老犬の看取りボランティア 中途半端な気持ちで携われないが互いに高めあえる関係に
保護犬や保護猫たちの力になりたい。そう考える人が増えている今、シェルターの運営や譲渡先が見つかるまでの一時預かりなど、さまざまな形のボランティアがあることも知られるようになりました。なかでも「看取(みと)りボランティア」をご存じでしょうか。今回の主人公は、野村克也さんという、なんともユーモラスな名前をもつ柴犬のノムさん。「看取りボランティア」として、彼を受け入れたあすかさんに、その暮らしぶりを伺います。
老犬の最期を見守り、支えるボランティア
――数あるボランティアのなかでも、「看取りボランティア」に携わるようになったきっかけを教えてください。
あるメディアで「行き場のない動物たちの最期を家庭で温かく迎えてあげる」という内容が紹介されていて、興味をもったのがきっかけです。私はすでに保護犬2匹を迎え入れていていましたが、その子たちが病気になったことで、少しの間、仕事を制限することになりました。
愛犬を見つつも、時間の余裕ができたことで、何かしらのボランティアに携わりたいと思うように。ただ自分の犬のことがあるので、シェルターに通って運営ボランティアに関わるのは難しいし、預かりボランティアは散歩やトレーニングなど日々のしつけが多く、手が回らないかもという心配がありました。そこで、もちろん介護は大変ですが、家で愛犬を見ながらも力を注げる「看取りボランティア」に携わることになったのです。
――看取りボランティアをするにあたって、どんな準備を整えましたか?
私が関わったのは、愛知県名古屋市にある「ファミーユ」という特定非営利活動法人のボランティア団体です。私の場合は、まず団体の代表さんと面談をして、自分の生活状況や動物の飼育環境などを話しました。団体からは、フードやおむつはシェルターに取りに来てもらうこと、同じく医療も団体提携の病院にかかること、私の家はシェルターから車で1時間ほどかかるため、それでも大丈夫かという確認がありました。
また、そのあと必要になる物品は、団体とその都度相談しながら、寄付されたものを借りるのか、こちらで購入するのか、などを決めていきました。
保護犬とボランティアを団体がマッチング
――さて、ノムさんを迎え入れた経緯を教えてください。
初回の面談のあとでさらに自宅訪問があり、その後2~3週間ほどで、殺処分寸前の犬がいるからどうかという連絡が入りました。保健所が記入した情報シートが送られてくるとともに、鳴きもかみもせず凶暴性がないことなどを知らされ、写真を拝見。すぐに代表さんとシェルター長さんが引き取りに行き、直接自宅まで連れてきてくれました。
譲渡会などで実際に犬を見て、この子を家族として迎え入れたい!と老犬を引き取るのではなく、条件や環境などを鑑みて、団体さんがしっかり選んでくれた犬を引き受ける。そこが老犬の譲渡先になることと看取りボランティアの大きな違いだと私は思います。うちは一軒家で広い庭があるので、ノムさんのような中型犬が来てくれました。
――ノムさんを迎え入れてからの暮らしぶりは?
最初は、ノムさんはもちろん、先住犬にストレスがかからないように、ケージに入れておくようアドバイスがありました。ただノムさんは外飼いされていたようで、ケージに入れるとひどく鳴くのです。結局、穏やかでマイペースな性格もあり、数日でケージは撤去。当時はまだノムさんは歩けたので、うちの子たちがリビングと庭を行き来するのを見て、ノムさんも行ったり来たり。少しずつ私たちの暮らしになじんでいきました。
医療は団体と提携病院と相談しながら
――生き物を育てる上で、やはり気になるのが、食費、医療費、介護費などの経済面です。
最初の段階で説明があったとおり、フードとおやつ、おむつはシェルターにあるので、定期的に受け取りに行きます。医療は、団体が提携している病院があるので、そこにかかることに。実はノムさんの本名は、野村克也と言います(笑)。ファミーユのワンちゃんは、みな偉人のお名前がついているそうで、ほかに樹木希林さんや宍戸錠さんもいらっしゃるとか。
病院の待合室では「ファミーユの野村克也さーん」と呼ばれ、主治医の先生は「克也くん」と呼びます。お会計では「ファミーユの野村克也です」と名乗りますが、そこで私自身が支払いをすることはありません。治療の選択の相談は、先生が代表さんと、また私自身も代表さんと相談して進めていきます。今まで、フード、おむつ、そして幸いに医療費も支払ったことはないですね。
――さらに「看取る」ということについて、教えてください。
私はノムさんが初めてなので、まだ「看取りボランティア」として預かった子を看取ったことはありませんが、過去に一度、団体のお葬式に参列したことがありました。そのときは、前日に亡くなった子で、ボランティアの方がシェルターに亡きがらを連れてきて、お坊さんにお経を上げてもらい、スタッフさんほか10人ぐらいでお別れをしました。お坊さんもお寺さんも提携しているところがあるようで、その流れに沿って、旅立ちを見送るのだと思います。
ボランティアを持続可能なものにするために
――「看取りボランティア」を始めて感じたこと、またあらためてあすかさんに芽生えた思いはありますか?
ノムさんの認知症が進行して、さらに愛犬たちの具合が悪くなって病院通いが続いたとき、「これは甘かったな」とすごく自分を責めた時期がありました。動物の役に立ちたいと始めたボランティアのはずなのに、それが果たせていないように感じて、一気に気分が落ち込んでしまったんです。
そのときは、アニマルコミュニケーションを学んでいたので、ノムさんの気持ちを知ることから始めました。すると、闇雲にほえたり、寝ずに騒いているわけではなく、不安な気持ちを私に伝えてくれていたんだと理解できました。お互いに辛さを抱えているのはよくないと、医師や代表さんにも相談してお薬を飲んでもらうことに。私自身は、家族や代表さんほか、人を頼ることで少しずつ回復していきました。
今は、先住犬の2匹は亡くなり、新たに野犬の風(ふう)ちゃんを迎え入れ、試行錯誤しながらも気持ち穏やかに暮らしています。ボランティアは中途半端な気持ちで携わることはできないけれど、始めることで、学びながらお互いを高め合えることもわかりました。
そして何より、動物を幸せにするには、自分が幸せであることが大切だということも実感。私は今、3時間ほどであれば、水とごはんをきちんと用意して外出もしています。自分を犠牲にするのではなく、楽しみにながらお世話する。ボランティアを持続可能なものにするために、今はそんなふうに考えているんです。
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