こたつでぬくぬく。保護カフェにいたころから大の仲良しだった「シャイン」(右)と「ちる」(新村さん提供)
こたつでぬくぬく。保護カフェにいたころから大の仲良しだった「シャイン」(右)と「ちる」(新村さん提供)

圧迫排尿が必要な猫2匹を家族に! ひとつ屋根の下、心も体もぬくぬく幸せな日々

 埼玉県にある保護猫カフェ「ねこかつ」にいた2匹の猫、「シャイン」(オス、推定2歳)と「ちる」(オス、年齢不明)。シャインは交通事故に遭ったところを保護され、ちるは茨城県動物指導センターから引き出された。2匹とも、下半身まひで圧迫排尿・排便が必要な猫だった。

「圧迫排尿というケアが必要な子の譲渡が決まるのは珍しいこと」とは、これまで数多くの猫を保護し、新しい飼い主へとつないできた「ねこかつ」代表の梅田達也さん。そんな中、昨年8月にシャインが、そして今年に入ってちるも正式譲渡が決定する。しかも、仲良しだった2匹は同じご家庭へと迎えられたのだ。

(末尾に写真特集があります)

保護猫カフェ「ねこかつ」での出会い

 シャインとちるを迎えたのは、新村勝(しんむらまさる)さん、泉(いずみ)さん夫妻。夫妻が初めて「ねこかつ」を訪れたのは、昨年6月。猫たちとふれあい、そろそろ帰ろうかとなったころ、前脚だけを使ってテクテクと歩く一匹の猫が泉さんの目に飛び込んできた。

「それがシャインでした。歩く姿がとってもかわいくて」

「ねこかつ」にいたころのシャイン(新村さん提供)

 ひと目でシャインに引かれた泉さんは、シャインを家族に迎えたいと思った。でもそのためにはまず、圧迫排尿をできることが必須。経験のなかった泉さんは、週に3回ほど、圧迫排尿の練習をさせてもらいにシャインのもとへと通うようになる。

「シャインは膀胱(ぼうこう)がよく動き、手からすり抜けていってしまうようなところがあって。はじめのうちは全然うまくできずにいました。それがひと月くらい経った頃から『ああ、こういうことか』と感覚をつかめるようになっていきました」

先代猫「フク」の存在

 シャインに出会う2カ月前、新村さん夫妻は先住猫「フク」を看取(みと)っていた。フクは泉さんの友人が拾った猫で、目も開かず手のひらに乗るくらい小さな頃から、17年をともに生きた。フクの晩年は、腎臓を患い投薬と輸液が必要だった。がんにも侵され、脳にも転移したことで常に徘徊(はいかい)するようになるなど、闘病生活の末の看取りだった。

17年をともに生きた先代猫の「フク」(新村さん提供)

 しかし、介護に奔走したフクとの時間は新村さんにとって宝物になった。

「終わりの見えない介護に不安を抱いたことも、大変さを感じたことももちろんあります。でも、すごく濃い時間で、大変以上に、看取らせてくれたんだという思いが強かったんです」

 フクとの濃密な時間を経て、飼い主が見つかりやすい健康な子ではなく、自分はハンデのある子を迎えたらいいのではないかと考えていた泉さん。シャインの圧迫排尿がうまくできず、無理なのだろうかという思いがよぎることもあったが、それでも「ここで私が諦めてどうする」と自分を鼓舞し、練習を重ねていった。

 そうして圧迫排尿を習得し、昨年8月、シャインはトライアルを経て晴れて新村さん夫妻の家族になった。

ちるも迎える

 圧迫排尿は朝夕と寝る前、日に3回を基本にしている。排尿の際に、ウンチもたまっているようであれば一緒に圧迫排便する。また前脚2本でも歩きやすいよう、家中のフローリングに滑りにくいコルクマットやじゅうたんを敷き詰めた。「それ以外はいたって普通」と泉さん。かわいいシャインに夫妻はデレデレ、暮らしは順調な滑り出しだった。

オモチャで遊ぶのも大好き!(新村さん提供)

 シャインはというと、夫妻に信頼と安心を寄せるようになればなるほど、本来の寂しがりな性格がよくあらわれるようになっていった。

「どんどん私にべったりになっていきました。同じ部屋にいても私のことをずっと目で追っているし、寝室やトイレにもついてくる。暗闇の中振り返ると、ドアの隙間からじっとこちらを見ていたこともあって(笑)」

 そんなシャインを見ているうちに、ひとりで留守番させることを不憫(ふびん)に思いはじめた泉さんは、2匹目を考えるようになる。そして迎えたのが、「ねこかつ」にいたもう一匹の下半身まひの猫、ちるだった。

「ねこかつ」にいたころ、シャインとちるはテーブルの下でよく寄り添い過ごしていた(新村さん提供)

「2匹目は、『この子がいいな』という子に出会えればどんな猫でもいいと思っていました。でもいざ探し始める段階になると、健康な猫で、高いところに登ったり走り回ったりする姿を見て、シャインはどう思うだろう……と考えるようになりました」

 そこで、もともとシャインと仲良しだったちるが浮上する。出会った当初、ちるには別の人から譲渡希望が入っていたが、シャインの本譲渡が決まった頃にその話はなくなったと聞いていた。その頃から「ちるも家族に」と考えていたこともあり、話はトントンと進んでいく。

 再び「ねこかつ」を訪れ、試しにちるの圧迫排尿もさせてもらうと、シャインよりずっと簡単で、一度でクリアできた。

 早速トライアルがスタートし、再会を果たしたシャインとちる。新村さんの家にちるが着いて1時間後には、2匹寄り添って眠る姿を見せてくれたという。

2匹に癒やされる日々

 1月中旬にちるも正式に譲渡となり、夫妻の愛情をたっぷり受けながら2匹は暮らしている。寒い今は、2匹そろってこたつに大ハマり。ママっ子だったシャインもちっとも出てこず、ちると一緒にぬくぬくしているという。

「猫パンチを繰り出し合っていることもあり、2匹のかけ合いは見ていると本当に面白い」と笑う泉さん。そして泉さんは、シャインとちるが下半身まひであることを、「それもひとつの個性ですよね」とも話してくれた。

「シャインとちるのお世話は、子どもを育てるのと同じようなものだと思います。オシッコのことさえクリアできれば、誰でも愛情をかけられる、本当に、普通のかわいい猫なんです。それに、“ちるシャイ”を家族に迎えてなかったら、いまだにフクの最期を思い出し、涙する日々を送っていたかもしれません。2匹には感謝もしています」

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川本央子
フリーランス編集ライター。2005年、スクーバダイビング誌とリゾート誌を発刊する株式会社水中造形センター入社。国内外数多くの海と海辺の町を訪れ記事を制作。2010年に退社し、同年6月、趣味の雑誌を手がける株式会社枻出版社入社。犬と写真に始まり、さまざまなジャンルの雑誌・ムック本の企画制作を行う。レトリーバー犬種専門誌『RETRIEVER』、写真雑誌『写ガール』副編集長を経て、2021年独立。現在は雑誌とウェブを中心に企画・編集・執筆に携わりながら、育犬と子育てに奔走する。愛犬は、穏やかで賢く、でもちょっぴり不器用なイングリッシュ・コッカー・スパニエルの男の子「グレン」と、パッションを貫くミックス犬女子の「ピナ」

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