がれきの山の中腹にある土管の中に要救助者が閉じ込められている。ココは要救助者が出すストレス臭の臭いを嗅ぎ分けて、近くまで行ってほえる
がれきの山の中腹にある土管の中に要救助者が閉じ込められている。ココは要救助者が出すストレス臭の臭いを嗅ぎ分けて、近くまで行ってほえる

愛犬を災害救助犬に! 犬種や血統を問わず、飼い主自身の訓練によって育成する

 ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬の「ココ」との生活に込められた、喜びや挑戦を伝えていきます。

育成は阪神・淡路大震災がきっかけ

 最大震度7の能登半島地震で、NPO法人日本救助犬協会(以下、協会)のTEAM7から私と愛犬ココを含めたチーム員4人と、災害救助犬3頭が出動することになった。

 1月2日9時、その旨、協会に連絡する。5分後、折り返しの連絡が入る。

「即出動はないが、待機して現地の情報収集をはかる」。チーム員に伝える。

 協会は阪神・淡路大震災の翌年、1996年6月に設立された。目的は「ボランティアによる災害救助犬の育成」だ。それというのも、前年の大震災のときは海外から災害救助犬が駆けつけた。日本にはほとんどいなかったからだ。しかも、空港の動物検疫で長く留め置かれて現場に出動するのが遅くなった。それがひとつのきっかけで、その後、日本でも災害救助犬の育成が急務であるとの機運が全国で高まり、各地で救助犬育成の団体が生まれる。日本救助犬協会(旧日本災害救助犬協会)もそのひとつだ。

 協会では、「犬種や血統を問わず、一般家庭で飼われている犬でも適性さえあれば、飼い主自身による訓練によって災害救助犬になることができる」という考えのもと、現在まで27年あまり、数百頭の災害救助犬や訪問活動犬(セラピードッグ)を育成してきた。

千葉県市川市の訓練場で伏せて「待て」をするTEAM7の犬とココ(手前から6番目)。昨年末に行われたTEAM7の運動会で、ココは「待て」競技で最後まで動かず2期連続で優勝した。11歳の老犬だから動かないほうが楽なのかも

災害時だけでなく、行方不明者の捜索も

 協会内には現在、救助犬のチームが2つある。ひとつは私が所属する“TEAM7”で、千葉の市川市から訓練場を借りている。もうひとつは東京の町田市に訓練場のある“チームさくら”だ。

 協会では今まで、東日本大震災や広島の土砂災害、熱海の伊豆山土石流災害などに出動してきた。2006年には栃木県のミツモチ山で行方不明になった墨田区の小学生を翌日捜索して発見し、墨田区長から感謝状が贈られた。災害時だけでなく、行方不明者の捜索にも協力してきた。ココも2019年9月、山梨県同志村のキャンプ場で行方不明になった女児の捜索に参加した。

 協会員は東京、千葉、神奈川、埼玉などの首都圏が中心で、現在は100人に満たない。2つのチームの訓練場とは別に、協会として埼玉県富士見市から借りた土地、小学校の校庭ほどの広さを訓練場として整備している。そこには、倒壊家屋に見立てた建物4棟、コンクリートの破片、石などを積み上げた高さ2、3階建てのビルほどのがれきの山などが設置されている。この訓練場で週末にTEAM7とチームさくらが交互に捜索訓練を実施している。

富士見訓練場の3号棟2階の箱の中に隠れている要救助者を発見してほえ続けるシェパードのエマ。昨年、災害救助犬の認定試験を受かったTEAM7の有望な若手の1頭

 私が所属するTEAM7は家族会員を含め20代から70代までの30人たらずで、会社員、公務員、自営業、専業主婦など職業も年齢もさまざまで、女性が多い。自宅で一緒に暮らす愛犬を週末に訓練する。服従を中心とした訓練を市川で、本格的な捜索訓練を富士見で行っている。

 とはいえ、訓練の途中、途中でボール投げをしたり、他の犬とじゃれあったりさせている。ドッグラン状態だ。だから、犬たちは訓練場に来るのが楽しみらしい。ココも私がボールを持つと身構えて「早く投げてよ」とスイッチが入る。

 訓練の中にごほびの遊びがあるのではなく、遊びの中に訓練があるようにできれば、理想的なのだが。ドックトレーナーでもないチーム員たちは毎回、試行錯誤だ。

 富士見では朝の9時ごろから夕方の16時近くまで、昼には弁当を食べながら犬のレベルに応じた訓練に励む。もちろんボランティア活動だから、用事があれば休むし、午前中だけとか、午後から参加することも自由だ。

嗅覚優れる犬たちの「かくれんぼ」

 捜索訓練は、広い訓練場のさまざまな場所に閉じ込められた要救助者を犬が優れた嗅覚(きゅうかく)を使って探し出す作業だ。具体的には、要救助者が出すストレス臭を嗅ぎつけて、すぐ近くまで行ってほえる訓練だ。その場にとどまってほえ続ければ、ごほうびに要救助者からおやつやボールなどがもらえるようになっている。そのため、犬にとってはごほうび目当ての「かくれんぼ」となる。

 テンションの高い犬はケージから出した途端、わんわんとほえて「早くやらせてよ」と催促する。犬にとって楽しくないとこうした訓練は続かないし、身にもつかない。

 能登半島地震でTEAM7から出動する災害救助犬は3頭。ボーダーコリー2頭にシェパード1頭だ。ちなみに協会には現在、災害救助犬の認定試験に合格した犬は14頭おり、うちTEAM7には5頭いる。今回出動しなかったのはいずれも小型犬で、ジャックラッセルテリアとチャイニーズクレステッドドッグだ。

 過去にはラブラドル・レトリバーやダルメシアン、ゴールデンレトリバー、ミニチュアダックスフント、シェットランドシープドッグ、ミックス犬などさまざまな犬種の犬たちが救助犬となっている。嗅覚さえ優れている犬で人が好きであれば、災害救助犬は犬種を問わない。

出動の準備でバタバタするとココはどこか遊びに連れて行ってもらえるのかとソワソワし始めた

(次回は3月20日に公開予定です)


【前の回】災害救助犬歴7年の愛犬ココ 元日、能登半島地震が起きてすぐ出動待機要請が来た

河畠大四
フリージャーナリスト、編集者、災害救助犬ハンドラー、日本救助犬協会 救助犬部副部長。1984年小学館入社、ビッグコミックで手塚治虫担当ほか。1989年朝日新聞社入社、週刊朝日、経済部などで記者、編集者を務める。2020年に早期退職して、テントと寝袋を積んで日本縦断自転車ひとり旅に出る。自転車旅と救助犬育成を中心にX(@e37TQUBRKJcf49z)「ココ&バイク」で発信中。

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この連載について
災害救助犬、ココと行く
ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬のココとの生活に込められた喜びや挑戦を伝えていきます。
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