真冬に猫の鳴き声…屋根から下りられなくなっていた! 7日目に救助、今は家族募集中
真冬の深夜に鳴き続けていた猫は、次の日も次の日も鳴き続けた。屋根から下りられなくなっていたのだ。近くに住んでいて声を聞きつけた女性は、放っておけずにいろいろな手段を思いあぐねる。その家の住人は、猫のことだからと、救出に乗り気ではない。雪の予報が出ていた。
鳴き続ける猫の声はどこから?
さっきから、どこからか猫の鳴き声が聞こえてくる。千葉県のとある町に暮らす高橋さんは、耳をそばだてた。日付が変わろうとしている今年の1月31日の、静まり返った深夜のことである。
「すぐ近くの空き地に時々猫がいるのを見かけるので、ベランダに出て下をのぞいてみましたが、見当たらず、気になりながら寝てしまいました」
翌朝、空き地近くの一軒家の屋根の上に茶トラの猫がいるのを見つけた。子猫とは言えないが、おとなにもなっていないようだ。
屋根に向かって、木の枝の先が伸びている。猫はそこから下りたそうにしてはためらうのを繰り返しては鳴いている。きっと、枝から屋根に飛び移ったものの、屋根から細い枝には怖くて飛べないのだろう。
この寒空に、幼い猫があのまま下りられなかったら……。以前聞いた、屋根から下りられずに餓死した猫の話が頭をよぎった。
できることをやるしかない
高橋さんは、その家の人と面識はなかったが、思い切って玄関のベルを鳴らした。応答はない。
こうした場合の相談に乗ってもらえるのではないかと、市の環境保全課に電話をかけて、状況を説明した。返事は、こうだった。「敷地内ですので、そのお宅が動かなければ、こちらも動けません。そのお宅の方が消防署を呼べば、猫を下ろすお手伝いはできると思いますよ」
高橋さんは、手紙を書くことにした。
「お宅の屋根の上で、きのうから猫がずっと鳴いていて、屋根から下りられないようです。何とかしてやっていただけないでしょうか。住んでいる方が消防署に電話をかければ、下ろすのをお手伝いしてくれるそうです」
そう書いて、郵便受けに入れた。
対応を待っていたが、猫は鳴き続けているので、交番に行った。「ピンポンを鳴らしたり、手紙を入れたりしたんですけど……」と相談すると、警官は「訪ねてみます」と言ってくれた。
その家の前まで行った警官は、庭に猫がいるのを見て「ああ、自分で下りられたんだ」と安心して、そのまま帰ってしまった。ところが、庭にいたのは、同じ茶トラのきょうだい猫だったようで、屋根には相変わらず下りられない猫がいたのだった。
ほかに何かよい手だてはないか、ネットで検索を続けた。
保護活動をしている女性にSOS
3日目。呼び鈴を押すと、その家の娘さんが出てきて、話をすることができた。猫を嫌がっている家主は消防を呼ぶなどのおおごとにしたくないとのことだった。「自力で登ったのなら、猫だったら下りられるでしょう」と考えているようだった。だが、娘さんは「何とかしましょう」と言ってくれた。
借りてきた大きな脚立はしごを屋根に立てかけたが、小さめの猫には下りられそうもない。束ねたすだれを、屋根と枝に橋のように結び付けてみたが、空振り。
「水も飲んでないし、食べてないし、雪の予報まで出ました。雪が降る前に何とかしなくちゃ!と焦りました」
夜になり、娘さんが、2階ベランダに餌入り段ボールを置いてくれた。おなかがペコペコだった猫は、屋根から、ちょっと離れたベランダに決死のジャンプ。段ボールの中に入った。
だが、翌日の日中は屋根に飛び乗り、夜はまた段ボールの中へ。
猫の屋根生活は5日目になっていた。市内で保護活動をしている齊藤さんとはすでにネットでつながり、2日目よりアドバイスをもらっていたので、いよいよ実際の救出のお願いをした。だが、娘さんからは「猫のことはもう心配しないでください」と言われてしまった。
7日目。「段ボールには入るけど、ふたを閉めようとベランダに出ると逃げられてしまう」と、娘さんから連絡が入った。齊藤さんが捕獲器を貸してくれて、それを娘さんが段ボール箱の出口につなげて置いた。すぐに入った!
ルーフと命名、保護猫部屋へ
猫は、かなりくたびれたと見え、痩せて鼻水を垂らしていた。毎晩毎晩、吹きっさらしで、どんなに寒かっただろう。
捕獲器に入った猫はふつうは大暴れするものだが、この猫はおとなしい。鳴くのもピタッとやめている。ただ、人は怖いようだ。
近場で面倒を見ている人も見つからなかったので、齊藤さんは猫を病院に運び、諸検査と去勢手術をしてもらった。「ルーフ」と名付け、自宅の保護部屋へ。きょうだいと思われるもう1匹も手術をしてやりたかったが、その後姿を見せなくなっている。
齊藤さん宅の保護部屋には、8日前に保護した『ロング』という1歳のキジトラの雄猫がいる。ルーフは、ウイルスなどのもしもの感染防止のため、2週間はケージ内に隔離した。
「ロングはとてもフレンドリーな子なので、ケージ越しにチュッチュしたりして、ケージフリーにしたときはもう仲良くなっていましたね。抱っこされるとグルグルいうロングを見て、ルーフも『ニンゲンはそんなに怖いもんじゃない』とわかってきたようです」
齊藤さんの家には、譲渡先募集中の保護部屋の2匹のほかにも、保護後わけあってそのまま家の子にした猫が3匹いる。
お寺の境内で生まれ子猫のときに保護した白猫「ミー」は、器量よしなのになぜか一度も譲渡の問い合わせがなかった。
猫エイズキャリアで全盲の茶白猫「ハピ」は、新入り保護子猫たちの面倒をせっせと見る天使のような猫だ。
同じく猫エイズキャリアでナイーブな白猫「ユキ」は、お見合いのあと決まってストレス性ハゲを作り、そのまま残留。
齊藤さんは言う。
「不思議なんです。保護部屋で一緒になる子は、みんな仲良くなってくれる。だから、保護活動を続けていけるんです。きっと、いろんな思いをした子は、あとからやってきた子の気持ちもわかるんでしょうね」
ルーフは臆病だけどボケッとしたところもあり、とても愛らしい子で、どんどん甘えん坊になるはずと、齊藤さんは見ている。
「できれば優しいロング兄ちゃんと一緒に迎えてくれる家族が現れるのを待っているんです。きっと見つかると思います!」
ちなみに「ルーフ」という名は日本語にすると、「屋根男(やねお)」である。
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