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猫との暮らしは相手を知ることから その子の気持ちに寄り添い過ごす時間を楽しもう

 猫と幸せに暮らすヒントや困りごとの解決法を、獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が教えてくれます。今回は、「新しく迎えた猫との付き合い方」について、入交先生が答えます。

猫と暮らしたい

 今年の4月は桜の木がピンクに染まりながらスタートしましたね。そしてこの記事を皆さまが読んでくださっているころには、新緑に包まれた木々に囲まれているころでしょうか。

 さて今回は、猫の性格と付き合い方についてです。

 猫と暮らしたいけれど、「猫はみんな“ツンデレ”なのか」「犬みたいに家族を愛してはくれないのか」「自分は猫の下僕になるのか……」など、猫の性格や付き合い方に関していろいろ聞きます。では実際に、迎えた猫とどう付き合えばいいのでしょうか?

 猫とうまく付き合うためには、まずは相手を知らないといけません。猫の性格や特徴は猫の行動からわかるのでしょうか? もし猫を家に迎え入れたら、来てくれた猫さんがストレスなく人と共同生活できるようにしたいものです。

適切な距離を保つ

 家族になった猫さんが、人にフレンドリーにあいさつしているときは、尻尾を上げて近づいたり、体を人にすりつけたりします。どちらも猫のフレンドリーなあいさつですので、尻尾を上げて楽しそうに来てくれたら、もうこちらを受け入れてくれたと思っていただけます。

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 でも、いくらフレンドリーにあいさつしてくれたからといって、いきなり体全体をもふもふと触ったらびっくりしてしまいます。握手を求めてにこやかにやって来る知らない人に対して、いきなり体中触って相手にマッサージすることを試みないのと同じです。実際にそんなことをやったら、驚かれて次からは警戒されてしまいます。

 猫がフレンドリーに来たとしても、相手がこちらの臭いをかいだり確認したりするのを待ちます。大丈夫そうなら、そのままあごの下やほほの部分や頭の上を指でちょこちょことなでてみてください。あまり長時間なでたり触ったりしないほうが、猫を驚かせないで済みます。

静かに見守る

 もし猫さんが隠れていたり、微妙に距離を保ち続けていたりするのであれば、無理に猫の近くに行くのではなく、距離を置いて静かに見守りましょう。

 猫は知らない人間のことが怖いから近づかないし、距離をとっているので、こちらが無理に近づいて触ったら、きっととても怖いと思います。人で例えるなら、「近づいてもいいよ」と言ってもおらず、知らない人だから距離をあけて様子を見ていたのに、無理に近寄ってきて触ってくる、という感覚になります。猫にとって、痴漢行為に近いかもしれません。

 昭和的言い回しですが、猫だって「いやよ、いやよも、好きのうち」などという気持ちになることはありません。嫌なものは嫌なので、距離をとっているのであれば、今は「いや」なのですから、そのまま距離を保って様子を見であげます。

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 そんな猫さんには、おいしいおやつを出して猫と人の間に置き、猫を正面から見つめずに横目で猫の行動を確認しながら、まるで猫なんかいないようなそぶり(演技)をします。そうすると猫も人間からの圧を感じずに済み、だんだん「この人大丈夫かも」と思って、おやつも食べてくれるでしょう。

その子の性格を楽しむ

 猫はなでられたりひざに乗るのが好きな動物と思われがちですし、そんな猫との生活を期待するかもしれませんが、猫もそれぞれで、人に甘えるのが大好きな子もいますが、ひざに乗ることや抱っこが嫌いな子もいます。出会ってご縁があったその猫さんの性格や好みを見て、もしひざに乗ったりなでられたりするのが好きな子であれば、たくさんモフモフして、一緒に寝てあげていただきたいです。

 しかし、人との接触が好きではない子であったり、人間のことがまだ怖いなと思う猫であれば、距離をとってあげて、そっと見守るような形で生活を始めていただくとよいかもしれません。時間をかけながら猫さんの愛情を少しずつ引き寄せる。“なかなか落ちない相手を落とす時間”を楽しんでいただけたらと思います。

 いろいろな性格の子を受け入れて、それぞれの子に合わせて寄り添っていただけたらよいのかと思います。

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 ちなみに私が一人暮らしをして自分ではじめて一緒に暮らした猫の「小太郎くん」は、一緒に布団で寝てくれるのに9年かかりました。日中は私のベッドで寝ているのに、夜私がそのベッドに入るとソファーに移って寝る子でした。猫アレルギーのある私に神様がこの子を使わしてくれたのだろうと思うことにして、猫と一緒に寝る夢はわきに置くことにしました。一緒に住んで9年経ってから、いきなりベッドに乗って布団に入り、横に一緒に寝てくれた日の驚きは今も忘れません。寒い青森県での夜でした。多分、小太郎も寒かったのでしょうね。

 保護活動をされている方から「社会化しなくては」「人になれる練習をして譲渡しなければ」と焦っていらっしゃるお話を伺うことがあります。無理に焦って社会化するのではなく、猫に合わせてゆっくり進めていただきたいと思います。また、人との距離がある猫でも、それを理解してくださって楽しんでくださる方に譲渡できればよいなーと思います。

 さて、この記事を書いている私の1m先に、そろそろ夕飯が欲しくてジーッとこちらを見つめている「フラの助」がいるので、今日のところはここでペンを置きます。

 いろいろな猫さんがいます。どの猫も“世界で一つだけの花”ですから、そんな特別なあなたの猫に、それぞれの方法で寄り添って一緒の時間を楽しんでください。

(次回は5月12日公開予定です)

【前の回】隠れ場所の安全性や避難先でのトイレ問題、ペットの疎開先 猫と暮らす家族の防災

入交 眞巳
獣医師。東京農工大学 特任准教授。どうぶつの総合病院・行動診療科主任。旧日本獣医畜産大学卒業後、米国パデュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。

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この連載について
ねことの暮らし相談室
 獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が、どうやって猫と幸せに暮らすかのヒントとともに、猫たちの困った行動への疑問に答えていきます。
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