獣医師監修 春のフィラリア検査に併せて愛犬の健康診断を受けよう
蚊に刺されることでかかる寄生虫疾患「犬フィラリア症」予防の季節が今年も到来します。フィラリア予防薬を飲み始める前には、必ず寄生の有無を調べる「フィラリア検査」を受ける必要があり、これは犬から血液をとって確認します。
さて、ここ数年で、このフィラリア検査と同時に「健康診断」を進める動物病院が増えてきました。主には、「採血が必要となるこの機会に、せっかくなら血液検査もしましょう」というものです。
この“春の健康診断”について、その意義と留意点について紹介します。
愛犬の健康維持と病気の早期発見に欠かせない健康診断
病気の早期発見・早期治療は、犬が健康でいられる時間を長くするために欠かせません。
「症状は出ていなくとも体の中で起こっている異常を早くに見つける。もの言えぬ動物たちに代わって、それができるのが健康診断です」
と話してくださったのは「ゼファー動物病院」院長の上條圭司先生です。
例えば肝臓病や心臓病などの慢性疾患も、末期の状態から治療をスタートするのに比べて、健康診断などで異常が出た時点で食事療法をしたり薬を服用したりすることができれば、病気の進行を遅らせ、症状を出さずに長い期間元気でいられることにつながります。
愛犬が少しでも長く元気に過ごしていくために、健康診断は大切なことなのです。
どこからどこまでが健康診断と言えるのか
犬の健康診断も人間同様、項目を増やすほどにつぶさに調べていくことが可能になります。
最も身近な内容としては、動物病院に訪れた際に獣医師が行う「問診」「視診」「触診」「聴診」も健康診断の一部と言えます。
「血液検査」や「レントゲン検査」、「尿検査」は健康診断の一般的な項目。
また、レントゲンやエコーよりさらに詳細かつ正確に調べることができるものとして、全身麻酔が必要になるため一般的ではないとはいえ、「CT」と「MRI」による画像診断もあります。
どこまで愛犬に受けさせるかの最終判断は飼い主がするところですが、そのためには健康診断のベースとなる項目を知っておくことが必要でしょう。
健康診断の基本項目
実際には獣医師に相談しながら内容を決めていくことがお勧めですが、指針となる基本項目をまずは知っておきましょう。
下記項目は、しっかりと行う健康診断ではかならず受けたい項目になります。
【健康診断の基本項目】
1) 問診・・・愛犬の状態を獣医師に伝える
2) 視診・・・目、耳、歯、毛艶、歩き方など、外から見て異常がないかどうかを確認
3) 触診・・・体表をまんべんなく触って、肥満、しこりの有無、関節などを確認
4) 聴診・・・心音や呼吸音、心拍数、腸の動きに異常がないかを確認
5) 便検査・・・寄生虫や出血の有無、消化器に異常がないかなどを確認
6) 尿検査・・・腎臓の病気、膀胱炎や尿路結石などの泌尿器の病気、糖尿病の有無を確認
7) レントゲン・・・胸部と腹部をとり、肺と循環器、各臓器の異常の有無を調べる
8) 血液検査・・・貧血の有無や、肝臓、腎臓などの働きが正常かどうかなどを調べる
9) 眼科検査・・・視診に加え、専用の機器を使い緑内障や白内障の有無を調べる
10)歯科検査・・・歯石や歯肉炎の状態を確認。また口内に異常がないかどうかも調べる
※上記に加え、エコーのある病院ではエコー検査も基本項目として推奨される
また、健康診断の項目は、年齢や犬種、大型犬か小型犬かなどでも留意する点が異なってきます。
小型犬に比べ大型犬は拡張型心筋症にかかりやすいため心疾患を検出できる項目をオプションでプラスする、ガンが多いとされるレトリーバー犬種は脾臓と心臓の腫瘍の有無を調べるエコー検査を実施したりするなどです。
フィラリア検査と一緒に血液検査を
ところで、春はフィラリア検査に加え、狂犬病予防接種の時期でもあり、動物病院は1年で最も忙しい繁忙期となります。
フィラリア検査と同時に血液検査ができれば犬の負担を減らせる一方、しっかり話して診てもらい、結果をじっくり聞くという面からは、あえてこの時期に健康診断をしなくてもよいのではないか、という見方もできます。
この点において、上條先生は「血液検査だけでも、受けておく意義は大きい」と話します。
「健康診断で調べられることの中で、血液検査でわかることの割合は大きいです。また数値が少しおかしいぞとなれば、さらに詳しく調べていこうとなりますよね。血液検査が次の検査への入り口となるのは、よくあることなんです」
愛犬の基準値を知るための血液検査
また、血液検査には“愛犬の基準値を知っておく”という意義もあります。
血液検査の基準値というのは、健康な犬の血液を調べたデータで、あくまで平均値の指標に過ぎません。
そのため、ある一項目の数値が悪かったとしても、子犬の頃からずっとそうなのであれば、その犬にとっては正常値という判断になります。
シニア期に入り、健康診断をしてみたら数値が悪かったというようなとき、それが異常なのかどうか、それまでの履歴は判断材料のひとつとなります。
子犬期のワクチンプログラムや去勢・避妊手術を終えると一気に動物病院から遠ざかってしまうことがありますが、元気盛りの成犬時も継続的に検査を受け、その子の基準値を知っておくこと、また数値に変化がないかどうかを追っていくことが理想なのです。
そのきっかけとしても、春のフィラリア検査に併せて血液検査をしておくというのは、非常に有意義なことと言えるのです。
秋の健康診断と春の簡易健康診断
注意したいのは、血液検査だけで十分かと言われたら、それは違う、という点です。
例えば、結石や糖尿病の有無は血液検査ではわからず、尿検査が必須です。
そのため、先に紹介した基本の検査項目はしっかり満たしていくことが大切です。
愛犬が6歳を過ぎたら、秋にしっかりとした健康診断を受け、それから半年後の春のフィラリア検査で、経過観察として血液検査を実施するのがおすすめです。
ひとところでは、人間の寿命と置き換えたとき、犬の年2回の健康診断は人の3年に1度のペースと同じと言われています。
秋の健康診断と、春の簡易的な健康診断を、若い頃から心掛けていきましょう。
継続して診てもらう「かかりつけ医」を持つ
最後に、健康診断を継続的に受けていくことと等しく大切なのが、継続して愛犬を診てもらうかかりつけ医の存在です。
愛犬の小さな変化に最初に気づけるのは飼い主ですが、その小さな変化をもって「どうも元気がないのです」と初めての獣医師に診てもらったところで、それが本来の性格なのか、何か疾患によるものなのか、よくわからないというのが本音です。
また、体重や毛艶などの変化も、継続して診てもらうことでアドバイスをもらえるものです。
紹介状が必要となることが多い専門外来(二次診療)とは異なり、かかりつけ(一次診療)はすべての飼い主とペットに開かれた動物病院です。それは、愛犬に何かあってから行く場所ではなく、愛犬の健康維持・病気の早期発見のための動物病院でもあるということなのです。
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