シニアになった愛犬にこの先何をしてあげられる? 老犬介護士に聞いた

老犬介護士の寺井さんと当時16歳の筆者の愛犬モカ(提供:寺井さん)

 愛犬の認知症が始まったころ、「これから先どんなことがあるの?」「介護は大変なの?」と不安でいっぱいだった私。出会ったのは、老犬介護士のペットシッターである寺井聖恵さんでした。できないことが増えていく愛犬の段階に合わせたアドバイスのおかげで、「うちの子にあった介護」ができました。

  老犬介護士はまだまだ数少ない職業ですが、こういった専門家のアドバイスを受けることで、より早く、愛犬との穏やかな時間が増えるのではと思うのです。シニアになった愛犬に、これからどんなことをしてあげられるか、寺井さんにお話を伺いました。

老犬介護の悩みは解決できる?

――老犬介護士とは、どんな資格なのでしょうか?

 民間資格なので、いろいろな所で資格は取れるのですが、私が植物療養士のパートナーと共同主宰しているドッグライブリー協会では、「シニアドッグ介護習得コース」として、老犬の介護全般を学び、しっかりと身につけることを目的としています。

 具体的には、おむつのケアや徘徊(はいかい)、夜鳴き、床ずれなどへの対応、歩行器での補助など具体的な技術のほか、老犬が快適に暮らせるための住環境や食事のこと、さらには飼い主さんへの接し方、介護士として働く心得などと、幅広い内容です。

 通信教育もありますが、私のところでは、オンラインと対面セミナーを行っています。さらに、修了した人の中で研修を強く希望している方には個別対応もしていて、現在、私のお客さまの所でボランティアのような形で実地研修をして、介護の経験を積んでいる修了生さんもいます。

――寺井さんは、老犬介護士として普段どんなことをされているんですか?

 私の場合は、ひとつはペットシッターとして老犬の介護代行をしています。ご家族の不在時にご自宅に訪問して、わんちゃんの食事の補助、おむつ交換など、ご家族のニーズを伺って介護代行をしています。もうひとつは老犬介護の相談で、こちらは訪問のほかに、オンラインでも行っています。

「飼い主さんが何に困っているか聞いて、アドバイスをしています」と寺井さん

――どんな老犬介護の悩みでも、すぐ解決できるものでしょうか?

「夜鳴きがある」「ぐるぐると回るように歩くようになった」「歩きたがっているけど足腰が立たない」など、いわゆる認知症によるお悩みは、いろいろな訪問先に行っていて察しがつくので、わんちゃんも快適かつご家族も安心する方法をご提案できます。

 ただ、介護道具に関しては、「合う」「合わない」がすごく大きいので、すぐに解決するかは正直わかりません。というのは、わんちゃんによって性格や状態、状況、動き方も違うので。何度もみているわんちゃんの場合は想像ができるので、的確なアドバイスはできると思います。

――私の場合、愛犬が「自力で立てない・歩けない」状態になってからでも、寺井さんが貸してくれた全身を覆う介護用ハーネスでお散歩ができました。他の子だと合わないこともあるんですか?

 そうですね。後ろ脚が弱い子だと、脚を引きずってしまい合わないことがあります。以前、相談を受けたケースだと、「わんちゃんが歩くときにどうしても顔が下を向いてしまって歩きづらい」というのがあったのですが、このときは前脚用のハーネスをご提案しました。試してみてもらったら、すごくよかったそうです。でも、これも合わない子はいるんです。

 わんちゃんの状況も変化するので、今日はこれでよかったけど翌日は合わなくなる……なんてこともありますね。そして、ハーネスもいいのですが、私は歩行器(犬用の車椅子)もおすすめしています。

いくつもの歩行器のサンプルを取りそろえている(左)。用途によって使い分けるハーネス(右)

――愛犬の歩行がたどたどしくなった頃、「そろそろ歩行器を準備してみては?」とアドバイスしてくれたのも寺井さんでした。飼い主としては「まだ早いかな」と思う時期でしたが、後々、早めに準備しておいてよかったとわかりました。

 歩行器は「わんちゃんが完全に歩けなくなったら使うもの」と思われがちですが、「歩く補助」をするもの。だから、「歩けなくなってきたな」「転んじゃうな」「支えなきゃ」という時期になったら、すぐに導入していただきたいですね。

 早めに使い始めると、わんちゃんは使い方をすぐ覚えてくれますが、全身の力が入らなくなってからでは使い方がわからず、せっかく買ったのに、ただ歩行器に支えられて立つだけになってしまうこともあるんです。

 また、老犬になると首が下がったり、ぐでんぐでんと動いたり、のけぞったりする子もいます。ハーネスで支えるにも力がいりますし、ハーネスはわんちゃんの体にゆがみがつきやすくなってしまう難点も。ゆがみがつくとどうなるかと言うと、わんちゃんは自力で立ちにくくなったり、歩きづらくなったり、寝にくくなることもあるんです。

――歩行器は家の中でも、介護が楽になりますよね?

 わんちゃんは自分で歩いている感覚になる上、飼い主さんは介護が楽になるというメリットがありますね。ごはんやお水をあげるとき、抱っこをしながらでは大変ですが、わんちゃんに立っていてもらえるだけで、両手が空きとてもやりやすくなります。

介護グッズの一部。お世話のときは犬の状況に合わせてハーブティーの湿布をしたり(左)、シリンジ、ごはん&お水ボウル、シリコンスプーン、丸形洗浄瓶などを使う

愛犬のために 介護が始まる前から頼れる人を探す

――介護中の悩みとして私が感じたのは、愛犬に合う解決策がなかなか見つけられなかったということ。老犬介護士さんにはどんなタイミングで頼るのがいいでしょうか?

