東日本大震災の被災犬「チョン」 新しい家族に愛され、16歳になった今も毎日を謳歌
個性豊かな雑種犬の魅力を紹介する連載企画。第16回は、2011年の東日本大震災で被災し、原発の警戒区域を40日ほど放浪していた「チョン」。同居犬のラブラドール・レトリーバーとともに保護され、湘南に住む夫妻に引き取られ、16歳9カ月になった今も元気に1日3の散歩を楽しんでいます。
【基礎データ】垂れ耳で童顔の和犬系の中型雑種犬
- DATA
- 《名前》チョン
《年齢/性別》16歳/オス
《役割》震災への備えの大切さを伝える災害啓発犬であり、旅犬!
《サイズ》体高50cm・体⻑76cm・体重17.8kg
《チャームポイント》小さい頭に細くて長い脚、タキシードを着ているかのような胸元の白い模様
《特性》
人慣れ度★★★
犬好き度★★★
食いしん坊度★★★
運動量★★★
トレーニングしやすさ★★★
ケアのしやすさ★★★
保護したてをケージごと引き取り
大災害によって人間の生活が大きなダメージを受けると、それまで通り飼い主と一緒に暮らせなくなる犬たちが出てきます。「チョン」も、そんな被災犬の1匹でした。2011年の東日本大震災後、同居犬のレトリーバー「チーチ」と一緒に、原発の警戒区域内で放浪していたところを、動物保護団体に保護されました。
大震災の後、被災地のために何かできることはないかと思っていたときに、動物保護団体が被災犬たちの一時預かり先を探していることをSNSで知ったという、飼い主の西山嘉治さん、亜矢子さん夫妻。夫妻は動物が好きで、犬を迎えたいと思っていたところでした。
「一時預かりボランティアに採用されて、保護団体のところへ引き取りに行くと、2トントラックで福島から到着したばかりの被災犬たちが20匹以上、ケージに入っていました。『先住の猫と同居できる落ち着いた犬がいい』という希望を伝えてあったので、穏やかな性格だからと紹介されたのがチーチ。そして、チーチの“おまけ”として一緒についてきたのがチョンだったんです」と、亜矢子さんは懐かしそうに話します。
2匹は一緒に放浪していたとのことで、とても仲良し。保護団体からは「親子かもしれない」と言われ、別々に離すより一緒に預かってもらったほうがいいという判断だったそう。夫妻にとって自分たちで迎える初めての犬でしたが、「1匹も2匹も同じだ」と2匹まとめて預かることを決意しました。
「引き取りに行ったのが夜で暗くて、チョンは顔が小さいので、子犬みたいに見えていたんです。ケージごと車に積んで帰って、いざケージから出してみると、意外と大きいな、と(笑)」と嘉治さん。さらに、震災から約40日間、警戒区域を放浪していた2匹は、顔も体もマダニだらけ、傷だらけ。翌日動物病院に連れて行くと、幸いなことに健康状態に問題はありませんでした。
こうしてかなり突然に、夫妻と猫1匹に、中型犬と大型犬の2匹が加わった賑やかな毎日が始まりました。
飼い主が判明するが…
2匹は人懐っこく、すぐに西山家の生活になじみました。ただ、猫が目の前を歩いても目を合わせないようにするなど、最初は遠慮がちにしていたそう。また、チョンはビンゴミの収集車が来るとガタガタ震えるほど怖がっていて、震災の影響を想像させました。
しかし、4月に2匹を自宅へ連れてきた時点では、一時預かりという扱い。ようやく生活が落ち着いてきた夏のある日、飼い主が判明します。
「このままうちの子になればいいのにと思っていたので、無事に飼い主が見つかって、うれしいような寂しいような複雑な気持ちになりましたね」
ところが、飼い主はその時仮設住宅に住んでいて、とても引き取れないとのこと。メールで写真を送るなど数回やりとりしましたが、あるとき突然返信がこなくなり、そのまま月日が流れました。ある日、保護団体から「畜犬登録をしてください」と連絡があり、2匹はようやく正式に西山家の愛犬になったのでした。一時預かりを始めてから、実に4年が経っていました。
その後、2年前にチョンの相棒だったチーチが亡くなり、報告しようと元の飼い主の携帯電話に何度か電話してみたところ、ようやく連絡がとれるように。最近になって、元飼い主を通して、チョンを保健所から引き取ったこと、その数カ月後にチーチを迎えて、2匹は本当のきょうだいのように育ってきたことなどがわかりました。
「元の飼い主さんは2匹をすごくかわいがられていたようでした。野山を毎日5〜6km散歩して、農作業中は畑を駆け回って遊ぶなど、田舎での暮らしは犬にとって理想的な環境だった。それが、今のチョンの体の丈夫さや足腰の強さにつながっていると思います。震災後、2匹を置いてバスで避難せざるを得なかったとき、2匹の写真が入ったアルバムを持って行ったそうなんですが、避難生活の中で紛失してしまったみたいで。そのときに僕たちの連絡先もわからなくなってしまったそうです」
放浪中も助け合った相棒チーチとの関係
西山家に来てからも、いつも寄り添って暮らしていたチョンとチーチ。2匹で警戒区域を放浪していたときも、助け合って生き延びたであろうことが想像できたと言います。
「うちに来たとき、チーチにオヤツを渡すと、食べずにチョンの前に持って行って渡していたんです。だから、チョンは保護されたときもそんなにやせていなかったのかもしれません。チョンは慎重なリーダータイプで、そのチョンをチーチが用心棒のように守っていました」
西山家に来たころは4歳だった2匹ですが、12歳のころ、チーチに肝臓がんが発覚。チーチの体が少しずつ衰えて、散歩のペースが合わなくなってきても、チョンはチーチと一緒でないと散歩も行きたがらなかったそう。
「チーチの介護が始まってから、チョンは、散歩中に遊ぼうとじゃれ合いの誘いをしたりしてチーチを励ましているようでした。チーチのおなかが腹水で大きくなってしまって、静岡の伊東マリンタウンにある犬用の足湯温泉に連れて行ったときも、チョンは泳げないので嫌がると思ったのに、自らお手本になって足湯の中を歩くようにして見せていたのが印象的でしたね」
チーチが亡くなった後、チョンは4カ月ほど元気がなくなってしまいます。血液検査をすると肝臓の数値に影響が出ており、またそのときに甲状腺がんも発覚。しかし、14歳だったそのときから2年と少しが経った今も、毎月通院しつつも、毎日3回散歩に行くなど、それなりに元気に暮らしています。
チョンとチーチを迎えてから約5年後、災害時における犬との避難先としての役割も兼ねて、夫妻は大きなキャンピングカーを購入。チョンは旅に出ると元気になるので、大型連休ごとの車中泊旅は、チーチがいなくなった今もチョンと夫妻とで続けています。
「私たちも年を取ってきたので、今のペースがちょうどいい。チョンと歩いていると、いろんな人が話しかけてきます。自然と震災の話になって、長く話し込んで仲良くなることも。チョンとチーチは、人間にとって一番大切な喜怒哀楽を、私たちに運んできてくれました。彼らを癒やしたいという気持ちが強かったけど、私たちも彼らからたくさんの幸せと癒やしを授かったんですよね」
(次回は4月26日公開予定です)
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