おびえ切ったようすで保護施設にいた「ビビ」。たまさんに引き出され、目覚ましい変化を見せていく姿がインスタグラムで話題に(たまさん提供)
おびえ切ったようすで保護施設にいた「ビビ」。たまさんに引き出され、目覚ましい変化を見せていく姿がインスタグラムで話題に(たまさん提供)

“その子のスペシャリスト”になれていますか? 犬や猫との幸せな暮らしに向けて

 2018年から自身の経験を通した保護犬に関する漫画をインスタグラムに投稿し、昨年は書籍『たまさんちのホゴイヌ』(世界文化社)を出版した人気インスタグラマー@tamtam さんこと、たまさん。動物保護団体、ブリーダー、トリミングサロン勤務を経て、現在は動物病院で働くかたわら、保護犬猫を預かり新しい飼い主を見つける、一時預かりボランティアを個人で続けています。

 行き場のない不幸な犬や猫を減らし、同時に一匹でも多くの犬や猫を幸せにするために、私たち一人ひとりができることは何でしょうか。さまざまな境遇に置かれた犬や猫、そして飼い主も含め動物に関わる人たちを見てきたたまさんに、聞きました。

どれだけ準備ができるか

「犬や猫を飼いたいと思ったら、そこには最期のときまで責任をまっとうする“覚悟”が必要だとよく言われますよね。でも、私はその言葉だけでは言い尽くせない部分を感じていて。例えばフルマラソンを走り切ろうと覚悟しても、靴が合わなければ走れないし、体力がなくても走れない。どこまでが覚悟と言えるのかって、すごく難しい。なので、私がよく考えるのは、覚悟以上に、“どれだけ準備できるか”ということなんです」

インターネット上にもたくさんの情報があり、学ぶことが容易とも言える現代社会。にもかかわらず、十分に調べることをせず、愛らしさに“つい連れて帰ってしまう”ことにたまさんは警鐘を鳴らす(たまさん提供)

 たまさんの言う「準備」とは、物理的なことだけでなく、知識を備えるということも含まれています。例えば保護犬を迎えたいと思っても、それが元野犬であれば家庭に慣らしていくための接し方があるし、分離不安になってしまいやすい子も、飼い主の接し方ひとつでその子の生活はより安心でき、安全なものになっていきます。

 事前によく調べてさまざまなことを知っておくことができていれば、対策を練れるし、こういうものだと受け入れやすくもなるでしょう。知っていることが多いほど、何かあっても余裕を持って対応でき、その余裕が犬たちの幸せにつながっていくはずだとたまさんは考えています。そう考えるに至ったのには、自身の経験がありました。

多いときで10匹ほどの保護犬と保護猫を預かっているというたまさん。飼い主募集中の保護犬、保護猫情報はインスタグラムからチェックできる(たまさん提供)

「結婚する前、一人暮らしの時に迎えた猫は若くしてリンパ腫になり、たった1歳3カ月で逝ってしまった。病気が発覚してからの闘病中、介護のため半年仕事ができない状態で、半面、医療費はどんどん膨れ上がっていきました。20年くらい一緒にいるものだと当たり前のように思っていたし、迎えたときはカケラも想像していなかったことでした」

「恥ずかしながら、親に借金して治療費を工面し、つききりで愛猫の介護をしていました」とも話すたまさん。猫一匹くらいならひとりで飼えるだろうという考えがいかに軽率だったかを思い知らされながらも、周囲の人たちのサポートもあって、最後まで世話をし、看取(みと)ることができた。

 しかし一方で、同じような状況で「世話をしきれない」「お金をかけられない」と飼い主から見放された犬や猫を、たまさんは多く見てきたといいます。どんな病気があり、どういう治療方法があるのか、医療費はどのくらいかかるのか……。もちろん病気のことだけでなく、ペットを迎える前にできるだけ多くのことを調べ、知っておくことは欠かせません。

犬や猫との暮らしは、いいときばかりではない。あらゆる事態を想定し、受け入れ対処するための準備が必要だ(たまさん提供)

「あらゆる事態を想定し、それに対してできるだけの知識を身につけ、準備をしておくこと。その上で、相手は命ある生き物であり、そうである以上、“予想できないことが起こり得るということを予想しておく”必要があると思っています」

問われる飼い主の管理能力

「動物の幸せを考えるとき、日本語では『愛護』とよく表現されますが、英語圏では『愛護』という言葉ではなく、『保護』という言葉を使います。危険や脅威、トラブルなどから愛犬を守ることが飼い主の責務であり、それは、ただめでるだけではないということ。犬の性質を知って、その性質に沿って育てていく。犬に、この人のそばにいれば大丈夫だっていう安心を与えることができる飼い主になるということです」

