能登半島から車で4時間半のアークのシェルター(大阪府)で、アークスタッフと散歩を楽しむヘムズリー君。環境にはすぐに馴染んだそう
能登半島から車で4時間半のアークのシェルター(大阪府)で、アークスタッフと散歩を楽しむヘムズリー君。環境にはすぐに馴染んだそう

能登半島地震の現場から被災犬をレスキュー 飼い主の決断と2匹のミライ

 公益社団法人「アニマル・ドネーション」(アニドネ)代表理事の西平衣里です。この連載は「犬や猫のためにできること」がテーマです。

 アニドネが支援している保護団体「認定特定非営利活動法人 アニマルレフュージ関西」(通称アーク)は、被災地からの犬を保護しています。2024年1月に大阪府にあるシェルターに身を寄せた「ヘムズリー君」と「アズキ君」。彼らの保護経緯を知ることは、ペットと暮らす私たちの心構えを今一度考えることになるでしょう。

17歳の高齢犬。優先順位をあげて保護

 保護依頼があったのは1月10日。石川県鹿島郡中能登町で被災された方からの犬の引き取り依頼でした。大阪から向かった保護団体「アニマルレフュージ関西」。他にも問い合わせは入っていたものの、17歳という年齢を聞き、優先順位をあげて対応したそう。現場に向かったアーク関西エリアマネージャーの奥田昌寿氏に、保護に至った経緯をお伺いしました。

「高齢の飼い主さんがお一人で犬と生活をされていました。もともとはこの子を看取(みと)ってから娘さんが暮らす家へ引っ越しされる予定だったと聞いています。娘さんとお孫さんも里帰りをしている最中での被災でした。家屋の倒壊などはなかったものの、強い余震が続く中、飼い主のお母様だけ石川に残って高齢犬と生活していくほど、心に余裕はなかったようです。アークが引き取りの日程を決めて伺う前日に、やっと安心して眠れたとおっしゃっておられました」

ヘムズリー君の保護時。年齢を考え大阪までの送迎は日帰りで、なるべく短時間とした。元飼い主さんにはアークの飼育ポリシーやシェルター環境などの説明をし納得され所有権譲渡をしてもらった

 長く暮らした飼い主さんと離れ、新しい飼い主を探すことになったヘムズリー君。しばらくはアークのシェルターで健康チェックなどを受けながら暮らしていきます。常日頃から行き場のない犬猫たちに新しい飼い主さんを探す活動をしている保護団体は、犬の性格などを把握し、保護犬の性格に合った新しい飼い主さんとの出会いを提供することになります。17歳という高齢ではあるものの、元気にお散歩もでき、食欲もあるそう。ヘムズリー君の新たな飼い主さんとの出会いが、被災した飼い主さんの心の安心につながることでしょう。

長期間を想定してアークで預かることになったアズキ君

 もう一頭は、甚大な被害があった珠洲市からの保護。ご自宅は半島の先端に位置しており、倒壊こそしていないものの、危険であることを示す赤紙が貼られた状況。ただ、その家に犬が保護される1月17日直前まで、家族の一人が犬のために残りお世話をされていました。

 名前はアズキ君。子犬のころ、家の近所をウロウロしていた元野良犬。家族として迎えられ、年齢は推定7歳。避難先の金沢市に向かったアークのスタッフにも、とてもフレンドリーだったそう。アズキ君の家族は、再び一緒に暮らすことを望んでいるため、アークでは3か月を目途にアズキくんを預かる判断をしました。3か月後にご家族が安心して迎えられる状況でなければ、預かりは継続されます。もちろん無料にて、長期の預かりとなります。

シェルター生活を始めたアズキ君。シェルターには常に数十頭の犬がいるが、アズキ君は来訪してすぐに他の犬たちともフレンドリーに接することができたそう

 一緒に暮らせるのがいつになるかはわからないけれど、一時的に犬のプロに預かってもらう選択は、人間側の環境を整えるうえで必要な選択だったのでは、と筆者は思いました。飼い主さんは、SNSにあがるアズキ君の様子を楽しみに見ているそう。

阪神、東日本、そして能登半島地震。ニーズの異なる被災地支援

 アークは現代表であるエリザベス・オリバーさんが立ち上げ、阪神・淡路大震災をきっかけに本格稼働した保護団体です。その後、東日本大震災のときは、200頭弱の保護や一時預かりを行ったそう。その際も現場入りした奥田氏は、それぞれのニーズに違いを語ってくれました。

「犬猫の保護団体として、能登半島地震で苦しむ人々や私たちの大切な伴侶である犬猫に対して何もしない選択はありませんでした。お正月ではありましたが、スタッフ一同で議論し、被災地支援に乗り出すことにしました。しかし、一口に震災といっても、状況は異なります。今回は道路も寸断され、半島の先端においては助けたくとも身動きがとれないという事態がおきました。東日本の際は原発エリアというリスクも重なりました。いずれしても、被災地支援の経験団体として、ペットが置き去りにされない状況をいかにつくるか、という思いでした」

アーク関西エリアマネージャーの奥田昌寿氏。復興まで長期に渡る支援が必要だと語る

 この記事を執筆している1月末時点でも、いくつかの支援案件があり、随時対応をしているそう。東日本大震災の際は、支援拠点を福島に持ち支援をしましたが、今回は関西にあるシェルターからの遠隔支援。片道4時間以上の距離はいかんともしがたく、現在も今後の支援に関して、もっとできることがあるのではないかと思案を続けているそう。

いざという時、犬猫のために頼れる人は一人でも多い方がいい

 日本に暮らすうえで、震災に備えることは必須のこと。明日は我が身と考え正しい恐れを抱くことは大切だと思います。各家庭に必要とされる十分な備蓄品はそろっていますか?同時に、一時的にでもペットを預けることが可能な体制を普段からとっておくことが大切だと奥田氏は語ります。

「いざ避難となったとき、ペットと一緒に行動することは当たり前だと考え、どこにいても落ち着けるよう、クレートトレーニングなどで犬猫を慣らしておくといった日頃からの準備は大変重要です。またどんな状況であっても犬猫は大好きな飼い主さんと一緒に過ごすことが安心かもしれませんが、どちらかに強いストレスや無理がかかるのであれば、しばらくの間は別離をし、その間安心してペットを預かってもらえる人や施設との関係をつくっておくことは、非常に重要なことだと言えます」

震災のときにはどうしても人間の命が優先されます。しかし、犬猫だって同じ命。同行避難のための訓練、そして致し方ない場合の別離避難も想定しておくのが、日本で犬猫と暮らす飼い主の責任と言えるのではないでしょうか。

アニドネでは、アークさんへの寄付がオンラインで可能です。また、アークさん以外にも被災地支援を行っている団体の一覧をWEBサイトにアップしています。

 私達アニドネも長期的視野で災害対策の仕組みづくりをしていきたいと強く思っています。全国の団体とのネットワークや獣医師会などの組織との連携を日頃からどうつくっておくのかなど、検討をしていきます。毎日毎日、かわいさと温もりで私たちを支えてくれている犬猫のために。

(次回は3月5日公開予定です)

【前の回】アニドネリサーチャーの活躍! 動物関連団体に寄り添う新しい活動のカタチ

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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