犬らしくなくてもいい 我が家に来た子犬たち、気づけば猫のように顔を洗い一緒に遊ぶ
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
竹脇家に子犬が来る!?
もうすぐ夏がやってくる。
真冬生まれの私は暑いのが大の苦手で、中学生以降の夏休みはクーラーの利いた部屋で映画を見たり本を読んだり、深夜の音楽番組を見て夜更かししては昼寝をしたり、まるで猫のような生活をしていた。
普段、学校から帰宅するやいなや習い事や猫たちの世話でバタバタしているので、家族も休み中のグウタラな私を黙認していた。
高校生になって、やっぱり真夏の昼間に猫を抱えて昼寝をしていると、母がやってきて
「麻衣ちゃん、ね、相談があるの。子犬を飼ってもいい?」
と言った。私は寝ぼけた頭で
「なぁに……?子犬……?」と聞き返すと、母がいつも行っているゴルフ場で、子犬の引き取り手を探しているというのだ。
1匹かと思ったら…
猫が大勢いるなかで子犬を飼うのには、どうしたって私の協力がいると考えたのだろう。
私は寝ぼけた頭で「いいんじゃない?」と言ったけれど、すぐに子犬がやってくる興奮と、猫たち大丈夫かな、という不安でいっぱいになった。
翌日、私の許可を得た母は意気揚々と、朝早くから車でゴルフ場へ向かい3匹の子犬を連れて戻ってきた。
ん?3匹……?
子猫とは違い、むちむちでまんまるで活発な子犬が3匹、コロコロと部屋中を走り回り始めた。猫たちはさぞ驚くかと思ったが、なんのことはない「はいはい、また新しいのがやってきましたか」という風情で、別段気にすることもなく、子犬たちはあっさりと竹脇家になじんでいった。
ただ、子犬たちは大きな人間や長い棒状のものを極端に怖がった。きっと心無い人間がいたのだろう。けれどありがたいことに私の家は広く、猫たちも遊び相手になってくれている。お散歩はとりあえず行かなくてもいいか、ということになった。
そしてこの怖がりの子犬たちに、少々悪くてもヤンチャでもいいから強くなってほしいという願いを込めて、男の子たちに「カポネ」「ルパン」、女の子はゴルフ場のコースの名前から「さくら」という名前をつけた。
3匹はとても仲が良く、いつもわちゃわちゃと一緒に行動し、猫たちからはきっちり教育されて優しく穏やかな犬に育った。体が猫たちの数倍の大きさになっても、そんなことには全く気がついていないんじゃないかと思うくらい、猫たちを慕っていた。
そして家中の椅子の脚や柱は、あっという間にボロボロになり、ソファは人間が座れないシロモノになっていたけれど、母は裁縫が得意だったので動物たち用になんとなくリフォームされていった。
猫化していく犬たち
私はいつも床にぺたんと座り、犬や猫たちと自然と視線が近くなった。そして私もカポネもルパンもさくらも、どんどん猫化していった。
おっとりしてハンサムで臆病なカポネ、天真らんまんでひょうきんなルパン、優しくて妹気質のさくらちゃん。私のかわいいかわいい犬たち。
少し大きくなってからお散歩に連れて行こうと試みたけれど、全てを怖がって動けなくなってしまったので、お散歩は断念した。気づけば猫と同じように顔を洗い、猫たちと楽しそうにしている。なにも犬として暮らさなくてもいいよ。君たちは君たちだ、そう思った。
3匹があまりにも特別すぎたから、多分、私はもう犬と暮らすことはない。
犬と猫の匂いが半分ずつする、肉球がずっと柔らかくて怖がりの、私の特別な犬たち。
もしかしたら虹の橋を渡った彼らは、他の犬たちにお散歩の楽しさや、他の犬や飼い主さんたちと出会うことのトキメキを聞いているかもしれない。
いつかあちらでみんなと再会した時、初めてするお散歩が楽しみでならない。
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