夫婦で一生背負っていく 余命宣告された愛犬の安楽死を決断した飼い主の思い

名古屋の夏は激暑で、リンちゃんを初めてプールに入れた日。あまりはしゃぐことなくお風呂入っているみたいだけれど、笑顔をみせてくれたリンちゃん(景子さん提供)

 いつか来るペットとのお別れの日――。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。

 2022年9月に愛犬のセントバーナードのリンちゃん(享年9歳)の安楽死を選択された景子さん。飼育放棄されていた3歳のリンちゃんを保護してから6年間、楽しい時間を過ごしていました。しかしある日突然、悪性リンパ腫で余命2週間を宣告されました。余命宣告された愛犬への思い、安楽死を選択した経緯などを景子さんにお伺いしました。

(末尾に写真特集があります)

しつけられていない危ない子だった

――リンちゃんはセントバーナードということは、超大型犬ですよね?

 そうですね。体重は64キロでしたが女の子なので、セントバーナードの中では小さいサイズだと思います。

――なぜリンちゃんをお迎えすることになったのでしょうか?

 当時3歳になる直前のリンを飼っていた方が、重篤な病気でペットより長生きすることはできないということで、新たな飼い主を探していました。最初に見に行ったときは、外の犬舎で閉じ込められており、週1回ボランティアさんが散歩に行くような状態でした。

 うちに来てくれた時はまったくしつけられていなくて、人間にとっては大けがにつながるようなかみ方をしたり、人間と遊ぶことや自分の体の大きさもわかっておらず、最初の1年くらいは私も流血することが多くありました。

 しつけのプロの方に週1回来てもらって、半年くらいして「待て」「お座り」などができるようになり、同時に飼い主にも飼い方の指導をしていただきました。それからは一緒に旅行へ出かけることもできるようになりました。

リンちゃんをお迎えに行って、獣医さんに直行したときの写真。飼育放棄されていたため、体臭がひどく、真冬なのに車の窓を開けて奈良県から愛知県へ連れて来た。楽しい生活の始まりにワクワクした(景子さん提供)

6年が経過したある日、突然の余命宣告

――リンちゃんの病気に気が付いたきっかけは?

 昨年のお盆にあまりに暑そうだったので、全身毛刈りをしてあげようと動物病院に連れて行きましたが、毛刈りをした翌日からご飯を食べなくなってしまいました。毛刈りがストレスだったのかな?と思ったのですが、まったく食べないし、立ち上がれなくなってしまったので、その日の夜、また病院へ連れて行きました。

 バスタオルで腰を釣り上げながら車に乗せ病院まで行ったのですが、病院に着いた時には口、舌、耳の中などの粘膜が真っ白になっていたんです。家から車で少し移動しただけで貧血を起こしていました。すぐに血液検査やエコー、触診などをしたところ、「悪性リンパ腫で余命は2週間から1カ月」と宣告されました。

――余命宣告をされた時のお気持ちは?

 残された時間があまりに短くびっくりしました。「昨日まで普通に家の中を歩き回っていた子が突然いなくなるの?」と。

 貧血も進んでいて体力的に抗がん剤治療も難しく、緩和ケアで看取(みと)りに入るしかないと知りました。でも正直、その時のことはあまり覚えていないんです。現実味を帯びていませんでした。

安楽死を選択した理由

――自然死を待たず安楽死を選択されたそうですが、経緯を教えていただけますか?

 余命宣告から3週間ほど介護をしていました。便も出ずおなかがパンパンに張り、呼吸がとても苦しそうで、病院で処方されたモルヒネの座薬も使っていましたが、徐々に効かなくなりました。あまりに苦しそうなリンを見て、「治る病気なら頑張ってもらいたいけれど、死を待つだけなら苦しいのに頑張らせるのは可愛そうだ」と、夫婦で話し合いをして安楽死をお願いすることにしました。

 でも、「明日安楽死をお願いします」と主治医に電話している最中に、2週間出ていなかった便が大量に出たんです。そしたら張っていたおなかが引っ込んで呼吸も少し楽になったようでした。なので、「便が出たのでモルヒネも効きそうだから、安楽死はやめます」と伝え、リンからは「まだがんばれるよ!」と言われた気がしたんです。

 その日は水も飲んでくれました。次の日、3日ぶりに尿も出たので、「安楽死をしなくてよかった、もう少し一緒にいられるな」と、その時初めて涙が出てきました。

いつも雪が降るととても寒く憂鬱(ゆううつ)だったのが、リンちゃんのお散歩のおかげで楽しいと思えたるようになった。リンちゃんは雪が大好きで、わざと深いところを歩いたり、跳んだり、雪掛けたり掛けられたり、とにかく楽しかった(景子さん提供)

――安楽死を一度やめ、再び安楽死を選択された背景にはどんなことがあったのでしょうか?

 便が出た5日後、息があがったまま、どんな姿勢をとっても、苦しくて眠れない状態が続き、一睡もできていないリン見て、もうここが限界点だなと感じたんです。モルヒネでも昏睡状態になれず、意識を失うこともできず、ラクな姿勢というものもなく、舌根沈下で窒息しかけては苦しくて顔を上げる……。そんなリンを一晩中見ていて、「何を頑張らせているんだろう?」と。

 もう十分に頑張ってくれたリンの最期が窒息死で、さらに苦しい時間を耐えないと死ねないという現実を目の前に「そんなこと絶対させたくない、これ以上の苦しみは絶対与えたくない。解放してあげる方法が死ぬこと以外にないのなら、終わらせてあげよう。最期まで目を背けずに見届けよう。決断したことに後悔することはやめよう。リンに失礼だから」と決断しました。

――リンちゃんとの別れから4カ月、今のお気持ちをお聞かせください。

 安楽死という選択があったことで、リンも私たち夫婦も救われました。自分たちが何もできないでいることのほうが、より後悔が残ったと思います。見ているのがつらいから安楽死を選んだわけではありません、それは人間のエゴですから。リンを飼い始めたときに、自分たちで最後まで責任を持って飼うと覚悟を持って迎い入れました。その責務をまっとうしたと思っています。

 ただ、安楽死を選択したという事実は一生背負って生きていきます。正直、悲しくてさみしいという気持ちですが、「あんな悲しい思いをするなら、もう二度とペットを飼いたくない」というのは、リンのすべてを否定することになるので、そうは思いません。

 今は楽しかった時間をくれてありがとう、かわいい姿をたくさん見せてくれてありがとうという気持ちです。

モルヒネより効果があったかもしれないという、景子さんの夫との添い寝。これが最後の添い寝となった。主治医が来るまで、ただただ「ありがとう」 と「大好き」の思いしかなかったそう(景子さん提供)

<取材を終えて> 
 1時間半にわたる取材から、ご夫婦のリンちゃんに対する十分すぎる愛情を感じました。ペットの安楽死については賛否両論あります。ただ、景子さんが安易にその選択をしたわけではないということを、読者の皆様にご理解いただきたく思います。

【前の回】「死」があるからこそ「生」に意味がある 15歳の愛犬を亡くして学んだこと

岡山由紀子
某雑誌編集者を経て、2016年からフリーのエディター・ライターとして活動。老犬と共に暮らす愛犬家。『人とメディアを繋ぎ、読者の生活を豊かに』をモットーに、新聞、雑誌などで執筆中。公式サイト: okayamayukiko.com

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この連載について
ペットの死に向き合う
いつか来るペットとのお別れの日。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。みなさんの思いを伺います。
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