動物病院がバックアップ 「70歳からパピーとキトンと暮らすプログラム」
人生の最後までペットと生きる方法を探る本シリーズでは、これまで、万が一の時に備える選択肢として、ペット信託や互助会などを紹介してきました。今回は、“高齢になっても飼える”可能性を開く取り組みを取り上げます。
保護犬や保護猫の譲渡は現状、飼い主に何かあった時にペットを路頭に迷わせることがないよう、新しい飼い主の年齢のボーダーは60歳とされていることがほとんどです。しかし一方で、年齢的な壁をなくそうという動きも出てきています。
そのひとつが「赤坂動物病院」(東京都港区)の「70歳からパピーとキトンと暮らすプログラム」。柴内晶子院長にお話を伺いました。
高齢者にも保護犬・保護猫を譲渡
――プログラムの概要を教えてください。
ご高齢でも、準備ができており、共に暮らすことに問題がない方に、伴侶動物である犬や猫を譲渡し、見守っていきます。必要に応じ、動物看護師による電話や訪問でのサポートも実施。来院が困難な場合は往診も行っています。
――譲渡するのは子犬や子猫なのですか?
子犬や子猫もいますが、ほとんどは成犬、成猫です。
プログラムの名前に“パピー(子犬)”“キトン(子猫)”とつけたのは、平均寿命を人間86歳、犬猫は約14歳としたとき、70歳から子犬・子猫と暮らすとちょうど一緒ぐらいに生涯を全うできるというイメージからなんです。
――譲渡するのは犬や猫はどこから来ているのですか?
プログラムに登場する子たちはみな保護犬や保護猫です。獣医師のネットワークから引き受けたり、病院に通っている方が保護して連れてきたり、「ちよだニャンとなる会」「ちばわん」などの保護団体から来ることもあります。
――どんな手順をふみますか?
これは年齢に関わらずですが、インタビュー(面接)で共に暮らせる状況かどうかをしっかり確認したうえで、適切な医療を与えることや十分な動物福祉の実行、必要に応じた教育も行う、などの約束ごとを記した覚え書に署名いただきます。
共に暮らし続けられなくなるなど、万一の時の準備もお願いします。後を託すのは家族に限らず友人など、動物を介したつながりも増えています。全部は難しいのですが、病院で引き取って新しい家族を探すお約束をすることもあります。
――譲渡に費用は発生しますか?
ケースバイケースですが、譲渡に関しては特に設定しておらず、いただくのはワクチン代といった病気予防の費用などです。
――対象は病院の利用者ですか?
主にはそうですが、限定はしていません。通院も必須ではありませんが、見守るために、通っていただけると理想的です。
近くでこのようなシステムや機会がない場合も、あきらめず働きかけていってほしいと思います。意識も高まってきており、こうした取り組みへの支援者も増えてくるはずです。
70歳以上こそ動物と暮らしてほしい
1963年創業。来年60周年を迎える「赤坂動物病院」は、365日開院の、伴侶動物と家族の強い味方。また、高齢者施設、小学校、病院などへボランティア訪問する、JAHA(日本動物病院協会)の「CAPP活動(人と動物のふれあい活動)」にも積極的に取り組んでいます。
「70歳からパピーとキトンと暮らすプログラム」を始めたのは15年ほど前。
「保護犬・保護猫の譲渡は創業時から行っています。一般的には60歳を過ぎると譲渡が難しくなりますが、むしろ70歳以上こそ動物と暮らすことが大切な時期だと考えてスタートしました」
「CAPP活動の現場では、高齢者施設のスタッフの方々から、動物とふれあう刺激を通じ、笑顔が出たり、日常動作のポテンシャルが上がったりするなど、施設利用者さんの明らかな変化があるというお声をいただきます。高齢者が伴侶動物と暮らすことの効果について世界的な視野で論文を探すと、本人の通院回数が2割減るというものもあります(※。ADL(日常生活動作)が落ちにくいこともわかっており、いいことがいっぱい。年間医療費が高額に達する我が国としてもメリットは大きく、こうした取り組みを行政が推進していけると素晴らしいなと考えています」
(注釈)
※参考:「ペットがもたらす健康効果」(人と動物の関係学研究チーム編著/社会保険出版社)
これまでのプログラム利用は約20組。
例えば、70代の姉妹にはプードルの成犬を譲渡しました。80歳前の女性に生後数カ月の猫を譲渡したケースでは、何かあったら病院が引き取る約束を交わしているそう。
「いずれもワクチン接種などで通院いただいており、今のところ再引取りになったことも、問題が起きたこともありません。70歳以上でも、行き場のない伴侶動物を幸せにできる人は大勢います。60歳がボーダーというのももっともなのですが、一律NOではなく、譲渡可能にする方法を考えていくことが必要です」
伴侶動物と暮らすことでいきいきと幸せに
「ペットと最後まで一緒にいたい」という思いについては、こんな言葉をいただきました。
「人間の遺伝子には、犬や猫と一緒にいる喜びが刷り込まれていると思います。アレルギーであったり動物が苦手だったりする人もいますが、CAPP活動で教育現場や小児病棟などへ赴くと、小さい子になるほどほぼ全員動物にふれたがることから、本能だと実感しています」
「犬は3~4万年前、猫は1万年前から人間と一緒に暮らしています。遥か昔に共生を選んだ、まさに奇跡のパートナーであり、彼らと暮らすことで、この地球でどう生きればよいのかも考えさせられます。大切なことを忘れないための自然界からのギフトとも言えるでしょう。そんな伴侶動物とできるだけ長く一緒にいることで、いきいきと、幸せに暮らしてほしいと思います」
人間と動物、双方にとってハッピーで、「希望を持つことができた」という声も多く聞かれるプログラム。こんな取り組みが社会に広がることが望まれます。
(次回は3月5日公開予定です)
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