美猫ぞろいの大所帯 はじまりは台風の夜に出会った黒猫の「トキ」

 都内の住宅街にあるS子さんの家は、近所ではちょっと知られた存在だ。
 通りに面した1階の窓辺に、いつも猫が座ってこちらを向いているからだ。

(末尾に写真特集があります)

猫7匹と犬1匹の大家族

 窓辺の猫は1匹のこともあれば3匹のこともある。柄は、黒やキジ白、白がメインで部分的に縞や斑模様が入っているなど、さまざま。どの猫も毛艶がよく顔立ちは穏やかで、通り過ぎる人は思わず足を止める。猫の組み合わせは日によって違うので、「今日は白い子がいないね」などと話す親子連れもいる。

2匹の猫
「縞柄しっぽのリンです」「キジ白のフウよ、文句あんの」(小林写函撮影)

 S子さん宅に、猫は全部で7匹いる。名前は「トキ」「リン」「リュウ」「フウ」「ライ」「ソン」「ロン」。年齢は半年から4歳で、漫画「北斗の拳」の登場人物からつけられている。ここにマルチーズの子犬の「レイ」と、夫と小中学生の息子2人がS子さんの家族だ。

 なかなかの大所帯だが、最初からこうなることを想定していたわけではない。

台風が通過したある日の夜

 最初に家にやってきたのは「トキ」だった。4年前の夏になる。

 台風が通過した日の夜、家の裏で鳴きはじめた猫の声が夜半前になってもおさまらず、S子さんは気が気ではなかった。

 S子さんは実家にいた頃、多いときは7〜8匹の猫と暮らしていた。かつては野良だった猫も多く、外の生活の厳しさは理解していた。

黒猫
「トキだよ。昔からいるんだ。ソファーにも溶け込んでるだろ」(小林写函撮影)

 今、外で鳴いているのは、声の様子からして子猫だろうと想像できた。見に行ってしまえば放置することはできない。

 意を決して足を運ぶと、黒い子猫が坂道の下で、流れてくる水にびしょぬれになりながら必死に声を上げていた。

 夫に連絡をし、そのまま手のひらにのせて家に運び、温かいシャワーでからだをきれいに洗った。ノミの寄生がひどかったので、S子さんは家族と、当時飼っていた初代マルチーズの「フェリー」から子猫を隔離するため、1階のリビングで1人、子猫をおなかの上にのせて眠った。

近所で評判の動物病院へ

 翌日、動物病院に子猫を連れて行った。

 S子さんの実家近くにあり、歴代の猫たちを診てもらった近所でも評判の病院だった。

 院長は高齢の男性獣医師で、受付スタッフや看護師もおかず、すべての業務を1人で行う「ワンオペ」の病院だった。ぶっきらぼうで必要最低限のことしか語らず、飼い主を客扱いはしない。だが見立ては確かで、診察は手早いが丁寧だ。

 そして、常に何らかの割引料金が適用されるという不思議な会計で、料金はほかに類を見ない安さだった。

 ノミ・ダニ駆除をしてもらい、健康状態に問題のなかった子猫はまだ推定1カ月の雄で、授乳が必要とのこと。その方法を教わり、子猫用のミルクとスポイトをもらって帰宅した。

子猫は家族に。そして2匹目を考える

 子猫の存在に目を輝かせたのは、当時小学2年生の次男だった。動物全般に興味がなく、家の犬にも愛着を示さない子だったので驚いた。小さなからだで走り回る子猫の愛らしさに夢中になり、「僕がちゃんと世話をするから、家で飼いたい」と懇願した。

 こうして「トキ」と名付けられた子猫の世話を、次男は約束通りよくやった。ご飯をあげたり遊んだりすることはもちろん、排泄物の処理や猫砂の交換も率先して行った。

 すると、今度は2つ年上の長男が「自分の猫が欲しい」と言い出した。子猫にベッタリの弟へのジェラシーか、兄弟と同じおもちゃを欲しがる子どもならでは心理かもしれなかった。

 猫をもう1匹迎えることは、トキにとっても仲間ができて都合がよいと夫妻は考えた。活発なトキはしょっちゅうフェリーを追いかけ回し、ときに噛み付き、シニア犬のフェリーは明らかに迷惑そうだったからだ。

譲渡の条件は「2匹一緒に」

 トキが来てから数カ月後の週末、隣町の大きな公園で保護犬、保護猫の譲渡会が行われると聞き家族ででかけた。

 しかし、行ってみると猫はおらず、犬だけの譲渡会だった。「話が違う」とふてくされている長男をなだめるため、夫妻は大急ぎで近くで行われている猫限定の譲渡会をスマートフォンで検索し、約10km離れた場所へ車で向かった。

 そこには子猫がたくさんいたが、家族として迎えたい来場者も多かった。希望の猫に複数の申し込みが入った場合は抽選になるとのこと。長男の希望に沿って申込用紙に第3希望まで記入したところ、後日当選したとの連絡が入った。

階段にいる黒猫
「ソンといいます。ロンというよく似た姉妹がいます」(小林写函撮影)

 だだしその子猫は「2匹一緒に受け入れることが可能なら」という条件付きだった。落選する確率のほうが高いと踏んでいたので嬉しかったし、猫は1匹も2匹も変わらないと考え、引き受けることにした。

 こうして白い毛がメインで頭と尻尾がキジトラ柄の女の子「リン」、白地に黒い斑柄の男の子「リュウ」が、新たに家族に加わった。

 さらに猫の数は増えていく。

(次回へ続く)

(次回は1月28日公開予定です)

[前の回]保護猫の「主膳」と「ルーク」 2匹のもとに家族は集い、家は再びにぎやかになった

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
動物病院の待合室から
犬や猫の飼い主にとって、身近な存在である動物病院。その動物病院の待合室を舞台に、そこに集う獣医師や動物看護師、ペットとその飼い主のストーリーをつづります。
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