“カムカムエヴリバディ”な猫 新米の子猫を優しく受け入れて2匹は仲良しに
花店を営むある夫妻が、母と先代猫を続けて亡くした。すると家に残った猫が急に鳴くようになったのだ。留守番を1匹でしたことがなく、夫妻が仕事に行くと寂しがるため、悩んでいた。その猫にはかみ癖があり、新たな仲間を迎えるのも難しい。そんな矢先、職場のスタッフから“保護された妊婦猫がいる”と聞いた。考えた揚げ句、子猫を希望すると……。皆がハッピーになった、“贈り物”のような猫の物語。
意を決して迎えた子猫
東京都大田区に住む石黒茂由希さん(62歳)と妻の真美さん(58歳)は、現在、8歳の雄猫カブと、8カ月の雄猫レモンと暮らしている。2匹は共にキジ白模様で、仲良し兄弟のように見えるが、血のつながりはない。
「年も離れているし、こんなに仲良くなると思っていなかったので、私たちもびっくりしています」と、真美さんがうれしそうにいう。
しかし、レモンを迎えるまでは、悩んだという。カブに、猫や人をかんで蹴る癖があったからだ。
「カブはもともと、警察署に拾得物として届いていた子猫でした。夫が警察署に車庫証明を取りにいったら子猫の声が響いていて、“うちで引き取ります”ともらって来たんです。その当時、家には10歳を超える『みかん』と『オネエ』という猫がいたのですが、カブは甘えん坊で、猫や私たち夫婦や同居する母をかんだり蹴ったり。遊びの延長ですが、まさに“カムカム(かむかむ)エヴリバディ”(笑)。それで、新米猫に優しくできるのか心配でした」
それでも真美さんは、カブに「新たな仲間を迎えたい」と強く願った。カブを可愛がっていたみかんが2020年12月に亡くなると、カブが急に大声で鳴くようになったのだ。
真美さんは、渋谷区恵比寿で「ルーモアズ」という花店を夫と営んでいて、ほぼ毎日、仕事に出ている。だが、みかん亡き後、「うにゃあ~(ひとりにしないで~)」というカブの鳴き声が、家の外にまで聞こえてきて後ろ髪をひかれ、仕事に行くのもつらくなった。
「オネエは5年前に亡くなり、その後、カブは日中、みかんと母と過ごしていました。カブは母にも甘えてひざやおなかによ~く乗っかっていましたね。じつは、みかんが逝った年の5月、母も亡くなって……。続けて家族がふたりもいなくなり、カブも寂しかったのでしょう。とはいえ、私もすぐに仲間を探すことはできず、時間が経っていきました」
猫好きな花店スタッフからもらった縁 そしてお見合い
家に帰ると「大丈夫だよ」とカブを抱きしめる。そんな日々を過ごしていた真美さんに、子猫の情報が入ったのは、2021年6月。みかんが逝って半年経った頃だ。
教えてくれたのは、花店のスタッフ浩子さん。浩子さんも猫好きで、職場でよく猫談議をしていたのだという。
「ある日、『うちの猫を保護したご家族が、また猫を保護したのだけど、妊婦猫で、もうすぐ自宅で産む』『子猫が生まれたらもらい手を探す』と。その話を聞いて、えーっと気になりました」
すぐには名乗り出なかったが、「男の子が生まれたら欲しい」と思うようになった。
「みかんの兄妹のオネエはドライな感じでカブにつれなかったので(笑)。迎えるなら女の子でなく男の子がいいと思いました。夫も同じように“そろそろ猫がいたら”と思っていたことを知り、浩子さんを通じ、保護主さんに『男の子を』と立候補したんです」
結局、6月26日に生まれた3匹のうち、1匹が雄だった。7月に真美さん宅への譲渡が決まった後、レモンはゆっくり母猫ときょうだいを過ごし、9月に家に迎えることになったのだった。
それまでの間、真美さんはカブに「お兄ちゃんになるんだよ」とずっと伝えていた。
お見合いは「慎重に」おこなった。レモンを引き取りにいって帰ると、すぐに別室のケージにいれた。
