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保護犬を迎える前の手続き 面談で聞かれること、犬との接し方、譲渡費用を確認しよう

 7回にわたって「保護犬の迎え方」を紹介する当連載。第5回は、保護犬と対面する日に行われる保護団体との面談や、接し方のポイント、譲渡が決まってからの費用について伝えます。動物保護団体に「譲渡申込書」を提出したあとは、スタッフとの面接を行い、保護犬とマッチングが成立すればトライアル(犬と家族が試しに暮らしてみること)へと進みます。

面談からトライアルへの流れ

 保護団体では「譲渡申込書」を確認したあと、面談の予約や譲渡会への参加についてメールや電話で連絡します。面談のおもな場所はシェルターや譲渡会、新たな飼い主が見つかるまで世話をする「一時預かりボランティア」の指定場所のほか、ドッグカフェや動物病院に併設された「譲渡スポット」です。すでに気になる保護犬を見つけている場合はスタッフとの面談の次に犬と対面します。譲渡会などでは先に気になる保護犬を見つけたあと、スタッフとの面談になることもあります。

 面談は家族と保護犬のマッチングの成功を左右する大切な手順なので、ベテランのスタッフが面談を担当するケースが大半です。譲渡申込書では伝えきれなかったことはささいなことでも話しておき、信頼関係を築きましょう。

 スタッフも書類ではわからない家族の人となりを見て、相性の合う犬を紹介したり犬との接し方を説明したりします。スタッフの立ち会いによる保護犬との対面を経てマッチングが成立したら、トライアル(犬と家族が試しに暮らしてみること)へと進みます。

 譲渡希望者が保護団体の定める条件に合わない場合は、譲渡申込書の段階で断られることもあります。たとえば犬の飼育に反対する家族がいたり、留守が長時間にわたる家庭が子犬を希望したりするケースです。犬を迎えたい気持ちが変わらなければ、保護団体にアドバイスを頼んでみましょう。

保護団体スタッフとの面談

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 面談には家族全員と先住動物の参加を必須にしている保護団体もあります。目的は家族内の意見をヒアリングしたり先住動物の様子をチェックしたりしてミスマッチを減らすため。たとえば犬を飼いたい気持ちは一致していても、大型犬を希望する人もいれば、世話の中心になる人の体力では中型犬が限度というパターンも少なくありません。また、保護犬の譲渡後に先住動物と問題が起きることもあるからです。もしやむを得ない事情で先住動物を連れて行かれない場合は、スタッフに性格や体調を伝えて相談しましょう。

面談に持参するもの

 事前に保護団体から持参するものについて連絡があります。おもに必要な書類や写真は以下です。もし問題があっても事前にわかるので、アドバイスに従って改善できれば十分です。

  • 住まいのペット飼育規約書(賃貸や集合住宅の場合)
     ペット不可の住宅で犬を飼育するとトラブルの原因になるため。また、犬のサイズや頭数の制限を確認するため
  • 犬が居住する予定のスペースの写真
     犬の目線になって居住空間の安全性や快適性を確認するため
  • 庭やフェンスなどの外構部の写真や動画
     脱走対策などを確認するため。写真では全容がわからないことが多いため、動画が望ましい
  • 部屋にある観葉植物の写真と名前のリスト
     犬が口にすると中毒を起こす植物が多いため

ヒアリングの内容

 面談は書類以上にマッチングを判断する大切なポイントなので、主に以下の内容を確認されます。

  • 譲渡申込書の内容の再確認
     記入漏れや内容に相違がないことをチェックするため
  • 家庭の状況
     動物たちの生活や住環境に影響があること(普段の生活リズムに加えて進学や就職など)を確認するため
  • 世話の中心になる人の希望
     犬を飼いたいと希望する人と世話の中心になる人の希望が異なっていないか、家庭の状況をもとに世話の計画が現実的か確認するため
  • 家族の不在時の対応
     家族が帰省や旅行に出かける際に連れて行くのか確認するため。また、連れて行かない場合は犬の預け先や世話をする人を確認するため
  • 子どもがいる場合の対応
     保護者を中心に脱走や咬傷(こうしょう)事故のリスク、動物のストレス、同級生の訪問時の対応などを考える必要があるため
  • 動物の飼育歴
     飼育したことがある動物の性格、世話の様子、病気の対応、みとりなどをマッチングの参考にしたり、世話や病気の知識を確認したりするため
  • 先住動物の性格
     多頭飼育に向いているか確認するため

保護犬との接し方の説明

 面談のあとは保護犬との対面に移るため、接し方や触り方の注意点が伝えられます。犬に慣れていない人は良かれと思って自分の愛情を押しつけるような接し方になりがちですが、怖がりの犬では萎縮してしまう場合があります。相手が犬でも人間でも、気持ちを考えながら接するのがコミュニケーションの一歩です。

保護犬とふれあって相性をチェック

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 面接が滞りなく終わったら保護犬との対面です。すでに保護団体のウェブサイトなどで気になる保護犬を見つけているなら、まずはシェルターの中で一緒に遊んだり散歩をしたりしてコミュニケーションをとってみましょう。

相性をチェックするポイント

 面談を担当したスタッフが付き添って、家族が犬と適切な接し方や触り方ができているか、犬のコミュニケーションを理解しているか、といったことを確認します。犬の飼育経験があるに越したことはありませんが、初心者でも犬の気持ちを思いやることができれば譲渡へとつなげられます。

・怖がりの犬に対して
 多少のぎこちなさがあったとしても静かに近づく気遣いができていることが重要なポイントになります。説明を受けても子どもはついはしゃいで近寄りがちですが、保護者が「やさしくしてあげてね」と手本を見せて説明できるなら譲渡の可能性が広がります。

