「え!こんなに動物思いなの?」 動物に関する世界のユニークな法律を知ろう

犬は花火にパニックを起こすことも。英国のスコットランドでは今年、そうした犬への配慮も含まれた、花火に関する新たな法律ができた

 公益社団法人「アニマル・ドネーション」(アニドネ)代表理事の西平衣里です。この連載は「犬や猫のためにできること」がテーマです。

 私たちアニドネには「リーガルリサーチ」という活動があります。世界の動物に関連する法律を調べて世界の潮流を知り、日本に活かせることはないだろうか、との考えからリサーチをしています。これが、とっても学びがあって本当に面白い。現在は7名で担当国を決め法律を深掘りし、2か月に一度集まって講義さながらみんなで勉強をしています。

 sippoの読者さんにも「ほぉーへぇー」と思ってくださる法律をご紹介しますね。

スコットランドの花火に関する法律

 動物福祉を考える上で法律を知ると、その国が動物の存在をどう捉えているのか、どう向き合っているのかがわかります。世界は広いので、全部を調べることは相当な期間がかかりそうですが、動物福祉が進んでいると言われている国を中心に調査を開始しました。

 私自身、この手のことは大好物で普段からアンテナを張っているつもりですが、いざ調査を開始すると知らないことがザクザクと。「なんと、動物思いの法律なのか!」と感動したり、「え!?こんなことを規制するのは人間の悪業があるからだよね」と少し複雑な思いになったりしながら、アニドネリーガルリサーチチームで、リサーチを進めています。

 英国北部のスコットランドでは2023年6月22日に、各地方政区画のカウンシル(単一自治体)ごとに花火禁止区域を指定することができ、その区域内で花火に点火したり、あるいは故意に火のついた花火を投げたりすることは犯罪となる新しい法律ができました。背景には、動物への配慮もあります。スコットランド政府のWEBサイトに記載のある検討メンバーのコメントを紹介します。

「我々は花火規制区域の導入を心から歓迎する。この規制は、ペット、家畜、野生動物の不必要な苦痛を防ぐために非常に必要である。花火によって引き起こされる苦痛を軽減し、動物に有害な、または動物が摂取する可能性のある花火の破片を防ぐのにも役立ちます。」

 ちなみに、人々が安全に花火を楽しむことができるよう、許可区域内での組織的な花火大会は引き続き許可されるそうです。

 個体差はあれども、犬はとても音に敏感。アニドネで支援する保護団体の方から「花火大会の日は犬の保護が増えます。音を怖がってパニックになって逃げだす子がいるんです」と聞いたことがあります。カミナリに震え上がるワンちゃんも多いですよね。自然現象はどうしようもないけれど、不必要な花火は動物にとって苦痛でしかないのです。

英国の「Lucy's Law(ルーシー法)」

英国で認可を受けた犬のブリーダーは、子犬が生まれた場所で母親と触れ合う姿を見せることが義務付けられている

 同じく英国では、2020 年4月6日から通称「ルーシー法」が施行されました。ルーシー法では、英国における第三者による生後6か月未満の子犬や子猫の商業販売を禁止しました。つまり、新たに子犬や子猫を迎えたい人は、ブリーダーから直接購入するか、代わりに保護センターから保護犬か保護猫を引き取ることを検討しなければならないことを意味しています。事実上のサプライチェーンの廃絶に踏み切ったわけで、素晴らしい英断です。

アメリカ・カリフォルニア州における法律

 また、アメリカのカリフォルニア州では、ペットショップで展示される犬・猫・ウサギは保護団体やシェルターで保護された個体のみ、といった法律があります。

 同時に、保護動物の展示をする際にペットショップは手数料を取らないことや、新しい飼い主さんへの譲渡にかかる費用は総額500ドルを超えないことなど、細かな規定をしています。 

アメリカの通称「ホットカー法」

 またアメリカには、通称「ホットカー法」という法律があることに驚きました。これは、アメリカの約30 の州において、危険な状況下で車両内に動物を放置することを禁止、あるいは放置されて苦しそうにしている動物を車両から救出した人に民事上の免責(訴訟からの保護)を与える法律です。

