柴犬に長文で話しかけないほうがいい理由は? 短い話し言葉がシニア対策になる

柴犬によき話し相手になってもらうにはコツがある(提供:くろみつちゃん @kuromitsu_mameshiba)

 犬に話しかける言葉といえば、最初は「かわいい」「おすわり」などの短い言葉。しかし家族として長い時間を過ごすうちに、いつの間にか文章で話しかけていませんか? 犬を世間話や独り言を聞いてもらう相手にしていると、飼い主さんの声がBGMに変わって聞き流されるようになってしまいます。

「犬に文章で話しかけるのをやめて短い単語を使うと、まるで人間とやりとりしているかのようなコミュニケーションがとれます」と獣医師の山下國廣先生。話し言葉の使い方次第で、シニア犬や老犬との暮らしが豊かになります。ご長寿犬種の柴犬は「人生100年時代」を先取りしたような犬。長生きするからこそ、若いころからシニア期に備えておきましょう。

柴犬に長々と話しかけないほうがいい

 飼い主さんにとって愛犬はとても身近な存在です。散歩のときに「楽しいね!」、日なたぼっこをしながら「眠くなっちゃう……」などと話しかけることもあるでしょう。犬は言葉がわからなくても、言葉の響きでなんとなく気持ちを察してくれることがあるようです。

 なかには、毎日の出来事を愛犬に長々と話しかけている飼い主さんもいるのではないでしょうか? 神妙な顔つきで「うんうん」と聞いている柴犬を想像するとほほ笑ましく感じますが、じつは犬への長話はやめたほうがいい習慣のひとつ。犬に理解できない内容を長々としゃべっているだけではBGMになってしまいます。

 人の声全般に対して犬の反応が鈍くなり、名前を呼ばれても気がつかないことも。飼い主さんはコミュニケーションだと思っていても、残念ながら犬は聞き流しているのかもしれませんね。ここぞというときの的確な声かけでコミュニケーションを深めましょう。

話しかけても知らんぷりされたら、気づいていないのかも(提供:なっちゃん)

短い話し言葉の「あれ?」や「違う」を使う

 家庭で犬と暮らしていれば「おすわり」や「まて」などの指示では伝えきれない、微妙な場面がたくさんありますよね。飼い主さんの声は長々としたおしゃべりではなく、そういうときのためにぜひ使ってください。同じシチュエーションで同じ短い単語を言っていれば、犬は話し言葉でも理解できます。

 たとえば「あれ?」は、犬が理解しているはずなのにうっかり間違えているときに使えます。玄関のドアの鍵を閉めるときにいつも座って待っているのに、犬がうっかり立ち上がって一歩踏み出してしまったような場面。「あれ?」と声をかけて、犬が飼い主さんを見るまでその場で待ってみてください。やがて犬は自分がルールを破ったことに気づき、飼い主さんを見たあと「ちゃんとおすわりしていますよ」という顔でささっと座るはずです。

 ほかに「違う」も使えます。例えば、和室には犬を入らないというルールにしているのに、「前脚だけなら許容範囲でしょ」と犬が勝手に思って侵入しているような場面。「違う」と声をかければ前脚もNGだと察して、すすっと出ていくでしょう。わかったうえで笑って居座る犬もいるかもしれませんが、これからも和室を立ち入り禁止にしたいなら(そのルールを犬に守らせたいなら)最終的には犬を出て行かせてくださいね。

 このような話し言葉で犬と交流していると、まるで人間とやりとりしているようだと思いませんか? とくに柴犬はルールを覚えさえすれば律義に守ろうとするので、「あれ?」「違う」などののひと言でも察してくれる気がします。私も愛犬のすぐり(甲斐犬)とやりとりするときは、まるで人間を相手にしているようだと思ったものです。みなさんにも犬との交流をもっと楽しんでほしいですね。

犬にも人間の話し言葉を教えてやりとりを楽しもう(提供:あずきちゃん)

飼い主の声をシニア対策にも役立てる

 犬が若いころから飼い主さんが場所とタイミングを選んで声をかければ、日頃のコミュニケーションがシニア対策にもなります。目が見えづらくなったり足腰がおぼつかなくなったりする前に、始めることをおすすめします。

