保護猫の「主膳」と「ルーク」 2匹のもとに家族は集い、家は再びにぎやかになった

「真っ白な猫が欲しい」
 都内のマンションに大学生の息子と中学生の娘と暮らすYさんが、その娘の願いを叶えようと、保護猫シェルター併設カフェ&スペース「すあま商會」に娘と2人で訪れたのは、心地よい秋晴れの日だった。

(末尾に写真特集があります)

キジ白の「主膳」と真っ白な「ルーク」

 猫を飼うことにしたのは、昔から動物と暮らしたがっていた子どもたちのためだったが、自分のためでもあった。去年夫を亡くし、広くなったリビングの雰囲気が、猫がいることで変わるのではと考えたからだ。

「すあま商會」の保護猫シェルターには、数匹の猫が暮らしていた。白猫はいなかったが、「主膳」という名の推定5カ月のキジ白の子猫が、Yさんたちの心を捉えた。大きな耳と、くりっと丸い目が愛らしい雄猫で、とても人懐っこく、少し一緒にいただけで甘えん坊とわかる性格だった。

 1週間後、正式に主膳にトライアルの申し込みをするため、再び「すあま商會」を訪れた。すると、ちょうど白い子猫がシェルターに入ったと聞かされた。

「ルーク」という推定4カ月の雄猫で、夏の日の夜、雨の降る中うずくまっていたところを保護されたそうだ。1カ月近く動物病院で過ごしたのちに連れて来られたのだという。まだ人慣れが十分ではなく、さわろうとすると威嚇して怪我をする危険もあると、店主のすあまさんから言われた。

「主膳です。僕はシェルターで人気者だったんだよ」(小林写函撮影)

 娘はしばらくの間、白い毛と吸い込まれるような淡い青い目をしたルークを見つめていた。そして、ケージにすっと手をのばすと、ルークをなではじめた。

 Yさんは慌てた。だがルークは、威嚇するどころか、心地よさそうに身をゆだねていた。Yさんもつられて手をのばすと、やはり同じようになでることができた。「そーっとさわれば、大丈夫だって思ったんだ」と、あとでうれしそうに娘は話した。

 こうして、主膳とルーク2匹一緒にトライアルを開始することになった。

トライアルを開始

 Yさんは実家にいた頃、猫を飼っていたことはあった。だが完全室内飼いは初めての経験だった。大きめのケージをリビングの一角に用意し、脱走防止対策も万全にした。

 トライアルをはじめてすぐ、主膳がルークに飛びかかり、それに応戦したルークが主膳のあごに噛み付いて、けがを負わせたことがあった。Yさんは驚き、2匹の相性に不安を覚え、すあまさんに相談をした。

 シェルターにいたときから喧嘩のような、じゃれあいのような行動は見られた。ただ、どちらかが劣勢ではなく、互角にやりあっているなら問題はないだろう。主膳のけがは、ルークがほかの猫たちと触れあった経験が浅く、甘噛みを知らないからだろうとの判断だった。

「ルークです。寝る前に歯を磨かなきゃ」(小林写函撮影)

 すあまさんが主膳を病院に連れて行ってくれ、ことなきを得た。

 活発で向こう見ずなところがある主膳と、警戒心が強く慎重派のルークだが、相性は悪くないようだった。性格が違うからこそ、お互いの行動を見て学ぶことがあるようだった。また日中、家の人間が留守をしていても、2匹一緒にいることで寂しさも薄れる気がした。

 ちょっかいを出すのはいつも主膳だ。それで一悶着あるとハラハラするが、すぐにけろっとして、2匹は同じ猫ベッドの中でくっついている。

 まるで兄弟みたいな2匹は、Yさんの家族になった。

動物病院が欠かせない存在に

 かかりつけの医院は、同じマンション内で動物を飼っている友人や知人に聞いて決めた。地元で開業して40年以上の獣医師が院長を務める病院で、勤務医が数名おり、休診日がない。どの獣医師も、こちらのわからないことを丁寧に説明してくれる。

 やんちゃな主膳は、Yさんの家に来て以来約2カ月間、ほどんどエリザベスカラーをして過ごしている。ルークとのじゃれあいや、いたずらをして軽いけがをするのは日常茶飯事で、ほかの猫なら普通に治ってしまうところ、自分で傷口をなめたりかじったりして悪化させてしまうからだ。

 最近では足の指をけがした。エリザベスカラーだけでは「舐めぐせ」を防ぐことができず、ドーナツ形のクッションのようなムーンカラーとのダブルになった。それでも懲りずに、ひょこひょこリビングを歩き回っている。

 一方、ルークはおなかをこわしやすく、下痢止めや抗生物質が必要なことも多い。意外だったのは、ルークのほうが薬を飲ませやすいことだ。ケージのハンモックの中でくつろいでいるところを抱き上げる。すると驚いてかたまり、動かなくなるので、病院で教えてもらったように口を開けて薬を放り込にのどをさすれば、ゴクッと飲み込んでくれる。

「お母さん、お兄さん、お姉さん、安住の地をありがとう」(小林写函撮影)

 主膳は、だっこは大好きなのに束縛されるのは嫌なようだ。娘と2人がかりでも捕まえようとすると暴れる。それで、ウェットフードの中に砕いて混ぜる方法で与えることにした。

 ちなみにルークは「ケージの中にじっとしていると、引きづり出されて薬を飲まされる」と学習したらしい。投薬が必要になってからはケージから出て、リビングのソファやローテーブルの下などでくつろぐ機会が増えた。

 自分の世界ができ、部屋にこもりがちになる年齢の息子と娘も、猫の顔を見に集まってくる。

 2匹の猫が来てから、Yさんの家のリビングは、再びにぎやかになった。

(次回は1月14日公開予定です)

[前の回]保護した野良猫が人を激しく威嚇 先住猫3匹は自然に受け入れ、私たちは家族になった

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
動物病院の待合室から
犬や猫の飼い主にとって、身近な存在である動物病院。その動物病院の待合室を舞台に、そこに集う獣医師や動物看護師、ペットとその飼い主のストーリーをつづります。
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