50代後半ひとり暮らし あえて大人の猫を迎えて手に入れた最高の幸せ
年齢を重ねてなお、「やっぱりもう一度、動物を家族に迎え入れたい」。そう考える人は多くいます。ただ、保護犬・保護猫の譲渡会では、年齢制限があるのではないか、ひとり暮らしの家には譲渡してもらえないのではないか……そんな条件面が頭に浮かび、ちゅうちょしてしまう人も多いのではないでしょうか。
今回登場するのは、先住猫とご自身の母親を続けて亡くし、さらに不慮の事故で体に不自由が生じてしまった野口さん。57歳という自分の年齢、そして体力を考えて、子猫ではなく、大人の猫を探していたところ、6歳のみぎちゃんと運命の出会いを果たしました。新しい家族を迎え入れ、幸せで穏やかな暮らしを送っている様子を、ゆっくりと伺います。
生涯でもう一度、やっぱり猫ちゃんと暮らしたい
「小さな頃から猫ちゃんと一緒に暮らしていました。最初の子は捨て猫で、今のように動物病院に連れて行くなどの感覚があまりなく、割と若くして亡くなってしまったんです。その後、姉が社会人になるタイミングで、白猫のカブくんを迎え入れました。カブくん亡きあとは、ののちゃんを。ぶち猫の可愛らしい女の子でしたが、18年間暮らしたのち、2020年2月に老衰で亡くなってしまったんです」
続いて2022年5月、野口さん最愛のお母様が亡くなります。ずっと入退院を繰り返していたものの、施設より自宅で過ごしたいという希望で、在宅介護をしていたのだそう。「ふたりでもう一度、猫ちゃんを飼えたらいいね」。そう話しながらも、それはかなわない夢となりました。さらに介護の間に、野口さん自身が突然の事故に遭い、右脚が不自由に。
「その事故で、私は生死をさまよう経験をしました。命は取り留めたものの、母が亡くなってからは寂しくて寂しくて。不自由な右脚を抱えて、自分は何のために生きているのか、生きる価値はどこにあるのか、全てのことに希望がもてなくなってしまったんです。もうこのままいっそのこと……そう思ったことも何度もありました」
「生涯でもう一度だけ、やっぱり猫ちゃんと暮らしたい」。そう思った野口さんは、少しずつ保護猫の譲渡会に足を運ぶようになります。最初はキャットフードを寄付するという名目で、ただ見ているだけ。やっぱり子猫ちゃんが多いな……、50代後半、それもひとり暮らしの自分には無理だろうな……。そんなふうに思っていたとき、運命の日がやってきたのです。
子猫ではなく、あえて大人の猫を探して
「ある日インターネットで、かつてのカブくんにそっくりな子猫ちゃんを見つけて、その姿を見てみたいなと思い、保護猫カフェ『ねこかつ』さんの譲渡会へ出かけました。その白猫ちゃんは、ちょうど若いご夫婦が飼い主になりたいと申し出ていたところ。『それがいいよね。幸せになってね』なんて思いながら、ふと隣を見ると、やけにミャーミャーと訴えてくる子がいました。それが今のみぎちゃん(当時はいちょうちゃん)だったのです」
そんなみぎちゃんを見て、「なんて可愛いんだろう! 6歳という大人の猫ちゃんもいるんだ! ぜひこの子を迎え入れて幸せにしたい!」そう思った野口さんは、自分は57歳でひとり暮らしであること、右脚が不自由であることなどを遠慮がちにねこかつに伝えたそう。
「すると『ひとり暮らしでも大丈夫ですよ!』と、スタッフさんが即答してくださったのです。それからトントン拍子に譲渡が決まり、2022年8月、とうとう我が家に。『私の右脚を埋めてくれる存在』という意図で『みぎちゃん』と名付けました」
愛情を注ぐほどに注がれる。最高に幸せな日々
もともと人懐っこい性格のみぎちゃんは、どこに行くにも野口さんの後をついて回ります。寝ても起きても、野口さんにぴったり。そのことが心から幸せ、と満面の笑みで語ります。
「夜中に私がお手洗いに起きると、そこにもついてくるほど。最近、寝室を2階に移したのですが、猫は寝場所が変わるのを嫌がると聞くので、どうかな?と思っていたところ、普通に一緒に2階に上がってきて。沖縄から来たと聞いていますが、それまでのボランティアさんなどにたっぷりと愛情を注がれてきたのでしょう。だから私がそれ以上に、もっともっと幸せにしてあげたいなと思いますね」
朝起きたらごはんをあげて、そのままブラッシングをして、猫じゃらしでたっぷり遊ぶというのが、野口さんとみぎちゃんのルーティン。あるときから後ろ脚で耳裏をかくようになってしまい、毎週火曜はシャンプータオルで体全体を拭くようにしているそう。するとかく回数が減り、耳裏も健康な状態に戻ってきたのだとか。
「キャットタワーやニャンモックなどもそろえているのですが、なぜかそれらは好きではなくて、カーテンレールやエアコンの上などを好むんですよね。もしかしたらそこにたまっていたホコリなどが原因かもしれず、隅から隅まで掃除しないと、と張り切っている今日この頃です」
開かずの間を「みぎちゃんランド」にすべく計画中
野口さんの家には、ご自身曰く「魔窟の部屋(笑)」と呼ぶ、開かずの間があります。そこにはお母様の遺品ほか、さまざまなものが置いてあり、いつか整理しないといけないと思いつつ、長い間手がつけられないでいる……そんな部屋なのだそう。
「私が出先から帰ってくると、その部屋のドアが、ちょうどみぎちゃんが通れるぐらい、少しだけ開いているんですよね。猫は冒険が好きだから、私がいない間にパトロールしているのではないかと。ただそこで、また耳裏の状態が悪化したら大変。だから今は、早くその部屋を片付けて、『みぎちゃんランド』に仕立てようと考えているところ。キャットタワー、キャットウオーク、隠れ部屋……猫は暗くて狭いところが好きだから、押し入れも有効活用して。あちこち探検できる部屋にしようと画策しているところです」
譲渡会で出会ったその日、来場者が来るたびニャーニャーと愛敬を振りまくみぎちゃんが、ふとすみっこで寝ていたときの寂しそうな横顔が忘れられない、と野口さん。さらに、自分に向けてニャーニャー鳴いたときのその顔が、亡き母の表情に似ているように見えて、心がぎゅっとわしづかみにされたのだ、とも。
「もし私のように、年齢や環境のことで動物を家族に迎え入れることをちゅうちょしている人がいたら、まずは思い切って相談することから始めてほしいと思います。一時は生きることに後ろ向きになっていた私が、ここまで立ち直り、さらに未来に向けて前向きに考えられるようになったのは、みぎちゃんの存在意外に考えられません。『年齢を重ねて、やっぱり動物と暮らしたい』。そう考える人と動物とが、よいご縁で結ばれることを心から願っています」
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