(1)「ちょっと待ってて~」と「まて」を使い分ける

「ちょっと待ってて~」は犬との日常生活でよく使う声かけのひとつ。これは「まだきみの望みをかなえるのに時間がかかる」という意味。その場で待つ(行動を止める)という意味の「まて」と使い分けると犬が意味を明確に理解でき、意思の疎通がはかりやすくなる。
(柴犬は「おすわり」「まて」が得意だけど「おいで」が苦手 トレーニングのコツはこちら

(2)階段や段差の手前で犬を止めて、「階段」と声をかけてから進む

 リードをつけているならその場でリードを固定していったん止める。もしくは「まて」などの指示で止める。それから「階段」と声をかけてから進めば、犬は言葉と場面を結びつけて覚えるので危険回避になる。より具体的に、上るときは「上って」、下るときは「下りて」と声をかけてもよい。若い頃から習慣づけておけば、視力が衰えても飼い主の言葉を信頼して支障なく行動することができる。

(3)犬の衰えを感じたら、失敗する前に止めて「抱っこ」と声をかける

 車やウッドデッキ、お気に入りの高所へ飛び乗る柴犬は多いが、年齢を重ねるごとに危うくなってくるもの。ピョンと身軽に乗れていたのがギリギリになったら、ジャンプする前にリードや「まて」の声で止めて、「抱っこ」と声をかけて抱き上げて乗せよう。柴犬はそれまでできていたことを失敗すると落ち込んで、ほかのできることもやらなくなることもある。

的確な声かけは飼い主への信頼感を生む(提供:ひなちゃん @hinahime0329)

おすわりしたら「いい子」が老犬の要求吠えに

 日本の飼い主さんは、犬にとにかくおすわりをさせたがることが特徴です。そして犬がおすわりをすると、何でもかんでも「いい子」と解釈しておやつなどの報酬を与える方が多いと思います。しつけやトレーニングの一環として当たり前のように思うかもしれませんが、この習慣は柴犬が老犬になったときの要求吠えにつながる可能性があります。

 玄関で鍵をかける間に座って待つなど、ルールとして決まっている場合を除き、指示していないのに自分からおすわりをして飼い主を見つめるのは、「おやつをくれ」「散歩に行きたい」といった犬の要求行動であるケースが少なくありません。「要求吠え」ならぬ「要求おすわり」なのです。

 座ってダメならピイピイと鳴いて、鳴いてもダメならワンとほえて、ワンとほえてもダメならワンワンワンとほえ続けるようになります。柴犬の老犬に多い夜鳴き(ほえ続ける)問題は、もしかしたら若いころから習慣になった要求行動なのかもしれません。

 もちろん老犬は不調や痛みが出やすいので、吠えの問題があれば、まずは必ず動物病院を受診してください。そのうえで不調がなければ、老犬に詳しい専門家に相談して要求吠えの対策をしてみてください。

「夜鳴きは認知症」と決めつける前に動物病院を受診する(提供:ぽち丸ちゃん @shibainu.pochimaru)

柴犬は人間の思慮深いパートナーになってくれる

 犬はシニアになっても長い文章を理解できるようにはなりませんが、人間より思慮深いところもあります。とくに日本犬は、話し言葉による交流が得意で、パートナーのようになれる犬種だと思っています。指示とイエス・ノー意外は話しかけないほうがいいと言う人もいますが、犬にかける言葉が指示ばかりでは、一緒に暮らしているのに寂しいと思いませんか? 

 今回お伝えした話し言葉の活用や声かけの習慣は、若いころはもちろん、心身が衰えるシニアになったときにこそ役立ちます。柴犬とのコミュニケーションを楽しみながら、シニアの備えとしていかしてくださいね。

【前の回】自宅や散歩中の脱走、ハウスに入らない柴犬 トラブルを防ぎ安全管理をしよう

監修:山下國廣(やました・くにひろ)
獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した。

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金子志緒
ライター・編集者。レコード会社と出版社勤務を経てフリーランスになり、動物に関する記事、雑誌、書籍の制作を手がける。愛玩動物飼養管理士1級、防災士、いけばな草月流師範。甲斐犬のサウザーと暮らす。www.shimashimaoffice.work

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柴犬のすべて
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