災害救助犬のココ
災害救助犬のココ

災害救助犬歴7年の愛犬ココ 元日、能登半島地震が起きてすぐ出動待機要請が来た

 ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬のココとの生活に込められた喜びや挑戦を伝えていく新連載がスタート。災害救助犬としての資質や日々の活動、どのような犬が災害救助犬に選ばれて、どのような任務に従事しているのかなど紹介していきます。

 2024年元日に能登半島で最大震度7の地震が発生。早速、河畠さんとココが所属する「TEAM7」にNPO法人日本救助犬協会から出動待機要請が出ました――。

(末尾に写真特集があります)

11歳のココ、災害救助犬としての挑戦

 2024年、元旦は普段より30分ほどゆっくり起きた。

 愛犬のボーダーコリー「ココ」と初日の出を愛でながら、森閑とした森の中をいつものように歩く。森を抜けるとだれもいない広場にたどり着く。

 早速、服従訓練だ。ココを左脇につけて一緒に歩く。いわゆる服従の基本の脚側歩行だ。続いて早足。ココは少し遅れ気味に着いてくる。それが終わると「待て」「来い」「伏せ」とひと通りの服従訓練を行い、ご褒美にボールを投げる。うれしそうに全速力でボールを追いかけるココは現在11歳のメス。目はうっすらと白くなり始め、昨年、獣医から「まだ大丈夫ですが、白内障になりつつある」と言われた。真っ黒だった目の周りには白髪が目立つようになり、老いは確実にココに忍び寄る。

 犬の場合、7、8歳を過ぎるとシニアと言われ、ペットショップでは高タンパク、低脂肪の高齢犬用のドッグフードが売られている。それでもボールを追って走るココの姿は力強く、災害救助犬を引退するにはまだ早すぎるように思う。しかしそれも飼い主の欲目なのかもしれない。

いつもの散歩ルートにて

 日本救助犬協会(以下、協会)に入ってココが訓練を始めたのは、生後8カ月目の2013年7月。しつけ教室に通いながら服従訓練を行う。私の「座れ」「伏せ」「来い」「待て」といった指示に従うようにする。ひと通りのしつけを身につけたら、年2回の育成試験の服従部門に挑む。引き綱(リード)をつけたままの初級と、リードを外しての中級の試験がある。

 中級では、リードを外して指導手(ハンドラー)の脇について一緒に歩く「脚側歩行」の時に逃げ出す犬が少なくない。犬とハンドラーとの信頼関係が築けているかが鍵だ。

 もう一つ「休止」も難関だ。1m四方の枠の中、犬に伏せをさせてハンドラーは15m離れた位置で3分間見守る。犬が伏せの状態から座ったり、立ち上がったりするまでは減点で済むが、枠の外に出ると失格になる。これで不合格になる犬が意外と多い。

 服従試験が受かれば捜索試験の初級と中級だ。中級では、1辺1mの正方形の箱が4つ、四方に置かれ、その中の1つに人が隠れる。ハンドラーは箱から5m離れたところから犬に「捜せ」と指示する。制限時間は3分。人の隠れた箱の前でほえ続けられれば合格だ。

ハンドラーである筆者の「捜せ」の指示でがれきの山に向かうココ

 そんな4つの試験に合格して初めて「災害救助犬認定試験」が受けられる。この試験も服従と捜索の試験があり、2人の審査員は日本で歴史のある犬の団体、ジャパンケネルクラブ(JKCから招く。

 こうして5つの試験すべてに合格して、初めて災害救助犬と認定される。

がれきが積まれた土管の中を捜索するココ

 災害救助犬になるには早くても2、3年はかかるし、長年訓練を積んできたからといって全ての犬が合格するわけではない。まして、認定試験に合格しても有効期間が2年なので、2年ごとに認定試験に合格しない限り、災害救助犬であり続けることはできない。

 幸い、ココは3期連続で認定試験に合格し、7年連続で災害救助犬でいられた。たまたま試験時の体調が良かったり、天候に恵まれたりしたが、私が所属する「TEAM7」の中でも今や連続合格は珍しい。現在、TEAM7に救助犬は5頭いるが、その中で2期以上連続して合格している犬はココしかいない。ちょうど若い犬との端境期でもある。

 10歳以上の高齢犬になると任期が1年と短縮され、毎年受験となる。今年は4月に認定試験が実施される。果たしてココは合格できるのか。所属するTEAM7の20頭たらずの犬たちの中でも、ココの捜索力はトップクラスだ。とはいえ、年に1度、しかも天候にも左右される捜索試験で日頃の成果を存分に発揮させるのはなかなか難しい。

 そんなハンドラーの不安をよそに朝から元気よく走り回るココの姿が頼もしい。まさか、その日の夕方から出動待機の連絡が協会から入るとは夢にも思わなかったがーー。

地震発生30分後に出動待機要請!

 最大震度7の能登半島地震が起きたのは16時10分。たまたまテレビを見ていたら、地震速報が流れ、定点カメラに映し出された能登の映像には、家屋が崩れ、土煙が上がっていた。能登半島全域で震度が高く、周辺の富山、新潟でも被害が発生しているらしい。かなりの広域だ。

「もしかすると出動するかもしれない」と胸騒ぎがする。

 協会の内規では、震度6強以上の地震があった場合には自宅待機が原則となっている。地震発生30分後には協会から出動待機の指示が出た。と同時に出動できるメンバーを取りまとめるようにとのこと。しかし、私のスマートフォンの待ち受け画面に表示されたのは、「新年明けましておめでとうございます」の冒頭の2行のあいさつだけだった。そのため、「何をのんきなことを言ってるんだ」と勘違いして、わざわざ開封しなかった。

 19時過ぎ、わが家の食卓に並んだお節料理を前に、シャンパンを抜き、乾杯したところで、協会からのLINEを開封した。それが先ほどの自宅待機と出動メンバーの取りまとめ依頼だった。協会には翌2日朝9時に出動可能メンバーを報告することになっている。

シャンパンを一杯だけ飲んだ後に協会からのLINEを開封した。慌ててシャンパンに栓をしてアルコールを封印、出動待機に

 慌ててTEAM7の緊急出動用LINEで出動可能メンバーを募集した。そして私は「今週いっぱい出動可能」と流す。元日の夜というのに、メンバー22人からは次々に「出動可能です」「後方支援致します」「出動不可です」などと連絡が入る。

 翌2日の8:55までに全員から連絡が入り、日帰りも含め出動できるメンバーは私を入れて6人だった。しかし、出動場所が能登半島の最北部の奥能登になるため、日帰りは難しい。3日、4日と連続して出動できる人となると4人、救助犬は3頭に絞られた。

(次回につづく)

河畠大四
フリージャーナリスト、編集者、災害救助犬ハンドラー、日本救助犬協会 救助犬部副部長。1984年小学館入社、ビッグコミックで手塚治虫担当ほか。1989年朝日新聞社入社、週刊朝日、経済部などで記者、編集者を務める。2020年に早期退職して、テントと寝袋を積んで日本縦断自転車ひとり旅に出る。自転車旅と救助犬育成を中心にX(@e37TQUBRKJcf49z)「ココ&バイク」で発信中。

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この連載について
災害救助犬、ココと行く
ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬のココとの生活に込められた喜びや挑戦を伝えていきます。
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