 そのためにすべきことは、愛犬を危険にさらさないようしっかりリードをつけて散歩をし、同時に他者や他の犬に危害を与えさせないこと、また本来群れで生活する動物である以上外飼いはしないこと、個々の性格を見極め、その子に合った接し方をすることなどさまざまです。

たとえきょうだいであっても、その性格は個々で異なる。個性を見極め、愛犬に合った接し方をできるかどうかがカギ(たまさん提供)

「最近とくに危ういと感じるのが“お犬様”な育て方。犬は群れの中で上下関係をつくる生き物です。自分が家族の中で一番上だと犬が認識すると、常に群れを守る必要があり、犬も穏やかには暮らせません。子犬のころから一般家庭で飼われていても怖がりという子はかなり多く、そして犬の怖いという感情はかむなどの攻撃となって現れることがあります。飼い主はどんと構えて、ときに毅然(きぜん)とした態度で接し、犬を守り管理していくことが大切なことなんです。かわいいと思うことはすごくいいことだけれど、愛情のかけ方を間違えないでほしいなと思いますね」

信頼する人に守られた生活は、人間の子どもがそうであるように、犬にとっても幸せなこと(たまさん提供)

 逆に言えば、犬が飼い主のことを信頼し頼っている状況は、その子の幸せを意味している。

「怖がりな子どもにおばけやしきを独りで歩かせれば、それは怖いに決まっている。でもおばけやしきをよく知るスタッフさんや両親が手をつないで引率してくれたら、その恐怖はずっと軽減されますよね。臆病な犬で、散歩を嫌がるので行かないという話をよく耳にしますが、本人の『いや!』という主張を尊重してしまうと、犬にとって大切な運動や飼い主とのコミュニケーションは確実に不足してしまいます。散歩を嫌がるのは、散歩中に何が起こるかわからないという恐怖心が関係していることが多いです。そこを理解し、散歩に慣れさせていく。信頼している人に守られているという安心は、犬にだって同じ効果をもたらすはずです。犬についての知識を深め、同時に愛犬をよく観察し理解する。彼らを幸せにするために大切なことは、その子のスペシャリストになることなんです」

子どもたちに教育を

 たまさんは、これから先の未来、犬や猫にとっても幸せな社会を築いていくには、子どもたちへの教育が欠かせないとも話してくれました。犬が若くて元気なころはよくても、いずれ老いて、介護が必要になることもある。犬を飼うということ、そして最後まで一緒に暮らすということはどういうことなのか、子どもたちに知ってもらいたいといいます。

15歳のときに、たまさんの家に元気いっぱいにやって来た「シロ」。亡くなるまでの3年間、老いていく姿をまとめた動画がインスタグラムに投稿されている(たまさん提供)

「子どもの情操教育のためにと犬や猫を迎える方もいれば、子どもから飼いたいと言われて迎える方もいます。そこで大事なのは、子どもがちゃんとお世話をすることに期待するのではなく、自分たち両親が最期までどれだけ大切にできるかなんです。犬には、子犬、成犬、老犬といくつかのライフステージがあり、また人よりもずっと早く老いていきます。体はどんどん不自由になるし、トイレの粗相も増え、何度洗ってもにおうし、意思の疎通もできなくなっていく。でも限られた時間だからこそ、そんな時間も大切にしてほしい。最期のときまで大切に育てていく大人の姿こそが、子どもたちの将来へと生きていくはずですから」

 たまさんは、いつの日か地域に開かれた「老犬・老猫シェルター」をつくることを目指しているといいます。犬や猫の幸せのため、また癒やされる前に癒やしてあげられる、そんな大人へと成長できる、子どもたちの教育の一助になればと考えているそうです。

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川本央子
フリーランス編集ライター。2005年、スクーバダイビング誌とリゾート誌を発刊する株式会社水中造形センター入社。国内外数多くの海と海辺の町を訪れ記事を制作。2010年に退社し、同年6月、趣味の雑誌を手がける株式会社枻出版社入社。犬と写真に始まり、さまざまなジャンルの雑誌・ムック本の企画制作を行う。レトリーバー犬種専門誌『RETRIEVER』、写真雑誌『写ガール』副編集長を経て、2021年独立。現在は雑誌とウェブを中心に企画・編集・執筆に携わりながら、育犬と子育てに奔走する。愛犬は、穏やかで賢く、でもちょっぴり不器用なイングリッシュ・コッカー・スパニエルの男の子「グレン」と、パッションを貫くミックス犬女子の「ピナ」

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