保護犬と家族になろう 正式譲渡の手続きをしたら関係づくりへ踏み出す
7回にわたって「保護犬の迎え方」を紹介する当連載。第7回は、保護犬とのトライアルを経て正式譲渡を決め、家族になるまでを伝えます。犬を迎えるワクワクした気持ちのなかで、つい忘れがちな生活用品の準備や、安全・快適な居住空間づくりを再確認しましょう。保護犬との絆を深める接し方や困りごとへの対処法も覚えておくと役立ちます。
家族全員一致で正式譲渡へ
保護犬との生活体験のトライアル期間を問題なく過ごせて、家族全員が「この子と暮らしたい」と思えたら、保護団体に正式な譲渡の手続きをしましょう。
正式譲渡の手続き
保護団体と「譲渡契約書」を交わして譲渡費用を支払います。譲渡費用は2〜5万円が相場ですが、医療費などの実費がかかっている場合はそれ以上になる場合もあります。
所有者変更の手続き
保護団体から「狂犬病予防接種証明書」「ワクチン接種済証明書」と、あるなら「鑑札」も受け取ります。住まいの保健所に愛犬として登録し、犬の所有者を保護団体から変更してください。合わせてマイクロチップの所有者変更の手続きも行います。
終生飼養の心がまえ
犬を迎えた飼い主には終生飼養の義務が生じます。動物病院に相談しながら健康管理に努め、子犬であれば不妊・去勢手術の時期を検討しましょう。譲渡の際に「万が一飼えなくなった場合には連絡してほしい」と伝えている保護団体もありますが、安易に飼育放棄をするべきではありません。
改めて愛犬の生活環境を見直す
面談やトライアルの段階で居住空間を決め、ある程度の生活用品をそろっているはずですが、正式譲渡を経て愛犬として迎えるタイミングで生活環境を見直しましょう。
人の気配が感じられるところへ
犬がふだん過ごす場所は、人の気配が感じられるリビングの一画や屋外の物音が聞こえにくい静かな部屋を候補にしましょう。床がフローリングであれば、タイルカーペットやクッションフロアなどの滑りにくい床材を敷いてください。犬が移動する廊下や別室、階段にも敷いておくのが理想です。
室内飼育を推奨している保護団体が多いものの、屋外飼育のほうが合っている犬もいます。犬にとって安全・快適で、家族とコミュニケーションがとれることを前提に居住空間を再検討しましょう。
安心できる環境をつくる
犬が常に家族の視線を感じるような状況は、緊張や興奮の原因になることがあります。家族がいる部屋を居住スペースにする場合も、犬が安心できる、落ち着ける環境を提供しましょう。たとえばクレート(ハウス)を置く方法もあります。誤飲やいたずらを防ぐために部屋の片付けを徹底し、危険なもの(電気のコードなど)がある場合はワイヤーネットを利用して囲いましょう。
先住動物と犬が落ち着けるハウスを
トライアルのときに先住動物とはトラブルが起きなかったとしても、譲渡を受けた犬が先住動物と行動を共にする時間が増え、自宅の環境に慣れて本来の行動を見せることで、問題が生じる可能性もあります。互いが明らかに慣れるまでは、不穏な空気が漂うときやトラブルが起きたときに、居住空間を分けれるようにしておきます。それぞれが落ち着ける場所も複数用意しましょう。
家族になった愛犬の備えに目を向ける
生活用品や散歩用品をそろえたら、防災用品も準備しておきましょう。災害時はペット同行避難が原則ですが、地域の避難所に必ずしも犬連れで入所できるとは限りません。いざというときことを想定することも大切です。
犬の生活用品を優先順にそろえる
犬の生活用品を優先順に「すぐ使う」「役立つ」「あると便利」の3つに分けて紹介します。「すぐ使う」用品はトライアルの前にそろえておくのも一案です。最初にあれもこれもと用意するより、生活を始めてから必要に応じて買い足していけば十分です。
保護犬から愛犬へと変わり、一緒にお出かけも楽しめるようになれば必要なものが増えていきます。愛犬との生活をより豊かにする備えを考えることも絆を深めるのに役立つはずです。
すぐ使う
- クレート
三方が覆われたプラスチック製のハウス。乗車時や災害時にも役立つ。犬が中で立ったり座ったりUターンしたりできるサイズを選ぶ - トイレシート
犬の全身が余裕をもって乗り、排泄(はいせつ)のときにくるくると回れるサイズ。小型犬でもワイドサイズ(60×45cm)が理想 - 食器
陶器製やステンレス製が衛生的 - 水入れ
陶器製やステンレス製が衛生的。慣れている犬ならボトル型給水器も予備として使う - 主食のフード
最初は食べ慣れたフードを与え、変える場合は新しいフードを少しずつ混ぜる - 犬がとくに好きなおやつ
社会化トレーニング(人、犬、物事などに慣れる練習)のごぼうびとして与える - ウエットティッシュ
体が汚れたときにシャンプーをしなくても全身をきれいにできる - ブラシ
被毛に合わせて選ぶ。短毛ならピンブラシやゴムブラシ、長毛ならコームやソフトスリッカーを使う - 迷子札
万が一の脱走に備えて自宅でも鑑札や狂犬病予防注射済票と一緒に首輪につける
役立つ
- おもちゃ