州によって詳細は異なるが、基本的には暑さや寒さが厳しい天候下や、えさや水の不足、換気の不十分な車両に動物を放置することを違法としている

 この法律、日本にも必要だと思いませんか?たまに、スーパーなどの駐車場で、車内に残された犬を見かけます。暑い夏は命にかかわります。動物の命を守る法律ですよね。

フランスの動物のための法律

 また、フランスは昨今、動物に関する法律の改正が進んでいます。2021年11月30日に「動物虐待と闘い、動物と人間の絆を強化するための法律」が制定されました。制定された内容のいくつかを紹介しますと、2024年1月以降、ペットショップでは犬や猫の販売は禁止となり、ペットショップでは所有者不明などで引き取り手を募集するための展示を行うと規定。また、2026年12月からは、水族館などにいるイルカやシャチについて、ショーをさせたり公衆と直接触れあわせたりすることは禁止となります。

 そして、私が個人的にいいなと思った施策は、2022年10月1日以降に適用となった「誓約と知識の証明書」の導入です。ペットを迎え入れる側に義務付けられたもので、有償、無償を問わず譲渡前に証明書への署名が必須というもの。ペットを譲渡する側も、証明書に署名したことを確認せずに譲渡すると処罰されるという厳しい内容となっています。

 証明書は、新たに犬を飼おうとしている人が、犬や犬との暮らしについての知識を得て、実践し、犬を幸福にしていくことを約束するものです。フランス官公庁のホームページからダウンロードできる犬に関する証明書を読んでみました。

 証明書は、本当にその犬を飼うことができるのかどうか飼う前に自問すべき質問、人とは異なる犬の生理的・行動的欲求を尊重し幸福を与えなければならないことを伝える内容からはじまります。そして以降、食事や睡眠、飼育スペース、運動、社会化、ライフステージについてなど、犬の生態や習性、犬との暮らしについての解説が続きます。骨を与えることには注意が必要であること、マーキングすることは犬の正常な行動の一部であること、犬は社会的な生き物なので他の犬との交流が必要で、もし1匹しか犬を飼っていないのであれば、毎日の外出は愛犬が他の犬と触れ合い交流する機会となることなど、各項目詳細に記されています。

 ちなみに、ペットの種別ごとに証明書は異なります。犬、猫、フェレット、うさぎ、馬。それぞれ生態は異なりますもんね。私が読み込んだ犬の証明書は、文字がぎっしり書かれたA4サイズの書類で全9ページ!しっかり学んでいい飼い主になりましょう、ということなのでしょうね。

 こんな風に法律で制度化を進めているフランスですが、背景には、ヨーロッパでも最も多い、年間約10万匹の動物が遺棄されているという現実があります。2021年末からフランス農業・食料主権省で「#StopAbandon」というキャンペーンを展開し、ペットを遺棄しないことを呼びかけています。

「#StopAbandon」キャンペーンのSNS用のサムネイルとしてフランス行政のサイトにアップされている画像

人間側の襟を正すのが動物に関する法律

 世界の動物に関する法律を調べながら思うことは、人間による不当な扱いから守るための法律が多いということです。例えば、多くの国が禁止の方向へ舵を切っている犬猫の生体販売。もともとペットショップを作ったのは人間で、そこで動物を買おうとする人がいるから商売も成り立っていたわけです。しかし今は、各国が法律で規制する潮流にあります。日本もそろそろ追随すべきときではないでしょうか。

 私たちアニドネは日本の動物福祉を世界トップレベルにするために活動をしています。そのために役立つ情報をアニドネらしく発信していきますね。アニドネのAWGs(アニマルウェルフェアゴールズ)の「世界はこんなに違う動物の法律」に、今回紹介をしてない動物に関する法律も掲載しています。興味のある方はチェックしてみてください。

(次回は10月5日公開予定です)

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西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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