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気づきにくい猫の老化 深夜に大きな声で鳴くことが増えた、これって認知症?

 猫と幸せに暮らすヒントや困りごとの解決法を、獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が教えてくれます。今回は、読者から寄せられた「猫の認知症」についての相談に、入交先生が答えます。

夜中に鳴くのは認知症?

 立春が過ぎ、梅の花を見かける季節になりました。あたたかくなるのはもうすぐです。あたたかくなるのはうれしい反面、寒くて布団に潜り込んできていた猫が来なくなるのでさみしいのですが……。

Q. 愛猫は16歳で、これまで大きな病気もなく元気に過ごしています。ただいつの頃からか、深夜の要求鳴き?がはじまり(ごはんをあげるとおさまります)、最近はかなりしつこくなってきました。昼にしっかり食べています。認知症でしょうか。(ゆみさん)

Q. 17歳の愛猫が、以前は出さなかったような大きな声で鳴くことが増えました。何かを催促しているようなときもあれば、ひとりで鳴いていることもあり、動物病院では「認知症がはじまっているのかも」と言われました。何か改善策や、進行を遅らせる方法はありますか。(もんさん)

 今回は、夜中に鳴いてしまう猫のご相談を2ついただきました。

 夜中ににゃんにゃん鳴いてしまう行動の原因として、「認知症かな」とまず考えてしまうかもしれませんが、その前に他の病気が関係していないか、ぜひホームドクターのいらっしゃる動物病院で確認をしていただきたいと思います。甲状腺機能亢進症や腎臓病からくる高血圧でも猫の夜鳴きが症状としてあげられます。高齢ということもあるので、血圧測定と、ある程度詳細なところまで診られる血液検査をしていただくとよいかと思います。

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 問題がないようであれがば、あるいは問題は少しありそうだけれど、認知機能の低下も原因の一つと考えられるという話になった場合は、次は高齢性認知機能低下症候群(認知症)の可能性を考えて対策を取ります。

進行をおさえるための食事療法

 認知症の進行をコントロールするのに大切なのは、まずは食事療法です。

 ポリフェノールなどの抗酸化成分は大切になりますので、抗酸化成分の入っている高齢猫用のフードやサプリメントの使用を考えてよいと思います。青魚に多いDHAやEPAもフードに入っているとよいですね。動物病院には認知症の予防によいサプリメントもいくつかあります。また栄養からのアプロ―チだけでは難しいと思いますので、他に行動修正として以下のことを試してみてください。

認知症対策1.環境

 環境からストレスがかかっている場合は、それが認知機能を下げてしまうので、猫の生活環境を再度考えてみましょう。

 トイレは十分大きいですか?きれいですか?小さいトイレにカバーがついていませんか?システムトイレだからといって、砂を毎日取り換えていない汚い砂がずっとあるような状態ではないですか?

 もしトイレの環境がよくない場合は、大きなトイレを準備し、カバーのないトイレの方を選んでいただき、砂は便や尿が付着したらすぐに取り換えましょう。何週間もそのままにしておける砂はいくら抗菌処理がしてあっても汚いです。トイレの便器が抗菌処理してあるからといって1カ月水を流さない人はいないと思います。人が排せつする度に水を流すように、猫も排せつの度に汚れた砂は捨てましょう。

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 猫の寝床は十分にありますか?隠れられる場所、登れる場所、怖い思いをしないで行きたい場所に行けるような環境でしょうか?

 また夜中に鳴いても、何か失敗しても叱らないようにしましょう。大きな声で叱ったり、たたくなどの体罰を与えても、言葉がわからないので急に怖い思いをするだけですので、ストレスになります。

 叱らない代わりに、もし声や音を出して行動を中断させるようなことがあったら、必ず本当は何をすべきか伝え、正しい行動をさせて、その行動をほめます。

 例えば食卓に猫が乗ると、「あ」などと言ってしまうと思いますが、猫がこちらを見たら、まずは猫に床に降りるようにおやつを使って指示誘導し、床に降りたら、おいしい猫のおやつを床にいる状態で与えます。

 人の食事の時間はテーブルに乗らずに足元で待つ方がお得、と教えます。

認知症対策2.体と脳の運動

 知育トイ(知育玩具、パズルフィーダー)などを使って、体も脳も運動させましょう。

 認知症の場合、「脳トレ」で脳と体に刺激を与えるとよいかと思います。「知育トイ」を使ってフードを与えるようにしましょう。普段与えているフードを知育トイに入れ、時間をかけて工夫しながらフードを食べるゲームをさせます。

 ご家族との遊びの時間も猫にとっては刺激的で大好きな時間のはずです。猫じゃらしで遊ぶもよし、ただ一緒に座っている日があってもよし、猫との時間を作ってあげてください。そして話しかけたり、触ってあげたりします。

認知症対策3.刺激を与える

 マッサージが好きならマッサージをしてもよし、好きなモフモフポイントがあればそこに触れて刺激を与えましょう。フードを隠して探させるゲームや、猫にちょっとした芸を教えて脳を刺激するのも大歓迎です。芸を教える方法は犬と同じで、フードやオヤツを報酬として与え、ほめて新しい行動を教えます。

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人の認知症予防も参考に

 「認知症」という病気はまだわかっていない部分も多い病気なのですが、人の認知症に似ていると考えられているので、人の認知症の予防を参考に、抗酸化成分が多くDHAやEPAも入ったフード、脳トレのための「知育玩具」を上手に食事や遊びのときに活用し、頭を使わせること、適度な刺激を与えることを考えてあげましょう。

(次回は3月12日公開予定です)

【前の回】気分はデスクワークのお手伝い? かわいいけれどちょっぴり困る猫の“あるある”行動

入交 眞巳
獣医師。東京農工大学 特任准教授。どうぶつの総合病院・行動診療科主任。旧日本獣医畜産大学卒業後、米国パデュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。

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この連載について
ねことの暮らし相談室
 獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が、どうやって猫と幸せに暮らすかのヒントとともに、猫たちの困った行動への疑問に答えていきます。
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