・やんちゃな犬に対して
 飛びつかれても落ち着いて対処できることがポイントになります。たとえば子どもが驚いて保護者の陰に隠れてしまった場合でも、「元気いっぱいだね」と子どもが受け入れられるようにさりげなくフォローしましょう。

先住動物との相性をチェック

 保護犬と家族の対面の次は先住犬との相性を確認しましょう。犬は家族がいれば場所が変わっても比較的普段どおりの態度を示してくれるので、スタッフが先住犬の態度、社会化の程度、犬同士の会話(ボディーランゲージ)をチェックします。猫は慣れない環境がストレスになるため連れてくるのは避けたほうが無難でしょう。スタッフが家族の説明で犬の性格を想定して判断します。

マッチングの成功率を上げる

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「譲渡申込書」や面談のときに、家族の希望をできる限り明確に伝えることがマッチングの成功率を上げるコツです。「活発な犬とキャンプに行きたい」「フレンドリーな犬といっぱい遊びたい」「穏やかな犬と日なたぼっこを楽しみたい」といったイメージを団体スタッフに伝えましょう。もし家族の希望を尊重してくれない場合は、その保護団体から犬を迎えるのは見送ったほうが無難です。

マッチングの成立

 マッチングの成立は、家族が犬と対面したあとも譲渡を希望していることが大前提です。初回の対面は互いに様子見で終わりがちなので、可能であれば数回行いましょう。スタッフの付き添いのうえ散歩を体験できる場合もあります。

 スタッフが家族の対応とそれに対する犬のボディーランゲージを見て、双方の相性が合っていると感じたらマッチングが成立します。もし保護犬に対面してみて家族と合わないと思ったら、きちんと断ることが重要です。

ミスマッチの例

 動物を迎えたあとは愛情や気持ちだけでは乗り越えられない問題が生じることもあります。保護犬と家族のミスマッチが起きた実例を知っておきましょう。

  • 保護団体から「怖がりだけどそのうち慣れるから」と譲渡されたが、1年経ってもなつかない
  • かむとは聞いていたけれど、想像を超えて手に負えない
  • 殺処分の期限が迫っている犬がかわいそうで迎えたが、病気が発覚して治療費がかかりすぎた

 これらのミスマッチの事例から事前確認の大切さがわかります。最初に出会った保護犬を迎えなければいけないわけではありません。時間をおいて家庭にぴったりの犬に出会える可能性もあります。スタッフが希望に合う犬の紹介を頼み、焦らずゆっくり探しましょう。

保護犬の譲渡に必要な費用

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 税金で運営している動物愛護センターからの譲渡の多くは無料で、一方、非営利の保護団体は第二種動物取扱業者となるため、それまでに使われた医療費や食費などの実費を譲渡費用とする場合があります(自治体によって異なるため、詳しくは各自治体にお問い合わせください)。高額になるケースは多くありませんので、目安の金額を知っておきましょう。

譲渡費用の内訳の例

 譲渡に必要な金額は、その保護犬に使われた医療費や自治体への登録費などの実費になり、2〜5万円が相場です。シェルターなどから自宅までの運搬を依頼する場合は、移動手段に応じて費用が発生します。以下、保護団体の譲渡費用の例を紹介します。

  • 譲渡料:2万円(狂犬病予防注射、混合ワクチン接種、血液検査、不妊・去勢手術、マイクロチップ装着の費用の一部が含まれる)
  • 自治体への畜犬登録料(鑑札):3000円
  • 狂犬病注射済票発行料:550円
  • 運搬費用(シェルターなどから自宅までの交通費)

高額な譲渡費用に注意

 病気やけがの治療で医療費がかかった犬、譲渡までに年単位の時間がかかった犬は、医療費、人件費、食費などの実費だけでも譲渡費用が高額になるケースもあります。動物病院のカルテや世話の記録などがきちんと開示され、高額の費用に理由があるなら、保護団体が一つの命をつないだことに報いるために納得のうえで費用を支払うことを検討しましょう。

 もし高額の費用の根拠がなく、寄付金の請求やフードの購入費などが上乗せされる場合は、法律に違反した保護団体を名乗る営利団体の可能性があります。

命を救うことも、幸せになることも大切!

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 保護犬とのマッチングは、迎えた犬も家族も全員が幸せになれるかどうかを慎重に考えることが大切です。じつは「かわいそうだから引き取ってあげよう」と哀れみや、「怖がりでも愛情をかければなんとかなる」と勢いだけでは、犬とハッピーな暮らしを送れないかもしれません。

 譲渡のみが目標になっている保護団体も「かわいそう」と「なんとかなる」を譲渡希望者に押し付け、安易なマッチングを行うことがあります。命を救うためではあるものの、保護犬も家族も「こんなはずじゃなかった」とミスマッチを生む結果になりかねません。

 優良な保護団体は社会全体で幸せな犬と家族を増やすことを考えて活動しているので、保護犬と犬を迎えた家族の未来まで慎重に考えてくれます。

●監修=奥田昌寿(認定特定非営利活動法人 アニマルレフュージ関西)(リンク:)
(取材・文/金子志緒)

次回は、「トライアル期間のこと」をお送りします。

(次回は11月24日公開予定です)

sippo
sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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この連載について
保護犬の迎え方
日本には、さまざまな事情から保護された行き場のない犬たちがいます。犬を家族に迎えたいと思ったら、選択肢に保護犬も入れてみませんか?当連載では、7回にわたって保護犬の迎え方を詳しく紹介していきます。
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