保護した野良猫が人を激しく威嚇 先住猫3匹は自然に受け入れ、私たちは家族になった

 インテリア関係の仕事をしている京子さんは、夫と3匹の保護猫「みり」「こぴ」「れお」と、緑と水に恵まれた街の一軒家に暮らしていた。

 2020年11月のある日、職場の裏の老夫婦の家に、外で暮らす黒猫親子が現れることを知った。京子さんは老夫婦の協力のもとに猫を保護し、去勢・避妊手術を受けさせることにした。

(末尾に写真特集があります)

なかなか捕まらなかった母猫

 老夫婦の知り合いの保護団体から1台、京子さんと懇意にしている保護団体から1台、合わせて2台の捕獲器を借り、猫が現れる家の玄関に仕掛けた。

 子猫はすぐに捕まった。推定5カ月の雄で去勢手術を行った。預かりボランティアの家であっというまに人になれ、その愛らしい様子を京子さんが自身のSNSに上げると、たちまち譲渡先がみつかった。

 しかし、母猫は、なかなか捕まらなかった。

窓際の猫
「ぷんです。今回は私の話です」(小林写函撮影)

 警戒する母猫をやっと捕獲できたのは、12月下旬だった。動物病院に連れて行くと「栄養状態が悪く痩せており、ひどい貧血で体力がなく避妊手術は難しい」という診断だった。

 京子さんは手術ができる体調になるまで自宅で面倒をみると決め、家にケージを用意し、猫を迎えた。

生粋の野良猫だった

 その猫は、かつて京子さんが接したことのない「生粋の野良猫」だった。

 京子さんがケージに近づくだけで「シャーッ」と激しく威嚇し、フードを入れた器を差し込むと前脚で激しくはたき落とした。

 敵対心と警戒心むき出しの形相と行為におびえつつも、「手術が受けられる状態になるまでに回復させる」という目標を遂行すべく、京子さんは猫の世話をした。なまり節やカツオなど鉄分の多い食材を与えるのが貧血にはよいと聞き、栄養価の高いキャットフードとともに積極的に与えた。

 トイレ掃除のためにケージに頭を入れると、毎回本気の猫パンチが頭から降ってくる。
「あなたはどうしていつもそんなにぷんぷん怒っているの。だったら『ぷんちゃん』と呼んじゃうよ」

 それで、猫の名前は「ぷんちゃん」になった。

階段の途中の猫
「長女のみりです。みんな集まってるのかな」(小林写函撮影)

 1カ月が過ぎてもぷんちゃんの威嚇は変わらず、夜鳴きも激しかった。だが体がしだいにふっくらしてきて、ふとした瞬間に見せた舌の色が以前に比べて赤く健康的な色になっていることを確認した機に、動物病院に連れて行った。

 院長は40代の男性獣医師で、野良猫や地域猫など、外で暮らす猫の扱いには慣れていた。

 診断と検査の結果、貧血も改善されており健康状態も良好であるため、避妊手術ができることになった。

「1カ月前に診たときは正直、あとどのぐらい生きられるかなという状態だったんですよ。よくここまで持ち直しましたね」

 院長の言葉に、京子さんは「動物看護師」として認めらたような気持ちになった。

中ぶらりんの状態

 避妊手術が無事終わり、ワクチン接種などの初期医療も施してもらったぷんちゃんを京子さんは迎えに行き、再びケージ越しに世話をする日々が続いた。だが「避妊手術をする」に続く次の目標を、どこに定めればいいのか中ぶらりんの状態だった。

 手術をしたことで夜鳴きはおさまったが、威嚇や猫パンチは相変わらずだった。ぷんちゃんは推定10歳で、疾患は持っていないが、「まれに見る凶暴猫だから、世話をするときは手袋をしたほうがいいですよ」と院長からアドバイスをされるほどだった。

のぞき込む猫
「次女のこぴです。そっちからは進入禁止よ」(小林写函撮影)

 この状態で譲渡先をみつけるのはまず無理だろう。かといって、リリースは考えられない。では京子さん自身が家の猫にするかというと、その決心もつかなかった。徐々に情がわいていることは自覚していたが、まだ「怖い」という思いが強かった。

 棒の先に歯ブラシをつけた自作の道具をケージに差し込んでのどをなでるなど「家猫レッスン」も試みた。だがあまり効果はみられなかった。

 ぷんちゃんのケージはリビングに置いていた。家の中で自由に動き回っている3匹の姉弟猫、みり、こぴ、れおが、ぷんちゃんの目にはどのように映るのだろうか。「凶暴」とはいえ、ケージに閉じ込めておくことに疑問も感じはじめていた。

そろりそろりと出てきた

 そんな京子さんの気持ちを着地点へと導いたのは、3匹の猫たちだった。

 猫たちは、ケージ越しでは折り合いは悪くないようだった。威嚇したり攻撃し合うこともなく、いい意味で無関心だった。

 その中で、長女のみりは、ときどきケージの前でぷんちゃんと向かいあっていることがあった。まるでみりが「あなた、いつまでそこに入っているの、そろそろ出てきなさいよ」と話しかけているように京子さんには見えた。

眠る猫
「れおです。僕ら仲いいんだ。たぶん」(小林写函撮影)

 ぷんちゃんが家に来て3カ月が過ぎた頃、京子さんが夫婦そろって休みの日に、思い切ってケージの扉を開けた。

 最初は様子を見ていたぷんちゃんは、そろりそろりと出てくると、家の中の探検をはじめた。

 3匹の猫たちは「あ、出てきたの」という様子でちらっとぷんちゃんに視線を送っただけで、変わらず個々の活動を続けた。

 その日、ぷんちゃんはキャットタワーのてっぺんでくつろぎ、そのまま眠った。

 こうして、ぷんちゃんは京子さんの家の4匹目の猫になった。

(次回は12月9日に公開予定です)

【前の回】クールな姉妹猫の元に人懐っこい猫がやってきた すると少しずつ家族の距離が縮まった

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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この連載について
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