「最初の晩は部屋のドアを閉め、ドアに取り付けた猫ドアも開かないようにしました。
レモンは保護主さんからもらったオモチャで無邪気に遊んで、カブは気配に気づいたよう。翌日カブが、部屋の前であまりにも鳴くので、猫ドアのストッパーを取ってみたら、そこからケージで寝ているレモンを見ていました。そして、そーっと部屋に入っていったんです」
レモンは、カブをケージ越しに見て後ずさり。上のステップに上ったりして、ばたばた若干パニックに。するとカブが「いいよ、じゃあ僕が出ていくね」というように、すぐに部屋から出ていったそうだ。シャーもしなかった。
「カブが大人の対応をして、レモンの気持ちを理解しているように突進もしない。これはいけるかも!と思いました。その後、しばらくして、ケージを開けて、猫ドアも開けると、互いにゆっくり近づいて。でも何かあったら保護主さんに合わせる顔もないので、しっかり見守って……すると鼻を突き合わせて、レモンが後ずさり。カブがふう~んと高い声を出し始めたんで、間に入りました、見合いの1ラウンド終了、ドキドキしました(笑)」
いったんレモンをケージに入れたが、その日のうちに2ラウンド開始。すると、あっという間に打ち解けたそうだ。
「カブはよほど仲間がほしかったのか、寂しかったのか……迎えたタイミングがズバリだったのかもしれないですね」
3~4日すると一緒にくついて寝たが、仕事に出る時、しばらくは別々にした。そして帰宅すると一緒にした。するとお互いにすぐ「会いたかった~」というように近づいたという。
「今はオールフリー。花屋に行く時も安心して留守番させられます。そういえば、カブのあの大鳴きは、レモンが来た日を境にぴたっと止まったんです。そして不思議なことに、カブはレモンにカムカムも一切、しませんでした。小さい子をいたわるように、寄り添ったんです」
優しい愛の連鎖で家も明るく
レモンを迎えて半年。
予想を上回って親しくなった2匹を見て、「猫はすごい」と真美さんがあらためていう。
「カブが8年半前に来た当時、先代の雄のみかんが優しく世話をしてくれたわけですが、おいかけっこ、棒ひろい、などすべて教えてあげました。自分がみかんにそういうふうにしてもらったので、カブもレモンにしてあげているんですね。浩子さんの家でも、先々代の雄猫が先代の雄猫に優しくし、その先代が次の雄猫に優しくし……と同じように優しさの連鎖が起きたと言っていました。私も目の前で連鎖を見て、猫って本当にすごいと思いました」
みかんからの愛をカブが引き継ぎレモンに優しくする。カブもレモンと出会って生き生きする……。そんな2匹を守る真美さん夫妻にも変化が起きたそうだ。
「同居の母が亡くなって、私自身本当につらかったし、みかんが亡くなった時もつらかった。じつはみかんは、私が初めて保護した猫だったんです。暑い夏、(昔の)職場近くで子猫の兄妹を2匹を見つけて、仕事を抜け出して保護して連れ帰り……人生の中でも大きな存在でした」
レモンは、大事な母と猫がいなくなり落ち込んでいた真美さんと夫の心も照らし、家をぱっと明るくしてくれた。レモンを迎え、まさに皆がハッピーになったのだ。
「天真爛漫(らんまん)な姿に救われましたね。紹介してくれた浩子さんはもちろん、保護主さんとも“猫親戚”みたいになって楽しいですし。だいぶレモンも大きくなり、カブはじゃれながら少しカムカムしようとすることもあるけど、レモンは気にしない(笑)。いい相棒です」
このまま元気にカブと仲良く過ごしてくれれば「それで十分」と、真美さんがほほ笑む。
「レモン、来てくれて本当にありがとう。私にとって、家族にとって、最高の贈り物よ」
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