、ココは特に痛がる様子を見せなかった。血なども出ていない。 

 ケガをしてなくてよかったとホッとする一方で、次の捜索に備えて、ココに水を飲ませ、車に置いたケージの中で休ませた。

 倒壊家屋では、ココと交代したシェパードのエマが捜索している。居間の中を丹念に探した後は家屋の向かって右側を外から捜索したが、いずれもこれといった反応は示さなかった。

 エマがいかに優秀な救助犬であるかは、この春に実施された日本救助犬協会の災害救助犬認定審査会での成績が物語っている。制限時間12分の捜索試験でエマは、要救助者4人全てに反応した。受験した犬の中でトップクラスの結果を残している。

 実はエマはまだ災害救助犬の任期(2年)が1年残っていた。しかし、今の実力を知るため審査会に臨んだのだ。全員発見したとはいえ、捜索の仕方に少し課題も見られたので、今後の訓練の方向性が明確になった。これからはその課題を克服していくことになる。

埼玉の訓練場でがれきの山を捜索するエマ。高さは2階建ての建物を優に超える

 エマも倒壊家屋の捜索を8分ほどおこなって引き揚げてきた。そしてボーダーコリーのマロン(メス/5歳)に交代した。

 もうヘッドライトを点灯しなくては暗くて捜索できない。

 マロンは初め、家屋の表通り側を捜索していたが、何かを感じたのか、裏手に回って奥の建物の方へハンドラーとともに探しに行った。

捜索終了、安全確認と報告

 17時11分、暗闇が深まり、人や犬の動きが見づらくなったため、隊長は「終了」を告げた。このまま捜索を続けることは危険が伴うと判断したのだろう。まだまだ捜索を続けて要救助者を見つたいと思う一方で、二次災害だけは起こしてはいけないというジレンマにさいなまれる。

 ココは2回目の捜索がいつでもできるように車の中で待機していたが、この現場での捜索はなくなった。体に何か異変がないか、再び確認するためケージから出した。

 全身を丹念に触診した。特に異常はない。ハンドラーも犬もケガなく捜索を終えることができ、ホッとした。

 隊長には「ハンドラー、犬ともに異常なし」と報告した。エマもマロンも同様だった。

 結局、この倒壊家屋の捜索はTEAM7の3頭にチームさくらの2頭も加えて、計5頭で30分ほど実施したが、いずれの災害救助犬も生体への反応は示さなかった。

輸送や寝泊まりはこのケージの中で過ごす。ほえたり、鳴いたりはまったくしないので、いるかどうか不安になることも

 しかし、災害救助犬が反応を示さなかったからといって、この場所に要救助者がいないとは断定できない。犬だって生き物だ。体調の良しあしもあるし、風向きや雨の状況など、天候の良しあしも捜索に影響する。あるいは、長旅の疲れが捜索の精度を落としているのかもしれない。

 生体に対してしっかり反応できるよう、私たちは日ごろからがれき現場を再現した訓練場で定期的に訓練を積んでいる。とはいえ、閉じ込められた人が出すストレス臭を100%捉えられるというわけではない。

「災害救助犬による捜索では、特に反応は示さなかった」という結果を消防に報告する。消防は自らの捜索の結果と災害救助犬の捜索状況を参考にしながら、次の場所に移るかどうか、今後の救助活動の方針を決めることになる。

 輪島市内には倒壊家屋が広範囲にわたって多数あり、行方不明者も多く存在する。一つの捜索現場にそれほど時間がかけられない厳しい現実もある。難しい判断が救助機関には求められる。

ココ、エマ、マロンなど災害救助犬の5頭がこの倒壊家屋を30分かけて捜索したが、いずれの犬も反応しなかった

 あたりはとうとう暗闇につつまれた。地域一帯は停電していることもあって、道は車のヘッドライトだけが頼りだ。亀裂も道路のあちこちにあって、下手な場所を通ればパンクだってしかねない。ゆっくりと前の車に従って進む。

 17時37分、待機場所となった輪島消防署門前分署に戻る。

 消防との連絡役を務めていたチーム員から「本日の出動はもうない」との報告を受ける。夜間の捜索はしないらしい。時折、余震を感じる中、暗闇での二次災害を懸念してのことだろう。張り詰めていた気持ちが少し緩んだ。

次の捜索へ備えて休息をとる

 夜のとばりが広がると同時に寒さが一段と増してきた。今夜はおそらく氷点下近くまで冷え込むことだろう。車の中で過ごすため、暖かい衣服をまとい、時折、ヒーターをつけねばなるまい。

 ココをケージから出して、散歩させる。普段は朝と夕の1日2回で、長いときはボール投げも含めて1時間は超える。だが、出動した被災地では時間のあるときにこまめに散歩させるしかない。いつ出動要請が来るかわからないからだ。

 10分ほど、待機場所の周辺を散策した。農道もあちこちで亀裂が入り、地面が隆起している。国道や県道と変わらない。

 ココの体調は散歩を見る限りいつも通りで、他の犬のおしっこのあとのにおいをかいだり、草むらに鼻を突っ込んだり、電柱のにおいをかいだり。たまに、「もっと行こうよ」と誘うように力強く引っ張ったりする。

 明日はどんな現場を捜索するのか。今夜は車の中で仮眠をとるが、生存率が低くなると言われる発災後72時間まで1日をきった。明日の捜索のために万全を期したいと思う。人間と犬、ともに英気を養っておかなければいけない。

 待機場所から遠くの方にこうこうと明かりがついている建物が見えた。門前町一帯は停電しているため、そこだけが目立つ。出動のための待機態勢から解放されたこともあり、行ってみようということになった。

災害救助犬の認定審査会、服従試験で出されるシーソー。途中で止まり、再び歩き出す。ココは最後に横に飛び降りたので、これは減点になる

(次回は7月17日に公開予定です)

【前の回】訓練された犬でも集中できるのは約10分 災害救助犬のココとエマが暗がりの中で捜索

河畠大四
フリージャーナリスト、編集者、災害救助犬ハンドラー、日本救助犬協会 救助犬部副部長。1984年小学館入社、ビッグコミックで手塚治虫担当ほか。1989年朝日新聞社入社、週刊朝日、経済部などで記者、編集者を務める。2020年に早期退職して、テントと寝袋を積んで日本縦断自転車ひとり旅に出る。自転車旅と救助犬育成を中心にX(@e37TQUBRKJcf49z)「ココ&バイク」で発信中。

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この連載について
災害救助犬、ココと行く
ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬のココとの生活に込められた喜びや挑戦を伝えていきます。
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