家族と一緒に遊べる引っ張りっこやボールのおもちゃを。遊ぶことに慣れていない犬には食べ物を隠して探させる知育玩具の「コング」や「ノーズワークマット」を試す - 消臭スプレー
トイレの掃除などに使える。犬がなめても安全な製品を選ぶ - 犬用ベッド(タオルで代用可)
クレートの中や犬の居住空間に置いて快適性を上げる - 季節に応じた用品(寒さ、暑さ対策用品)
寒さや暑さで体調を崩す犬もいるので用意する - マナー用品
お出かけができるようになって粗相をする可能性があるなら、マナーベルトやマナーパンツを用意する
あると便利
- トイレトレー
トイレシートへのいたずらを防ぎたいならメッシュ付きタイプを選ぶ - ケア用品
歯磨きや爪切りができれば便利だが、苦手な犬もいるうえ練習が必要なので、無理をせず保護団体や動物病院に相談する
散歩用品をそろえる
初めて犬を迎える人はトライアルを始める前に保護施設で犬と散歩に行く練習をしておきましょう。犬の散歩は1日1~2回を習慣にするのが理想です。散歩のときに必要な用品もそろえておきます。
すぐ使う
- 首輪、ハーネス
保護団体に相談して犬に合うものを用意 - 散歩用のリード2本
保護団体に相談して犬と家族に合うものを用意。伸縮リードやロングリードは、危険が人にも及ぶため慣れないうちは使用を避ける - 散歩用のバッグ
両手が開くサコッシュやウエストポーチが使いやすい - 水入れボトル
排泄物を洗い流す水を入れるボトル。先端がシャワーになっているタイプが流しやすい。器付きのタイプを選べば水分補給用にも使える - うんち袋
消臭タイプを選べばにおいが気にならない - ウエットティッシュ
人と犬の汚れを拭けるように兼用で使える製品を選ぶ
役立つ
- 寒さ、暑さ対策
冬は保温性の高い服、夏は首に巻くクールバンダナを用意する - キャリーバッグ/スリング
徒歩や公共交通機関で出かけるときには軽量で持ち運びしやすいキャリーを選ぶ
譲渡後のアフターフォロー
犬の譲渡を受けたあとも、信頼関係を築いた保護団体との付き合いを続けましょう。会報誌を発行したりオフ会を開催したりすることもあり、犬を介して交友関係が広がるのも大きな楽しみになるはずです。また、犬と暮らし始めてから悩みを抱えた場合も、犬をよく知る保護団体に相談できるのは心強いことでしょう。
アフターフォローを行うために、飼い主に定期連絡を頼んでいる保護団体もあります。最初は気軽に連絡する飼い主が多いものの、徐々に「報告がわずらわしい」「愛犬になった気分がしない」と連絡したがらなくなり、やがて途絶えてしまうこともあります。心配したスタッフが抜き打ちで家庭訪問に行き、信頼関係にひびが入ってしまったという事例もありました。
保護団体のなかには面談を通じて築いた信頼関係を踏まえ、「困ったときに相談してくれれば十分だから」と定期連絡を頼まないところもあります。アフターフォローに助けられることも多いのですが、譲渡後の付き合い方について気になることがあれば保護団体に相談してみましょう。
保護犬から愛犬へ、そして家族へ
犬が周りの人や環境に慣れるまで時間がかかります。犬と早く仲良くなりたい気持ちを抑えて、まずは「無害な人」と認識させてから、次に「よいことを提供してくれる人」へステップアップを目指しましょう。
犬が近づいてくるまで待つ
怖がりの犬には「そっとしておいて」というタイプも少なくありません。もし犬が人から遠ざかるようなしぐさを見せているなら追いかけないでください。犬が不安や恐怖を感じることは極力控え、家族に対する好意的な行動を引き出せるように待つことが重要です。少なくとも1カ月程度は気長に様子を見ましょう。
ごほうびで距離を縮める
最初は「おいしい食べ物を運んでくれる人」と印象づけることから始めてください。たとえば犬の近くを通るときに、ごほうびのおやつをあげてみましょう。人が怖いという気持ちが根底にある場合、手から食べられないことも少なくありません。その場合は犬の近くにさりげなく落として、すぐ立ち去りましょう。犬が喜ぶことを見つけたら「よいことを提供してくれる人」になるチャンスです。
フレンドリーな犬の力を借りる
もし1カ月以上経っても変化が見られない場合、不安や恐怖を強く感じやすいタイプの可能性があります。保護団体に相談して接し方を見直してください。家庭に余力があるならおおらかでフレンドリーな動物を迎えるのも一案です。ネガティブになりがちな犬をポジティブな雰囲気で引っ張って、一緒に乗り越えてくれる存在になります。多頭飼育が難しい場合は、フレンドリーな犬が集まる場所へ連れて行く方法もあります。
多くを求めない幸せもある
出会った犬と互いに元気で暮らせていることが何よりの幸せと考えて、多くを求めないことも必要かもしれません。保護犬は特別な存在ではなく、あくまでも犬です。なにげない日々を積み重ねてゆるやかに一緒に歩んでいくうちに、いつの間にかかけがえのない大切な家族の一員になれるはずです。
●監修=奥田昌寿(認定特定非営利活動法人 アニマルレフュージ関西)
(取材・文/金子志緒)
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