町の本屋の看板犬「ゴン」の突然死 亡くなってからもなお多くの人に愛されている

10歳のころのゴンちゃん。口の周りは白くなってきたけれど、歳を重ねるほど優しさが倍増した(勢津子さん提供)

 いつか来るペットとのお別れの日――。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。

 大阪市弁天町の本屋「ブックスB」の看板犬、ラブラドル・レトリバーのゴンちゃんは2022年7月29日に13歳で亡くなりました。ゴンちゃんは1歳半で前の飼い主から譲渡され、約12年間を本屋のオーナーで飼い主の勢津子さんと共に過ごしてきました。看板犬としてみんなから愛されたというゴンちゃんの当時の様子や、突然旅だったその日の様子などを勢津子さんにお聞きしました。

(末尾に写真特集があります)

とても優しく、人にも猫にも愛された愛犬ゴン

――勢津子さんは2022年7月に愛犬のゴンちゃんをみとられたとお聞きしましたが、ゴンちゃんはどんな子でしたか?

 とにかく優しい子でした「ワン」とほえることがないような子でしたね。私は大阪で本屋を営んでいるのですが、犬が苦手だったというお客様にもかわいがっていただけるような、おとなしい子でした。

――看板犬として毎日お店にいたのでしょうか?

 朝起きてお散歩へ行って、一緒にお店に行き、お店でずっと過ごしていました。ゴンが来てから外猫も来るようになって、最初は「犬がいる本屋」だったのですが、「犬猫のいる本屋」になりました。今は看板猫が3匹います。フク、ナナ、大吉です。朝晩のゴンの散歩のときには、地域猫の黒猫のラックがゴンと一緒に外を走り回っていました。

地域猫で6歳のラックと当時12歳のゴンちゃんの朝の定位置(勢津子さん提供)

朝ご飯を食べられなくなってその日に…

――ゴンちゃんはなぜ亡くなったのでしょうか?

 2022年7月29日の朝、食いしん坊のゴンが突然ご飯を食べられなくなったんです。食べたいのに食べられない。私の顔を見て「あれ?食べられない」って言うんですよ。ですので、大好きなバナナをあげてみても食べられない。また「あれ?」と。

 1歳半でうちに譲渡されてから初めて、ご飯が食べられなかった朝でした。そして、私が出かける支度をしている間に、ゴンが失禁してしまって……。それも初めてのことで、おかしいなと思って動物病院に連れて行こうと思ったらその日は定休日、午前中いろいろな病院に電話したのですがなかなか予約が取れず、ようやく午後3時に診療予約をとれるところを見つけました。

――その後、病院へ?

 いえ、午後になってゴンの息がどんどん荒くなって水も飲めなくなり、「もう少しで病院行けるから頑張って!」と声をかけていたのですが、呼吸がかなり荒くなったと思ったらそのまま息が止まってしまいました。私もお店のスタッフも、近所のTNR(野良猫を保護して不妊・去勢手術をおこない元の場所に戻す活動のこと)の活動を一緒にされている方も、あまりに突然のことで「うそ!」と口々に言うほどでした。あっという間でした。

――前日など、亡くなる兆候は見られたのですか?

 前の日の夜中も散歩して、おやつを食べ、ふつうに寝ました。

 亡くなった翌日に主治医に伝えに行ったら、主治医もびっくりしていました。もう亡くなってしまっていたので確定診断はしなかったのですが、5月に血液検査をしたときは異常がなかったので、「脾臓(ひぞう)など血液検査ではわからない隠れた臓器に腫瘍(しゅよう)があったのかな、または心臓だったかもしれないし」と言われました。

亡くなっても勢津子さんは毎日ゴンちゃんに話しかけている(勢津子さん提供)

最期まで親孝行な子だった

――ペットロスにはなりましたか?

 今でもペットロスです。お店でお客様とゴンの話をしながらよく泣いていました。あまりに突然のことだったので。今も毎日ゴンに話しかけています。ゴンがなくなってから毎日たくさんのお花が届き、棚を一段空けて、ゴンのコーナーを作りました。今もゴンの棚があります。

――介護はとくになかったのですね。

 ゴンは42キロあったので、常日頃から「最期までちゃんと食べて、最期まで一緒にお散歩しようね、お互い大変だからね」と話していました。歳をとって足腰が少し弱くなってきていたので、サプリなどはあげていましたが、毎日、数回散歩に行き、よく食べ、介護なく旅立ちました。周りの方々から「ゴンは最期まで親孝行だったね」と言っていただきました。

ゴンちゃんの棚。ゴンちゃんの寝床に敷いていたタオルから離れない看板猫のフク(勢津子さん提供)

ペットの死に向き合うことは、飼い主の使命

――勢津子さんにとって「ペットの死に向き合う」ということはどういうことでしょうか?

 家の子だけでなく、外猫を含めて死に向き合ってきましたけど、「しっかり最期を見届けてあげる」ということですね。その子たちに関わったものの使命だと思っています。どんな形であれ、目の前で息を引き取るのは悲しいけれど、なによりも「私のところに来てくれてありがとう、しっかり生きてくれてありがとう、また次会おうね」という気持ちです。後悔はないですね。ゴンについても、しっかりみとらせてくれてありがとうと思っています。

――ゴンちゃんの死や地域猫活動を通して思うことはありますか?

 子猫、成猫の譲渡もしますけれど、亡くなるのを見るのが嫌だから飼いたくないという方々がいらっしゃいます。ですが、「せっかく保護して助かった子と一緒にしっかり生活をして、最期まできちんとみとってあげること、それがこの子たちにとって幸せなことじゃないですか」と、家族に迎え入れることの大切さをお話させていただきます。ペットを引き取るときは、一生面倒をみるという覚悟をもって迎い入れていただきたいと思っています。

ゴンちゃんが自宅に来てから猫たちも居つくようになった勢津子さん宅。家猫のカイと自宅での一枚

<取材を終えて>
どの写真を見ても、穏やかな表情のゴンちゃん。ゴンちゃんが亡くなった後、あまりお話をしたことがなかったお客様からも「実は犬はあまり得意ではなかったけれど、ここで初めて犬に触れられた」など、お話をしてくださった方がいらしたそうです。人からも猫からも愛され、勢津子さんの希望どおり最期まで歩いて介護なく旅立ったゴンちゃんのご冥福を、心よりお祈りしております。

【前の回】愛猫が亡くなるのは悲しい でも、きっと虹の橋で幸せに過ごしていると信じている

岡山由紀子
某雑誌編集者を経て、2016年からフリーのエディター・ライターとして活動。老犬と共に暮らす愛犬家。『人とメディアを繋ぎ、読者の生活を豊かに』をモットーに、新聞、雑誌などで執筆中。公式サイト: okayamayukiko.com

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この連載について
ペットの死に向き合う
いつか来るペットとのお別れの日。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。みなさんの思いを伺います。
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