 私の場合、わんちゃんがシニアになったころから、ペットシッターというかたちで関わらせてもらえるといいなと思います。

 いざ介護となると、おむつを替えたり抱っこなど、密着しないとできないことが増えるので、そのときにわんちゃんが「イヤ!」となるとしんどいでしょうから。もう少し前の段階から、家族の補欠みたいな感じで、ときどきお世話をさせてもらえると、過ごしやすくなります。

 わんちゃんは認知症になっても、家族のことはわかってるし、知らない人が家に来たときもわかっているんです。だから長時間お世話をしていると、わんちゃんも私に慣れてくれて、「ごはんくれよー!おやつくれよー!」と要求ができる。さらに、なでられて気持ちよくなってきたから寝ちゃおうかなって。慣れ親しんだ人がいたほうが、わんちゃんにとってはひとりきりより安全で、安心していられるんじゃないかなと思います。

――寺井さんが経験されたなかで、ほかにどんなケースがありましたか?

 家族が数人いてもわんちゃんの介護ができる人が意外と少なくて、特定の人に集中してしまうことがありますね。例えば、4人家族でお母さんがひとりで介護を背負っていたとすると、「私だけが背負ってる……」と孤独感を感じてうつになってしまったり。飼い主さんがうつになってしまうのは、私も悲しいので、その負担を分けて欲しいなと思います。

 介護中は「どうしてものときだけペットシッターを使う」という方がいらっしゃいますが、精神的に大変のこともあるので、できれば日頃から1~2時間は休憩して、お茶したり、映画をみたり、日々の楽しみを少しでも持っておいて欲しいですね。

猫も亀も大好きな寺井さん。抱っこしているのは愛猫のまめちゃん

介護は「ひと工夫」が必要です

――ペットシッターの利用や介護相談は、犬にとってどんなメリットがありますか?

 わんちゃんが床ずれしないようなベッドのご提案で、眠りの質の向上が期待できます。シニアになると寝ている時間が長くなるので、体圧分散するベッドを適切に選ぶことが大事なんです。

 あとは、その子にあったおむつで、快適に過ごすことができます。女の子だと人間の赤ちゃん用のおむつひとつでいいけど、男の子だとひとつではむずかしく、マナータイプをプラスしたり、でも動きの激しい子だとマナータイプもずれてしまい尿漏れしてしまう……。そうすると、わんちゃんも気持ち悪いし、ご家族はお掃除もありますよね。

――おむつ選びって意外と難しい! 

 大型犬のおむつ問題もけっこうあるんですよ。おむつ自体が大きくなる上、寝たきりになると、おしりをすっぽり覆うタイプを付けるのは大変! 今度は人間の介護用品も使ったりするんです。

常備しているおむつは犬用、赤ちゃん用、大人用とさまざま

――私も愛犬の歩行器にクッションを入れたり、さまざまな場面でしょっちゅう調整をしていました。

 介護では何かと工夫は必要ですね。それを知っておくと、「うちの子はハーネスが使えなかった」「ジグザグに動いて壁にあたって動けなくなるから歩行器は使えない」などというときも使えるような工夫ができ、すぐにあきらめずにすみます。

 そして、一度うまくいっても終わりではないんですよね。なので「合わないかもしれないけど試してみてください」といろいろご提案しています。

ベッドは低反発や高反発など、その子にあったものをご提案。2週間の貸し出しもしている

わんちゃんたちは、ずっと家族のことが大好き

――寺井さんが訪問先で気をつけていることは何でしょうか?

 自然体でいることですね。私が緊張すると、わんちゃんも緊張しちゃうんですよ。だから私はお客様の家にいても、自然体でいるようにしています。それから、もちろんお客様との信頼関係も大事にしてます。留守の間に他人が居るわけですから。だからその間の報告をしっかりするとかは基本的なことですよね。気をつけています。

――寺井さんは会社勤めを経て、本当に好きなことをやりたいと始めた介助犬育成団体のボランティア、そして介助犬の介護をきっかけに老犬介護士になったそうです。

 介護に関する悩みやお困り事は、犬の介護士に相談して欲しいと思うのですが、実際のところ老犬介護士がまだまだ少なく、犬に介護があること自体、あまり知られていないんです。課題だなと思っています。

――今まで200軒を超える家庭の犬をお世話してきた介護経験豊富な寺井さんが、介護をしている飼い主さんに伝えたいことは何でしょうか?

 わんちゃんたちは、何歳になっても家族が大好きだし、どんな状況でも、家族のことはすぐにわかります。目が見えない、耳が遠くなっていようとも、しっかり覚えているし、ずっと大好きなので、それは覚えておいて欲しいです。たくさん声をかけて、褒めて、楽しく過ごして欲しいなと思います。

寺井聖恵(てらい・まさえ)
老犬介護士、シニアドッグアドバイザー、介護セミナー講師。ドッグヘルパー One by One代表。今まで200軒以上の家でシニア犬の介護をし、メンタルと体の両方からのケアに精通。2017年に犬の植物療法士の猪野麻未子さんとドッグライブリー協会を共同主宰。介護予防になる「愛犬のアンチエイジング・エクササイズ」「愛犬といっしょにバランスボール」などのクラスが人気。2022年12月3日から「シニアドッグ介護習得コース」が全7回で開講。現在、参加者募集中。

小見山友子
2020年4月~sippo編集部に所属。 ファッション業界に従事後、オウンドメディアの編集長をする傍ら、2014年にWEBマガジン「INUTONEKOTO」を主宰。2015年にフリーライター・編集者として独立。ペット、ファッション、旅、サーフィン関連の執筆、編集をしている。instagram @tomokokomiyama

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