食品企業が取り組みを始めた! 「アニマルウェルフェアアワード2023」発表
3年前、日本企業のウェブサイト上に「アニマルウェルフェアを守る」という言葉はほとんどなかったが、今、その状況が変わりつつある。
世界ではかつてより、食品にかかわりのある企業はアニマルウェルフェアの調達基準を持ち、採卵鶏をケージフリーにする目標年などを含め、公開してきた。こういった取り組みが日本でも見られるようになってきたのだ。
アニマルライツセンターでは前年度に国内のアニマルウェルフェアを上げるために最も効果的だった取り組みをした企業に「アニマルウェルフェアアワード」を贈っている。世界のアニマルウェルフェアの進捗(しんちょく)にはまだまだ追いつかなかったとしても、キラリと光る取り組み、社会課題を解決するために重要な取り組みは、やっぱりすばらしいのだ。
受賞した鶏賞2社、魚賞1社、そして豚賞1社の取り組みを紹介しよう。
採卵鶏の実態を子どもたちに伝える「汐文社」
汐文社は2022年12月に児童書『いつか空の下で さくら小ヒカリ新聞』(堀 直子/作 あわい/絵)を出版した。この本は採卵鶏のアニマルウェルフェアについて深く知ることができ、かつ心に響く作品だ。現在全国各地の図書館などに配備されており、図書館に出向いてみると貸出中であることも多く、たくさんの子どもたちの目に触れることになっている。児童書という分野で、畜産の赤裸々な実態を発表するのは簡単ではなかったのではないだろうか。
出版に至った勇気と判断が、認知度が課題であるアニマルウェルフェアの解決策となりえるだろう。
と畜という難しい現場で改善に取り組んだ「三和食鶏」
三和食鶏は茨城県にある成鶏(採卵鶏)の食鳥処理場。2019年に行ったアニマルライツセンターとの話し合い後から、社員の意識向上のための教育と改善を始め、放血不良というと畜時の失敗の割合を10分の1に、処理場に到着時するまでに死亡してしまう鶏の割合を9分の1に減らした。
世界のと畜場でのアニマルウェルフェア改善を分析すると、経営者の意識が高いことが効果的だとも言われている。三和食鶏は経営者がアニマルウェルフェアへの積極性を持ち、さらに社員も一緒に改善方法を考えるという手法で、実質的に鶏の苦しみを減少させたのだ。
養殖魚のアニマルウェルフェアに言及した「ニッスイ」
ニッスイは事業のメインである魚の分野でアニマルウェルフェアの取り組みを公開した最初の企業になった。養殖魚の96%において、事前のスタンニングを行い、またその改善の検討をしていることを公表した。
日本はノルウェーなどと並ぶ水産大国だ。ノルウェーの企業はやはり水産養殖のアニマルウェルフェアを年々高めていっている。一方で日本では養殖魚におけるアニマルウェルフェアが進まなかったが、そのような中での重要な最初の一歩だ。
生産者とともに豚の妊娠ストールフリーを推進する「コープ自然派」
コープ自然派は妊娠ストールフリーについて専用のチラシや記事、カタログなどで、度々組合員及び市民に向けて発信している。現在、販売する豚肉の多くが妊娠ストールフリーになっているが、たまたまいい生産者がいたのではなく、コープ自然派は地元の生産者である七星食品とともにフリーストール化を進めてきたのだ。
自ら需要を作り出しながら、生産者の良い取り組みを後押しするという理想的なサイクルを作りだしている。
アニマルウェルフェアは国内でも企業の重要アジェンダに
2022年度、私達は本当に多くの企業とアニマルウェルフェアについての対話をした。このエンゲージメントはすぐには結果に結びつかないかもしれないが、対話した多くの企業の中でアニマルウェルフェアの芽が育ち始めている。
受賞に至らなかった中にもたくさんの良い取り組みがあった。しかし、2022年度は表彰ができる事例は多くはなかった。なぜなら企業は内々で進めてはいても、情報公開に踏み切れなかったからだ。
日本企業は、この数年でアニマルウェルフェアを正しく理解し、アニマルウェルフェアの基本概念である5つの自由を支持することを決め、取り組みを進めてきた。
次にやるべきことは、現状、課題、目指す目標を含め、その取り組みを公表し始めなくてはならないだろう。そうすることではじめて、消費者も投資家も情報を得ることができ、アニマルウェルフェアを企業価値に変えることができるのだ。
今後、企業のアニマルウェルフェアの取り組みが公表されることを、読者の皆さまも期待して見守ってほしい。
(次回は8月14日公開予定です)
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